第3話 【南に行こう⁉】
「所で、リョウは前世は何をしていたんだ?」
唐突にアーノルドに聞かれ、
「えっ? 何ですか? 急に」
「いや、何、これだけ色々とやらかしている位だから、前世は何をしていたか気になるじゃないか?」
「そうだな、私もそれは聞きたいな」
面白がりながらムーンシャナーも加わって、リョウの前世を聞いてきた。別に隠し立てする程の事でも無いので、
「そうですね、ラドランダー的に言うのなら、騎士になる為の教育機関にいたと言う事になりますかね」
「………お前は今も、前世も、戦う事が好きなんだな?」
「チョッと違いますね、前世の教育は確かに戦うための訓練もしていましたが、戦いをいかに避けるかと言う事も学んでいたんですよ。まあ、その辺の事は今話すには時間が足りませんので、また今度言う事で」
防衛大学の事をこの世界の人間に理解させるのは、一苦労だなとリョウは適当に話を打ち切ろうとしたが、記憶持ちが珍しいからか質問が止まらない。
「では、どうやってこのラドランダーに、転生…………で良かったか? したんだ」
「ああ、それはですね、向こうの年齢で21歳の時に、事故に遭って命を落としたんですよ。で、前世の記憶が戻ったのは、あのくそ親に『白の魔森』に捨てられた時でしたね。それまでは、貴族としての考え方や行動ををする普通の子供でしたよ」
「あぁ…………悪い事を聞いたな。すまん!」
「別に、良いですよ。過ぎた事ですし、それにもう前世には戻る事が出来ませんからね」
ラドランダーでも過酷な生き方をしてきたリョウが、前世も事故で命を落としたとは、ムーンシャナーもアーノルドもかける言葉が見つからなかった。
少し微妙になった空気を換えようと、ムーンシャナーが討伐の話に戻す。
「で、初めの話に戻るが、二角ボーガルの討伐の件だが、こうなると討伐の依頼も怪しい。そんなS級魔物の討伐など、お前達2人でとは考えられないしな」
「もしかすると、ここ最近の『ブラット』の活躍と、リョウのシャギーリースとしての事で、アルスラ宰主がお前に会いたがっていると考えても良いのかもな」
「どちらにしても、正規の依頼ですから行かない訳にはいかないですよね?」
「まあ、そうなるな」
と言う事で『ブラット』は、今度は南のアレッドカ共和国に行く事となった。
アレッドカに行くのに際し、リョウはマリアーナに説明するに為、ロザリードに転移で帰って行った。
正直気が重い。マリアーナになんて言われるか、なんとなく想像できてしまう自分が居る。
「…………と言う訳で、アレッドカ共和国に行く事になった。結婚したてなのに、マリアーナに寂しい思いをさせてしまうが、すまんな」
「もう‼ この間ずっと帰って来なくて、やっと毎日帰って来ると思ったら、今度は遠いアレッドカですって! 結婚する時に約束したじゃない、泣かせないって。私、泣いちゃうわよ!」
「いや、本当にゴメン! 夜には必ず転移で帰って来るから、勘弁してくれ!」
シャギーの胸をポカポカと叩いているマリアーナには、以前死ぬほどつらい思いをさせてしまったので、強く出る事が出来ないシャギー。新婚なのに、もうマリアーナの尻に敷かれてしまっていた。
その頃アレッドカの宰主邸では、アルスラが自分の情婦であるゾフィヤとロザリード産のシーレルワインを飲んでいた。
「この酒は本当に美味いな。エールなど目じゃない美味さだ」
「ホント、いったい誰がこんな美味しいお酒を造ったのかしら?」
「ブラクロックのシャギーリース・ロザリード辺境伯と言う人物だそうだ」
「…………シャギーリース?」
「気になるか? 何でも『赤を纏うもの』と言って、髪も目も赤いらしい。……ちなみにだが、彼は顔に大きな傷があるそうだ」
「…………」
二人にとってシャギーと言う名は特別な意味を持っていた。アルスラは自分の運命を変えた男として、ゾフィヤにとっては女として初めての男として。
(シャギーリースとは、シャギーお前の事だろう?…………貴族なんかやめて俺に付け、シャギー! 早く来い、待ってるぞ‼)
「えっ? 今度は南?…………兄さんって何か変な呪いがかけられているんじゃないの? 何でこうも遠い所からの依頼が立て続けに来るのかなぁ? ホント不思議だよね。僕たちイエロキーの冒険者なのにね。これで今度東に行くことが有れば『四色大国』コンプリートだね」
「嫌な事言ってくれるなよ。……まあ、あれだ、『ドラゴンスレイヤー』の通り名が広まりすぎたんじゃないか? 全く、はた迷惑な!」
次の日、イエロキーに戻って今度はセイに、アレッドカでの二角ボーガルの討伐依頼があったと伝えた所の、セイの呆れた様な言葉だった。
「で、いつ出発するの?」
「毎度お馴染みの転移での移動は、今回もイエロキーの南の国境門都市ナムシャまでだな。そこから先アレッドカ迄は……」
「ハァ~……馬車での移動だね」
前回のブラクロック王国まで馬車で行ったのは良いが、降りた後しばらく馬車に乗りたく無くなる程の苦行を強いられたので、今回もとなるとさすがに馬車は勘弁してほしい二人だった。
「そうなるな…………。なぁ、今回は人目を避けながら、車で行かないか? 俺も正直言って馬車は辛い」
「良いね、それ! そうすると夜に移動した方が良いんじゃない?」
「…………夜かぁ……」
「何か不都合な事があるの?」
「マリアーナに、夜は必ずロザリードに帰るって約束しちまったからな~」
「…………あぁ、なる程ね…」
人目を避けて車で移動するには、セイが言う通り夜に移動するのがベストではあるが、リョウは昨日マリアーナに毎晩帰ると約束してしまっていた。
セイは、うすうすリョウがマリアーナの尻に敷かれているのを感じているので、夜の移動は難しいだろうなと思ったが、どうしても馬車を回避したセイは妥協案を出してきた。
「だったら、徒歩で移動すると言って門を出て、『四色街道』を外して車での移動にするなんてどう?」
「ん~。それが一番良いのかもな。よし、それで行こう!」
かくして、今回のアレッドカには4WDの車での移動に決定した。
昼間は『四色街道』に沿ってはいるが、街道から見えないように離れて車を走らせ、夜はセイはイエロキー、リョウはロザリードと転移で帰って夜を過ごし、翌朝、前日に付けた転移ポイントに集合する事にした。
装備や準備を整えて2日後の午前中にリョウ達は、イエロキーの南の国境門都市ナムシャに転移で来ていた。
「えっ! 『ブラット』のリョウさんとセイさんですか?…………え~と、本当に御本人でしょうか?」
まさか『ブラット』が、国境を徒歩で移動するなんて考えていなかった門番は、思わず身分確認をしてしまった。まあ、リョウ達も別に勘繰られても何とも思わないので、素直にギルドカードを出して見せた。
カードを確認した門番は疑った事に恐縮しながら、
「すみませんでした。まさか、『ブラット』の方が徒歩で国境を超えるなんて、思ってもみなくて」
「気にするな。俺達もそう思うからな」
「今回は、チョッと訳アリで歩いて目的地まで行く事にしたんだ」
リョウとセイにそう言われて安心したのか、門番の兵士は良い笑顔で、
「では、お気を付けて行ってらっしゃいませ!」
と送り出してくれた。
門を出てしばらく歩いて『四色街道』から離れて行き、街道が見えなくなった所で、リョウがアイテムボックスから4WDランドクルーザーを取り出して乗り込み、思い切りアクセルを踏み込み走り出した。
この辺りは荒れ地ではあるが砂が殆ど無いので、スピードを出しても砂埃が立たないから、街道から見つかる可能性は低いのである。
「ん~、快適! ブラクロックに行く時もこうすればよかったね!」
「あっちは砂漠だから、街道を離れたとしても、砂埃が立って人に見つかる可能性が高いぞ」
「…………それもそうか」
などと言いながらも、快適な車での旅を楽しんでいる2人。
この先アレッドカ共和国で、またまたトラブルに見舞われるとは、思いもしないリョウとセイだった。
アレッドカまでの旅の途中、念のためにリョウはセイにムーンシャナー達に話した、アルスラとの関係をザッと話しておいた。
(アルスラは、今回の件にどう関わって来るのか? 穏便に済めばいいが…………なんか、俺のせいでおかしなことにならなきゃ良いけどな)
リョウの予感は、結構当たるのであった。




