第7話 【百貨店ですか……】
赤い顔のままシャギーは、一つ咳ばらいをし、
「んんっ! とりあえず指輪をはめてみろ」
「うん」
「はめたら、さっき俺に魔力を流したように、指輪に魔力を流してみろ」
イースは言われた通りに、魔力を指輪に流した。一瞬また風が通りすぎ、そこにはイースはおらず、見知らぬ少年が居た。
その少年は、東洋系の顔をした黒目、左前髪に一房金髪があるちょっと癖っ毛の黒髪。かわいい系のイケメンだった。
「えっ?変われた?ねぇどうなの?」
「ちょっと待てって、今、鏡みせるから」
まるで、新しいおもちゃをもらった幼子の様にはしゃぐイースに、シャギーは苦笑しながらさっきの女優ミラーを渡す。
鏡を見たイースは、
「これが僕、ホントに変われたんだ!」
まじまじと、今までと全く違う自分を見て、
「なんだか、違いすぎて実感がないや」
「まあ、いずれはその顔で生活することになるから、そのうち気にならなくなるさ」
と言うシャギーは、いつもの赤毛のシャギーに戻っていた。
「……えっ?戻っちゃたの?」
いつものシャギーに、イースはまた少し怖さも戻る。
「さっきの黒髪の方が、絶対いいと思うよ(僕の心の平和の為にも…)」
シャギーは指輪をポーチにしまいながら、
「今の所、まだあの姿ではいられないな。あのままでは門は出られないだろ?」
「えっ、どうして?」
「どうしてって……考えてみろよ。赤毛の俺と金髪のおまえとの二人連れがこの街で行方不明になり、黒髪の二人連れが違法入国したことになるだろ?」
言われてみれば、つじつまが合わなくなってしまう。
「……あっ、そうか……」
少し残念、……いや、かなり残念なイースであった。
「だいたい、どうやってあの姿で宿を出るんだ?」
シャギーとイースが、突然姿をくらましたことになるし、泊めた覚えのない黒髪の二人連れも、無断で宿泊したことになる。
「そだね……」
「お前も、指輪をはずせ。その姿でいるには、ちょっと工夫をする必要があるからな。まあ、任せおけって!」
イースが外した指輪を受け取り、ポーチに戻した。
イースはふと思い出し、旅に出た時から疑問に思っていた事を聞く。
「…ねぇ、シャギー。聞きたいことが有るんだけど。いいかな?」
「ん、何だ?」
「アイテムボックスが有るなら、僕にあの荷物もたせる必要ってないんじゃないの?…」
「ああ……あれか」
と言って、荷物に目をやり、持ってこようと手をかけるが、シャギーの力では引きずって来るのが精一杯で、
「くっそ重たいな‼」
自分で用意したのに、悪態をつく。
それを見たイースは荷物に近寄り、軽々とベッドのそばまで持って来た。
「おう!さずが剛力だな!」
「……そうは言うけど、ダンジョンに行く時はこんなもんじゃ無かったよね?もっと、僕でも持つのが大変なくらい持たせていたでしょ?」
「……あー、悪い。……すまん。今謝ってもしょうがないんだが、ホントにすまなかったな」
「……いいよ。思い返してみれば、シャギーの荷物ってあまりなかったしね。僕に気を使ってくれたんでしょ?」
「……まぁ、いくぶんな……」
少し気落ちしたような様子で答えた。
今度は、打って変わって、いたずらを企んでいるような顔で、
「それより荷物開けてみろよ」
「…………⁉」
開けてびっくり、細々とした旅の荷物の下に入っていたのは、2リットルのペットボトルの水がケースで2箱入っていた。
「何これ⁉」
「ホントの事を言えばお前の言う通り、アイテムボックスがあるから、荷物持ちはいらないんだけどな。剛力が必要な体裁を整えるために、それらしい重さのもんを用意したのさ」
とんでもない品物の出現に、
「……それは良いけど、どっから前世の物を持ってきたの⁉」
水と言い、さっきのクレンジングクリームといい、この世界ではありえない物ばかりである。
「そう。まぁ、俺のステータスが関係しているんだな」
と言って、説明を始める。
「俺のスキルの中に『百貨店』と言うのがあって、普通に考えるとデパートなんだが、俺のは文字通りありとあらゆる物が買える仕組みになっているんだ」
イースは、ラノベに出てきそうな、奇想天外なスキルにあきれて、
「何、その変なスキル?…………でも、買えるって、どうやって?」
「ちょっと待て、お前にウインドが見えるかどうか? 今、出してみるから」
それに応えて、ウインドを出した。
「見えるか?」
「あっ、見える! ……って、何これーーー⁉」
そこには、ネット通販的な画面が現れた。いったい全体何でこんな事になっているのか不思議である。
イースの戸惑いをよそに、次を指示するシャギー。
「物を買うには金が必要になる。そこでだ、下の方に『買取ボックス』があるだろ?」
「うん」
「そこに、……ん~そうだな、さっきのペットボトル一本近づけてみろ」
イースは、さっきの箱から水を一本取り出し、『買取ボックス』に近づけると、
「あっ! 吸い込まれちゃった!」
「買取ボックスの下に、買取金額が出てるだろ?」
「……銅貨1枚……? って、何で、こっちのお金なの?」
「……俺に聞かれても、俺が設定した訳じゃないからなぁ~、それにここには日本の円は無いしな」
このスキルウインドの、通販サイトの様な品物の値段は、だいたい前世の日本と同じくらいなのだが、お金の単位がラドランダー大陸の物である。買取金額は半値位であるらしい。
シャギーは初めて『百貨店』を使った時を思いだしながら、
「初めて見たときは、お前と同じくらい驚いてな、何を買い取ってもらえるか散々試したさ」
「で、何を買い取ってもらえたの?」
しばしの沈黙の後、
「……何でも。極端な話、道端の石ころや雑草、ゴミでも買い取ったさ」
「……なにそれ?」
「まっ、石にせよ雑草にせよゴミにせよ、かなりの量が無いとまともな金額にはならないけどな」
「……でしょうね」
変に納得するのであった。
「まあ、この『百貨店』がすごくてな、今度はどんな物が買えるか色々見たんだ、けど……」
「で、何が買えるの?」
こうなると、何が買えるのかワクワクである。
「小さなものは爪楊枝一本から、大きなものは……原子力空母やスペースシャトル……」
一瞬耳を疑った。
「…………はっ?」
「いや! 買わないけど‼ ってか、金額が大きすぎて買えんけどな‼ んで、たとえ買えたとしても、維持や管理が出来ないだろ!」
シャーギーは慌てて否定した。が、本当の所はゼロを数えているうちに、怖くなってそのページを閉じたというのが、真相である。
「とにかく、この『百貨店』で買えないものは『寿命』と『命』位だよ」
「……なんか、すごいね……」
「…そうだな…」
言葉が無くなるイースであった。