第4話 【セイ(イース)の過去】
イエロキーの国境門都市を出てから、1週間後にはアレッドカ共和国の西の国境門都市セノイーバに到着した。
車での移動なので、割とのんびり寄り道などしながら来たが、それでも1週間で到着する事が出来た。ブラクロックの時と大違いである。
ここから首都のトラルーシュまでの移動は、やはり馬車になる。しかし、長距離を延々乗って行く訳では無いので、気が楽と言えば楽だった。
首都のトラルーシュに着いた二人は、とりあえず街中を見て回る事にした。
「凄いね! どこの街でも活気に溢れているよね。以前は、こんな感じじゃ無かったのに」
「…………トラルーシュに来た事が有るのか?」
「…………」
「…まあ、話したくないなら無理に話す事は無いさ。その内、お前が話したくなったらその時に聞くよ」
リョウは、セイが奴隷として売り買いされていた事を知ってはいたが、詳しい事は聞いていないし、無理に聞き出そうともしていなかった。ただ、今のセイの態度からトラルーシュで何か有ったんだろうと、リョウは察しを付けた。
「ブラクロックで兄さんの秘密を聞いてから、僕も今までの事を話そうとは思ってはいたんだ。でも、なかなか話す切っ掛けが無くて…………」
「だから、無理するな。人にはどうしても話したくない事の一つや二つは有るんだから」
いつもの様にセイの頭に手を乗せ、クシャクシャと髪をかき混ぜるリョウ。
そのリョウの優しさは、『光の聖剣』から救ってくれた時から分かっていたし、セイは自分がその優しさに甘えている自覚はある。だから、リョウの秘密を知った時に、自分がいつまでもリョウに甘えてばかりでは無く、リョウの力になりたいといつも考えていた。でも、奴隷の子供時代の話をするには、もっと強い勇気が欲しかった。
「…………今聞いて欲しい! 今話さないといけない気がするんだ!」
セイの強い意志を感じたリョウは、
「じゃぁ、飯でも食いながらにするか? 人が多い程他の奴の話し声なんかが聞こえずらいからな」
と言って、近場で繁盛している飯屋に入って、適当に食べる物を注文したが、この店はロザリードのシーレルワインが置いてあった。ブラクロックから距離も有るので輸送費がかかるにも関わらず、かなり安めの値段で提供されている。
「経済力って凄いね! こんなにブラクロックから離れていても、お金の力で何とかしちゃうんだからね」
セイのその言葉に、一口ワインを飲んだリョウが小声で、
(セイ、このワイン、水で嵩増してあるぞ!)
(えっ! ホント⁉)
(ああ、味が薄いし、香りも全く無い!)
(で、安くなるって事か)
(そう言う事だろうな)
薄利多売の見本の様なものである。シーレルワインを水で薄めても、エールと比べると格段に美味い酒である事に変わりは無いので、飛ぶように売れている。
めしは美味いが、ワインは残念な食事をしながら、セイはポツリポツリと話始めた。
僕は物心ついた時から奴隷だった。大きな仲間も小さな仲間もみんないっしょくたに、狭い部屋に押し込められて暮らしていたんだ。
食べる物も1日1度あれば良い方で、酷い時なんかは3~4日無い日も有ったよ。
それでもみんな何とか生きて来た。…………けど、小さい仲間は食べる物が少なくなると1人2人と死んでいったんだ。
悔しかったよ。人買いはみんな良いもの食べてお酒を飲んで贅沢していたのに、僕たちはその残飯でさえ食べる事が出来なかったからね。残飯は家畜に与えられていたから、僕たちは家畜以下って事だったんだと思う。
まあ、でも殴るとか蹴るとか暴力は無かったんだ。今にして思えば、奴隷に傷が付いてると価値が下がるし、ケガなんかしていたら奴隷として働く事なんか出来やしないからね。
でも、だったら食事が与えられずに体力が無いってのはどうかと思うけど、人買いにとってはそんな事はどうでも良かったのかな?
で、ある程度の年齢になると、教会で洗礼を受けてスキルを授かるんだけど、皆いっしょくたに受けるから、後の方になると時間が足りなくなって、僕みたいにいい加減なステータスの確定になっちゃうみたいなんだ。
あの時シャギーが僕のステータスをちゃんと確定してくれていなかったら、今でも僕は中途半端なままっだったと思うと、ホント、シャギーには感謝しかないよ。
僕は、『剛力』のスキルを貰ったから、仕事は主に力仕事だったんだけど…………自分で言うのは恥ずかしいけど、イースって見た目可愛いでしょ? だから、剛力以外の目的で買われた事も有ったんだ。
…………その…………何て言うか、子供をおもちゃにする嫌な大人にね。女の人も、時には大人の男にもおもちゃにされたよ。
「もいい‼ やめろ‼ それ以上言わなくていいから、もう、お前が傷つく様な事を言うな‼」
人としての尊厳を踏みにじる様な、胸糞が悪くなる様なセイの話に、思わず大声を上げテーブルをドンと叩いたリョウに、周りに居た者が皆一斉にこちらを向く。
その周りの様子に気が付かないリョウは、俯いて、握った拳に血が滲む程力が入っている。
「ありがとう、兄さん! 僕はそう言ってくれる兄さんが大好きだ!……でも、もう少し話を聞いて欲しいんだ」
で、今まで話してきた事全部が、ここセノイーバでの出来事だったんだ。ホント言うと、今回ここには来たく無かった。でも、ブラクロックに兄さんも行きたく無かったのに、行ったんだと思うと僕も行かなきゃって思ったんだ。
「バカヤロウ! 俺とお前じゃ状況が違いすぎるだろうに!」
前回ブラクロックに行った自分の行動が、今回のセイのアレッドカ行きを決意させたかと思うと、リョウは少なからず申し訳なさを感じた。
「違わないって! 僕も兄さんも心が傷ついた事に変わりは無いんだから! それに、今までのこの煮え切らない感情を吹っ切る良い機会になるかもって、思ってたりもしたからね」
そんなこんなで、あちこちに売られて、最後にたどり着いたのが『光の聖剣』だったんだ。
あの当時は色々ありすぎて、もう死ぬ事しか考えていなくてさ、シャギーのあの特訓が嫌で嫌でたまらなかったよ。何の為にこんな事しなくちゃならないのかって。
でも、後でシャギーから色々話を聞いて、初めて、ああ、シャギーはこんなにも僕の事を考えてくれていたんだってね。
本当に嬉しかったんだ。ありがとうシャギー!
そのセイの心からの笑顔と感謝に、リョウは少し顔を赤らめ恥ずかしそうに眼を逸らし、
「そんな、御大層なもんじゃねぇよ。ただ、同胞の相方が欲しかっただけだ!」
と、ツンデレの様な返事をしていた。
今までの話からすると、セイの前世での記憶がいつ戻ったのか分からなかったので、
「そうすると、お前はいつ前世を思い出したんだ?」
「ん~…………その~…………悪い男におもちゃにされている最中だったかな」
「……………………ごめん! 悪い! すまん!」
いいよ、そんなに謝らなくてさ。もう済んだ過去の事だし、兄さんも言っていてじゃない、過去は変えらられないってね。
ホント、あんな最中に前世を思い出したから、高校生の自分がこんな恥ずかしい目に遭っているなんて、速攻で死にたくなったよ。
でも、それこそ心は大人でも体は子供だから、自分ではどうにも出来ないじゃない? 大人しく言いなりになるしかなかったよ。
まあでも、前世を思い出した事によって、良い事も有ったよ。なんたって知恵と知識だあるからね。うまく立ち回って、あの地獄から脱出したんだ!
それからは、前世の事は絶対誰にも気付かれないように気を付けていたのに、『光の聖剣』であんな独り言を言っていたなんて、ホントあの時の僕は生きていたく無かったんだな~って、今更ながらに思うよ。
「すまんな。そんな過去があるって分かっていたら、あんなシゴキをしなかったんだがな」
「だから! 兄さんが謝らなくって良いってば! 全部、僕の為にしてくれた事でしょ⁉」
「でもな~…………」
「もう! それ以上そんな事言ったら、体中の骨全部バキバキに折っちゃうよ‼」
「だから、それは勘弁してくれ~!」
いつもの、二人に戻った笑いに包まれた。




