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第7話  【リョウの犯罪?】

 それから20日後、イエロキー聖教国の聖都サマリーアートの冒険者ギルドに、アレッドカ共和国の首都トラルーシュの冒険者ギルドから正式な使者が来た。トラルーシュの冒険者ギルドのギルドマスター、ヴィーゴである。


 彼曰く、ここのギルドに所属している『ブラット』のリョウが、アレッドカ共和国宰主アルスラの妻を力ずくで強姦したので、犯罪者として引き渡してほしいと要求してきた。


「ほう? リョウがそんな事をしたと?」

「はい。あいつはガキの頃アレッドカに居まして、その時、現宰主の妻であるゾフィヤ様と恋仲だったんです。先日『二角ボーガル』討伐依頼でアレッドカに来た時に、ゾフィヤ様を見かけて、自分を抑えきれなく無くなったんでしょうね、嫌がるゾフィヤ様を力ずくで事に及んだと言う事です」


 リョウが考えていた通りの展開になった。だが、しかし、ここはリョウの悪知恵が上回っていた。


「それはいつの事でしょうか?」

 ムーンシャナーもリョウの悪知恵に一役買っているので、白々しく問いかける。


「あれは、20日前の事です。そちらでも、『ブラット』をアレッドカに派遣しているのですから、お判りのはずでは?」


 ムーンシャナーは、不審そうな表情を作り、

「確かに、派遣する予定になってはいますが、リョウはひと月程前からロザリード辺境伯『シャギーリース』として、領地にかかりっきりなっていまして、まだそちらへの依頼への派遣が難しい状況なんです。ですから、その頃…………20日前でしたか? 彼はブラクロックの自分の領地に居たはずです」

 

ヴィーゴは色々返しを予想してはいたが、これは予想外の展開で、

「…………はっ?」

 思わず間の抜けた返事になってしまった。


思いもしなかった返答に慌てたヴィーゴは、

「あっ、いや! こちらとしても、目撃者大勢いるんです。あれは間違いなく『ブラット』のリョウです‼」

「と言われましても、リョウ…………この場合はシャギーリース卿と言った方が良いでしょう。彼は本当に領地でひと月前からトラブルにかかり切りになっていて、ろくにイエロキーに戻って来ないんですよ。彼ら『ブラット』指名の依頼が溜まってしまっていて、こちらも困っている状況なんです」


「…………」

 ヴィーゴは完全に返事に窮してしまっていた。


「お疑いでしたら、ロザリード迄確認に行ってみたらいかがですか?」

「…………しかし、ブラクロックに行くまで結構時間がかかりますし、ましてやロザリードは辺境の土地。私の一存ではおいそれと動く事は出来ません」


 こんな事は想定していなかったが、良く考えればあり得る展開ではあると思い至った。アルスラや己の考えが甘かったと言える。


 だがここで、驚くべき提案をムーンシャナーが出してきた。

「もしそちらが構わないのであれば、今からロザリードに送る事が出来ますが? どうします?」


「…………今から?…………ロザリードに送る?」

 言っている意味が分からない。


「シャギーリース卿ことリョウは特級魔導士であるのはご存じですよね? 彼は、以前から転移の魔法陣の研究をしておりまして、元々あった古代魔法の転移陣を、小魔力で使える様に改良に成功したんです。ですので、ここからロザリードに今すぐ送る事は可能なんです」


 ヴィーゴは驚きに目を見開き、己の迂闊さに悔んでも悔やみきれない思いになっていた。そうだった、あいつは転移の魔法が使えるのだ。今、思い出しても後の祭りであるのだが。あの日、宰主邸で忽然と姿を消した訳が分かる。『ブラット』の片割れと共に転移の魔法で逃げたのだ。


 気を決し、ヴィーゴはムーンシャナーに、

「お願いします。私は、何としてもゾフィヤ様を傷つけた犯人を、捕まえなければならないので。本当にリョウが犯人かどうか見極めなければなりません!」


 その言葉にムーンシャナーは薄く笑いながら、

「では、準備をしますので、ここでしばらく待っていて下さい」

 と言って、部屋を出て行った。心の内では、

(フン! 小者が! リョウの言う通りだな。あいつの未来はもうそんなに長くは無いな!)


 部屋に残されたヴィーゴであったが、部屋の中にはギルマス助手のアーノルドが残っていたので、あまり目立つ事も出来ずにジリジリと時間が過ぎるのを待っている。


(だめだな。こいつはギルマスの器じゃ無い‼)

 密かにアーノルドにもダメ出しをくらっていた、ヴィーゴだった。



 準備が出来たと、ギルドの職員がヴィーゴを呼びに来た。向かった先は『ブラット』の私室だが、この部屋が『ブラット』の私室と言う事を、当然彼は知らない。


 部屋の真ん中に薄青く光る魔法陣がある。これが、転移の魔法陣かとヴィーゴは思ったが、

「では、この魔法陣の真ん中に立ってください」

 とギルドの職員に言われ、急かされる様に魔法陣に立たされた。


 実は、まだ人を送れる程の転移陣の改良は出来ていないのだが、種明かしをすると、この魔法陣の隅に隠ぺいの魔法で姿を消したセイが立っている。

 そのセイが、魔力を流してロザリードまで一緒に転移すると言う事なのだ。



 軽いめまいの様な気分の後、目を開けると、そこはギルドの部屋では無く、趣味の良い調度品が置かれた貴族の部屋だった。


「ようこそ、ロザリード辺境伯邸へ」


 と声を掛けられた方へ眼をやると、そこには貴族然とした、佇まいのリョウことシャギーリースが立っていた。


 今日のシャギーのコスプレ衣装は、いかにも貴族ですと言うような贅を凝らした物を着ている。シャギーリースのシンボルカラーの赤を貴色として、差し色に黒を使った見事な衣装である。


 その佇まいも立派なもので、他者を圧倒するような威厳さえ感じさせている。


 その威厳に圧倒されたのかヴィーゴはすぐに言葉が出なかった。


「どうかされたか? 俺に用があると聞いたのだが?…………まあ、立ち話もなんだ、こちらへどうぞ」

 と、ソファーへ誘導され、座らされた。


 そこにメイド長のソフィアが、シーレルワインを入れたグラスを運んで来て、シャギーリースとヴィーゴの前に置いた。


 シャギーリースはグラスを掲げて、色を見たり香りを嗅いで、

「ふむ、これは良い出来のワインだ! 良かったら味見をしてくれ」

 と言って、シャギーリースは美味しそうにワインに口を付ける。


 一方ヴィーゴは、出されたワインに口を付ける事は出来ない。アレッドカでのコーヒーの件がある。中に何か入れられていてもおかしくないからだ。



 自分の目の前で足を組んで座っている人物は、あきらかに先日捕まえたリョウとは人が違う。そう、思わせる程の人格の違いである。

 顔自体は、あの時指輪を外した時に現れた顔と同じだが、先日のリョウは、いかにも冒険者ですと言った風体だったが、この目の前の男は、貴族! ただその一言に尽きる。


 これではこの男を、女を力ずくで犯した犯人だと訴えるのには無理がある。それ程の人物に見えるのだ。このままでは、自分たちが計画していた事は出来ないし、計画倒れになってしまう。

 しかし、自分も組織を束ねる長である、このままオメオメとアレッドカに帰る訳にはいかない。


 意を決して、

「20日程前に『ブラット』のリョウと名乗る男が、アレッドカ共和国の宰主夫人を力ずくで犯した事件があったのです。そのリョウを名乗った男は、すぐに行方をくらましてしまって、ですからこうして私が『ブラット』のリョウを強姦罪の犯人として捕まえに来た訳です」


面白そうな、下らない事を聞いた様な、侮蔑のこもった眼をヴィーゴに向けて、

「フン! なかなか面白い事になっているな」

「御館様! その様に呑気な事をおっしゃっていては困ります。貴方様の尊厳が汚されているのでよ!」

 シャギーリースの補佐についているマルクスが、これでもかと憤慨ふんがいしている。


一方シュテハンは、シャギーならやり兼ねないと真に受けたようで、

「シャギーリース! お前はそんな事をしたのか? 最低だな!」

顔を赤くして、怒っている。


シャギーは呆れながら、

「おい! シュテハン! お前は何わけの分からない事を言っている! 20日前と言ったら例のゴタゴタの後始末で、ここにいる全員3日程徹夜だっただろう! どこに、俺が、アレッドカまで行く余裕が有ったって言うんだ⁉」

ここ数日忙しかった事を思い出させるように、言い返している。


 もうこうなると、ヴィーゴはどうするか判断が出来ない。

 ここにいる全員が口裏を合わせていると思うのが妥当だが、本当に別の人間がアレッドカに来たとも考える事が出来るのである。


 そんな時シャギーリースが、

「貴殿も、責任があるだろうから、ここロザリードで、思う存分俺の事を調べてくれてかまない。しばらくの滞在を許可する。イエロキーの方に、戻るのであればこちらに言ってくれ。すぐに転移させよう」


 こうして、ヴィーゴはシャギーの裏取りの為にロザリードに滞在する事になった。


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