第2話 【シャギーとアルスラ】
ムーンシャナーはリョウの話に頭痛を感じ頭を抱える。
「では何か、アレッドカの砂糖はお前が仕掛け人だったと言う事か⁉」
「…………まぁ、そうなります。すみません…」
リョウも自分のやらかしで、ラドランダーの経済が変わってしまった事に、少なからず思うところが有るので、殊勝に答える。
リョウのやらかしに、日々対処している彼女は長い長い溜息をつき、
「ハァーーーーー。お前と言う奴は本当に…………」
呆れた目をリョウに向ける。
「で、それからどうしたんだ?」
「まあ、その後は…………」
その話を聞いたアルスラは、試しとばかりにシャギーの言う方法で砂糖を作ってみたが、初めの内は上手く行かなかった。しかし、試作を重ねるうちに段々と良い物が出来る様になり、とうとう薄茶色迄の砂糖の精製が出来る様になった。
「お前は凄いな! 何でこんな事思いつくんだ⁉」
「いや、たんに食い意地が張っているだけだ! いつも、美味い物が食いたいって思ってるから、工夫したり考えたりする事が楽しいのさ」
「そんな物かね~」
シャギーは、今頃になって自分がやらかした事に気付いたが、もう、後には引けない所まで来てしまっているので、怪しげな言い訳になってしまう。
そんなシャギーをアルスラは、彼に気付かれ無いようそっと観察していた。
砂糖の流通はラドランダー大陸の食と経済を一変させた。砂糖を使ったし好品が流行し、それによる経済効果がアレッドカを一躍大国に変化させていった。
元々アレッドカは数多くのダンジョンが有り、そこからのドロップ品や素材の売買で成り立っていた中規模程度の国であったし、その他の収入源としては、島々の農産品を細々と売って、国財にしていたに過ぎなかったのである。
アルスラは時の人となり、表舞台での活動も活発になって行った。一方、シャギーは、アルスラからの信頼も厚い参謀の様な立ち位置にいたが、自身は徹底して裏方でいるようにしていた。
そんなある日の事、シャギーはアルスラの私室に呼び出された。
「なんか俺に話が有るって?」
気軽に部屋に入って来たシャギーとは裏腹に、アルスラは真面目な態度で彼に聞いた。
「シャギー、お前〔記憶持ち〕って聞いた事があるか?」
「はっ? 記憶持ち。なんだそれ?」
アルスラは、シャギーの一挙手一投足を見逃すまいとしている様な真剣な目で、彼を見つめている。
「記憶持ちとはな、今の自分とは違う別の自分の記憶を持っている人間の事を指すのさ」
「へぇ~、そんな人間がいるんだ⁉」
あきらかに自分の事を怪しんでいるアルスラに対し、あくまでしらを切りたいシャギーである。
やはり砂糖の製造方法などと言うものは、切れ者のアルスラが見逃す事などあり得ない。うっかりにも程がある。大きなミスを冒してしまった事に気が付いたが、後の祭りである。これをどう切り抜けるか、ここが思案のしどころになった。
「記憶持ちの特徴としては、ここラドランダー大陸以外の別の世界で、生きて死んだと言う記憶を持っているそうだ。その者たちはラドランダーでは考えられない事を、やったり話したり書き記したりして、この世界を変えて行ったと言われているらしい」
アルスラは、かなり詳しく記憶持ちについて調べているようで、
「シャギー…………お前、記憶持ちだろ‼」
「えっ! 俺が? ナイナイ! 俺なんかがそんな御大層な人間じゃねぇーよ!」
否定はしてみたものの、アルスラの追及は続く。
「お前のそう言う所が、その証拠になるんだよ!」
「⁉」
「お前、自分が今何歳か自覚しているか? たかだか11~12歳でそんな言動出来る奴なんかいねえよ。その年頃のガキはもっと子供じみてる。…………まぁ、全く居ないかと言われたら、居るかもしないけどな、よっぽど教育された貴族のボンボンだろうよ」
シャギーは失敗したと思った。前世では成人していたので、言動が大人じみている事に何の違和感も持たずにいた事を。子供らしく振舞うなど、全く考えていなかった。
シャギーの〔やらかしその2〕である。
アルスラは言う。
「別にお前が記憶持ちだからどうこうする訳じゃねぇよ。ただ、本当に記憶持ちなら俺に色々と異世界の知恵を教えて欲しい! 俺は、このアレッドカをラドランダー大陸一の大国にしたいんだ‼」
アルスラの思わぬ強い志を聞いたシャギーは観念して、
「…………別に、アルスラお前をだますつもりは無かったんだ。ただ、俺達の世界の事をむやみにラドランダーに広めたく無かった。それが本音さ」
自分が居た世界には、異世界転生や勇者召喚などの読み物が多数存在して、日本の知識や知恵を広める事で、その世界の均衡を崩す事に繋がっていくのだと、シャギーはアルスラに説明した。なので、前世の記憶の事は絶対に誰にも言わない事にしていたのだと。
「……成程な。まあ、でもお前はわりとしっかりしている様で、かなりうっかりな事しているよな⁉ 隠すんなら、もっと慎重になれよ。このままじゃぁ他の奴らもお前の異常さに気が付くぞ」
思わぬ苦言をアルスラから貰ってしまい、
「……肝に銘じておくよ」
と力なく返事をしたシャギーだった。
「記憶持ちか…………。確かに私も聞いた事があるな」
「ギルマスが御存じとは俺の方がびっくりです!」
「リョウ、お前は! 私が何歳か知っていてそんな事言っているのか⁉ 人生経験が長い分色々知っている!」
「すみません。…………ただ、それならどうして今まで俺の事を記憶持ちと疑わなかったのかと?」
「記憶持ちと言う事自体が非常に珍しいからな。そこに考えがいたらなかっただけだ。……まあ、そう考えると、お前の異常な行動のすべてが納得出来るな!」
「…………酷ぇ‼」
黙って聞いていたアーノルドは、
「だとすると、もしかして今のアレッドカ共和国の国の在り方は、リョウが関わっているんじゃないのか?」
その一言に、またもあさっての方向に目をやったリョウが、
「……………はい、そうです。俺が、共和国制度をアルスラに話しました…………申し訳ないです」
と、〔やらかしその3〕を白状した。
「別に、私に謝る必要ない。それに過ぎた事だし、あの国はもうああ言う制度で国が動いているから、今さらどうこう言っても仕方が無いだろ」
「ホント、まさかこんな事になろうとは夢にも思いませんでした。ただ、アルスラに聞かれるままに答えて行った結果がああなったんです。もう、これはあいつが凄いとしか言いようが何ですよ。ほんの少しの切っ掛けで、共和制度を作り上げたんですから。今のあの国は、俺の前世の共和国と何ら遜色は無いですからね」
ギルドマスターの部屋にいた3人は、それぞれに思う事があり、ため息をついていた。
「ところでシャギー、お前は何故アレッドカから出て来たんだ? そこまでアルスラ宰主と上手くやっていたなら、今頃はあの国の重鎮になっていただろうに?」
アーノルドのその疑問はもっともなもので、それだけの事を成し遂げたのなら、あの国に残ってもよさそうなものである。
「まあ、お互いに地位とか権利とか利権とか、様々な事で意見の相違が大きくなって来てしまって、結局仲違いしたようになってしまったんです。で、俺はもう、あいつといる事に耐えきれなくなってしまって、あの国を飛び出したって事です」
共和国制度に移行したのなら、奴隷制度は廃止した方が良いと言うシャギーと、奴隷は利益が大きいから必要だとするアルスラ。その他にも、アルスラは裏社会でシャギーが我慢できない程の事をやり始めていた。殺人、密売、違法薬物、等々。初めて会った時のあのカリスマ性が間違った方向に、向いてしまったとシャギーは寂しく思った。
実は、シャギーが見た奴隷売買の現場に、のちに弟と呼ぶようになるイースがいた事には、リョウもセイもお互い気付く事は無かった。




