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第三章 『アレッドカ共和国』と『アルスラ宰主の野望』 第1話  【南からの不穏の風】

思いのほか、早くに新章を投稿する事が出来ました。

出来はともかくとして、楽しんで頂けたら幸いです。

 ギルマスの部屋の扉がノックされる。

「入れ」

 ムーンシャナーの短い返事の後に、扉を開け現れたのは『ブラット』のリョウである。


「俺達指名の依頼があるって、手紙鳥に書いてあったんですけど、今度は何なんですか? …………なんか嫌な予感しか無いんですけど」

「お前の日頃の行いが悪いから、そんな予感がするんだろな」

「え~! ひでぇ!」


 いつもの二人にやり取りにギルマス助手のアーノルドが、

「なんだかんだ言いながら、ギルマスはリョウの事が気に入っているんですね⁉」

 と言いながら爆笑していた。


「違う‼」

 速攻で否定したが、あながち間違いでは無いと、ムーンシャナーも思っていた。たびたび突拍子も無い事を仕出かすが、依頼は完ぺきにこなすし手際も良い。何より、その考え方が斬新で、いつも舌を巻かされている。



「アレッドカ共和国のアルスラ宰主が、『ブラット』に『二角ボーガル』の討伐依頼だ」

「…………二角ボーガルって言ったらS級の海の魔物じゃないですか⁉ もしかしたらSS級かもしれないって言われてるんですよ! それを俺達二人って、出来る訳無いじゃないですか⁉」


 リョウは依頼のとんでも無さに、思わず大声をあげてしまった。


「二角ボーガルを知っているのか? 見識不足で申し訳ないが私はその魔物の事は知らなかった」

 長年生きて来たハイエルフのムーンシャナーにも知られていない、非常に珍しいS級の海の魔物である。



 リョウは、あさっての方向に目をやり、こめかみを掻きつつ、

「え~と…………前回のブラクロックの事で色々あったので、今回は初めにバラす事にします」

「聞きたくない‼…………と言うか、お前と言う奴は懲りもせずにアレッドカでも何かやったのか⁉」

「ええ、まぁ、…………そのぉ~、例の10歳の時『白の魔森』から出て、初めて人に会ったのがアレッドカだったんです。あそこで15歳まで過ごしたんで、まあ、海の魔物にもそこそこ詳しくなりましたね」


 ムーンシャナーはリョウの子供時代の話は聞いていたので、呆れれば良いのか、感心すれば良いのか、はたまた憐憫れいびんに思えば良いのか、判断に苦しむ所である。


「あれは10歳になった時『白の魔森』で、養い親に置き去りにされた後の事ですが…………」



 ディールに魔石を埋め込まれてから、1週間シャギーはひたすら南に向かって歩いていた。感覚的にアレッドカが近いと感じていたからである。

 ただ、まだ10歳の子供である事に変わりは無いので、どんなに急いでも歩いても子供の足では時間はかかってしまう。その上、『白の魔森』は魔物の宝庫と言っても差し支えない程、魔物が出て来るので、それらを排除したり避けたりしての移動である。


 やっと『白の魔森』を抜け『四色街道』に出た時には、シャギーは精も根も尽き果てて、道が視界に入ったと思ったら、急に意識が遠のくのを感じた。



「……あっ、知らない天井だ」

(なんだか、どこぞのラノベのセリフだな) 

 目覚めた時の自分の第一声に、のりツッコミをしてしまった。


「気が付いたか?」


 声を掛けられた方に視線を向けると、そこには10半ば頃の、少年から青年に変わろうしている、金髪で銀の瞳のなかなかの美少年が居た。その少年の銀の瞳を見ていると、何とも言えない不思議な力を感じる。こう言うのをカリスマ性があると言うんだろうなと、シャギーは心の中で感心していた。


「なんだ? 言葉が分からないのか? それとも話す事が出来ないのか?」

「いや、悪い。久しぶりに人から話しかけられたんで、どう返して良いか一瞬迷ったんだ」

「ハァ? 人と話すのが久しぶりって、なんだそれ⁉」


 シャギーの返事に、彼は本当に訳が分からないらしく、顔中に疑問符が浮かんでいる様だったので、シャギーはディールの事を上手く誤魔化しながら、ずっと『白の魔森』で暮らしていた事を話した。


「…………あそこって、人が住めるようなとこか? 良く、生きていられたな!」

「俺の、養い親が変わり者だったんだろうな。でも、物凄く強かったから魔物の脅威もそれ程じゃ無かったんだ。…………あっ! 遅くなったけど、助けてくれたんだろ? ありがとな! 俺は、シャギーって言うんだ」

「俺は、アルスラだ! まあ助けたって言うか、拾ったって言うか、『四色街道』の真ん中で倒れていて、通行の邪魔になっていたのを、拾って来たようなもんだな」



 後にドラゴンスレイヤーと呼ばれるようになる『ブラット』のリョウと、アレッドカ共和国で切れ者と呼ばれた、『初代宰主アルスラ』の因縁の関係がここから始まったのである。



 二人は生まれも年齢も、生きてきた境遇も全く違うにも関わらず意気投合して、何かにつけつるんで行動していた。お互いに、身元について詳しい事を聞く事も話す事もせず、ただありのままを受け入れていた。二人でいる事に気を遣う事も無く、だからと言って無視をしている訳でも無い、絶妙な関係が心地よかった。


 生きて行くためには金が要る。犯罪とまではいかないが、結構ヤバい事も二人なら難なく出来た。

 シャギーの頭脳とアルスラの人望。この二つが合わさって、1年もしないうちに、下町スラムのガキ共を掌握し、大人達でさえ従わせる事となっていった。



 そんなある日の事、二人は海を見渡せる丘の上に来て、行き交う船を見ていた。


 アレッドカは、沖合に大小さまざまな島が存在しており、島ごとに変わった農産物を育てている。海の魔物も多く出るがその損失を上回る儲けが出るので、船の行き来が盛んに行われている。


 その船からの荷揚げ人足の取りまとめを、アルスラとシャギーで行っていて、結構な実入りになっていた。最初は、子供と思って取り合わなかった大人たちも、シャギー達の効率の良いやり方に気付き、次第にシャギー達を便利に使うようになっていく。



「なあ、これって甘い汁が出るよな?」

 シャギーは丘の上に群生している、背の高い植物を指さしてアルスラに尋ねた。シャギーにとっては、と言うより僚佑にとっては、どこからどう見てもこの植物はサトウキビにしか見えないし、事実シャギーの鑑定でもそのように記されていた。


「ああ、それか? そうだな皮をむいて芯の部分をかじるとしばらくは甘さを感じるな。まあ、子供が小腹がすいた時にかじる様な物だ。…………ただ、長くかじっているとえぐみ出て来るからか、今では子供でもあまりかじっているのを見かけなくなったかな」


 そんな物が気になるのかと思ったアルスラは、試しに腰に付けていた短剣で一本切り取ってシャギーに手渡した。

「ほら! 試しにかじってみろよ」

 それを受け取ったシャギーは歯で皮をむき、芯の部分をかじってみた。

「甘!」

「ラナチクだからな」

「これは、ラナチクと言うのか?」

「ああ、ただ甘いだけの役立たずラナチクさ!」


 シャギーは目線をラナチクに向け腕を組み、何事か考えているようで、黙ったままになってしまった。しびれを切らしたアルスラが、

「お~い! シャギー~! 聞こえるか~!」

 と、耳元で思い切り声をかける。


「ワッ! びっくりした⁉ 脅かすなよな!」

「いや、だってずっと考え込んでいるから、俺の事忘れたんじゃ無いかと思ってよ!」

「悪かったよ! ちょっとな、もしかしたらこれで砂糖が出来るかもしれないと考えていたのさ」


 シャギーの〔やらかしその1〕になった。


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