第31話 【女王陛下のお願い】
ブラクロックでの結婚式が終わって少しした頃、イエロキーの家にいたリョウの元に、マミーナリサ女王から手紙鳥が飛んで来た。話が有るので来るようにとの事で、リョウはシャギーになって女王陛下の元に転移する。
今日の、シャギーのコスプレ衣装は、マミーナリサ女王たっての願いで、真っ赤な執事風衣装にモノクルを掛けた姿である。
(まったく! 女王陛下にも困ったもんだ。段々と注文がエスカレートしてるぜ。ホント、この先が思いやられるよ。ハァ~)
転移して来たシャギーを見たローランは、目を見開き驚き、何か申し訳なさそうに目礼をしてきた。
(別にあんたのせいじゃないから、謝らなくて良いからさ!)
と、シャギーもローランに目礼を返した。
いつものようにマミーナリサ女王にコーヒーを淹れ、彼女の対面に座るシャギー。
「シャギーリース。此度は結婚おめでとう」
「ありがとうございます。陛下からの祝いの言葉を賜る事を光栄に思います」
面白そうにコロコロ笑いながらマミーナリサ女王は、
「まあ! そのように堅苦しい事は不要ですよ。私とあなたの仲では無いですか⁉」
(だから、どんな仲なんだよ~!)
シャギーの心内の愚痴めいた独り言も含め、一通り祝儀の挨拶を済ませて本題に入る。
「以前話しましたが、このイエロキーで、クジョウ・リョウスケ準公爵として、結婚のお披露目をしてもらいます。式も行うとなると、二重になってしまいますので、式は無しで結構です。時期としては、新年の祝賀行事の時と考えています」
(やっぱりそうなるか。…………面倒くせ!)
「その時期は忙しいのではないですか?」
「そうですね、確かに忙しくはありますが、その時期であれば地方の貴族も皆聖都に集まっていますので、改めて人を呼ぶ手間が省けると考えた上です」
「成程、確かにそうですね。全部、一度に終わらせてしまうと言う事ですね?」
「フフフㇷ…………。あなた達の衣装を楽しみにしていますからね」
(…………この人は、それが一番の目的なんじゃないのかね⁉)
マミーナリサ女王無茶ぶりは今に始まった事では無いが、最近はシャギーが困るのを楽しみにしている様なのが、癪に障るシャギーであった。
「ところで…………ブラクロックでは新たなお酒の製造に力を注いでいるそうですね?」
(だから、何でそんな事知っているだよーー! ほんのつい最近の事だぞ!)
「はい、そうです。ですが、あの国は気候が厳しいので、起こす産業に限りがあるので、苦肉の策です」
マミーナリサ女王と言い、アサール国王と言い、何でどうしてこうも色々知っているのやら、もしかするとシャギーの知らない裏で、お互い情報の取引でもしているんじゃないかと、勘繰りたくなる程である。
「確か、砂糖も作っているとか…………?」
「…………はい。何故そこまでご存じなのでしょうか? 陛下の例のスキルでは知る事が出来ないと思うのですが」
マミーナリサ女王はニッコリ笑って、
「秘密です」
と言われてしまった。
「お遊びはここまでとして、あなた達のお披露目にさいし、コーヒーの件はあなたの功績として発表いたします」
「え~と、確か、コーヒーは国の事業にするはずだったのでは?」
「そうですね、そのように今動いていますよ。ただ、あなたからの進言で始めた事にするのです。例の、準公爵の件で少しばかり強硬手段を取ってしまったものですから、あなたにはこう言う功績があるのだと、知らしめる必要があるのです。ウフフフㇷ……煩く言って来る者達を黙らせるのですよ」
いつも思うが、女王陛下は美しい笑顔が怖い時が時々ある。
(お~怖! 俺は絶対この人には逆らうまい!)
マミーナリサ女王は真面目な顔になり、
「急ぎはしませんが、このイエロキーでもコーヒーの次に産業になる物を、何か考えておいてください。……ハッキリとした確証がある訳では無いのですが、南と東で何事かあったらしく、難民が増えてきています。仕事が無いとスラムが出来、またイエロキーの元からの住民との諍いで大事になると、国としても困った事態になってしまいますから」
「そう言えば、街中でも見慣れない者が増えたように思っていましたが、そう言う事だったんですね。分かりました、何か考えてみます」
確かに、ここ最近イエロキーの国境沿いの街だけでは無く、聖都でも明らかにイエロキーの人間ではない者を見かけるようになっていた。
きな臭い風が南から吹いて来る。アレッドカ共和国のアルスラ宰主は、今、何を考えて動いているのか? あの、思わず従いたくなるような、彼の銀色の目を思い出すシャギーである。
年が明け、新年の様々な祝賀行事が行われ、最後にシャギーと、マリアーナの結婚のお披露目が行われた。
このお披露目での二人の衣装は、『ブラット』のシンボルカラーである黒を多用したもので、マリアーナは白地のドレスに絹で作った黒バラの花と、黒の絹糸と黒のビーズで、豪華にかつ繊細な飾りを付けた美しいドレスである。リョウは、黒のフロックコートに、銀糸と白の絹糸で細部にまでこだわった刺繍が施してあった。長身で黒髪のリョウに物凄く似合っている、フロックコートになっていた。
シャギーはクジョウ・リョウスケ準公爵として紹介され、コーヒーをこの国にもたらした者として、準公爵に任じたと女王陛下の言葉があった。
今や、コーヒーはこのイエロキーでの一大産業になりつつあるので、女王陛下にそう言われてしまっては、リョウに対して外野があれこれ言う事は出来ない状態になってしまっている。
ともあれリョウの、ブラクロック王国とイエロキー聖教国での、結婚にまつわる事はすべて終わったのであった。
その後しばらくの間、今までの反動かストレスの発散かは分からないが、リョウはイエロキーの家で、何かに取り付かれたかの様に、魔法陣の研究に没頭していた。
一方、新婚なのに一向に帰って来ないシャギーに痺れを切らしたマリアーナが、大量の手紙をミニ転移陣で毎日送って来て、イエロキーの家が手紙だらけになってしまい、さすがのリョウも反省して夜はブラクロックに帰る事にしたのであった。
その後、ブラクロックではシーレルで作ったワインが完成し、半年後にはヌーボーが飲めるほどになり、1年後には瓶詰めされ熟成されたシーレルワインが発売され、ブラクロック王国の特産品になる。
ワインに関わった職人達に、リョウは改めて蒸留酒の概念を教えた。以後、ブラクロックは様々な酒を造り出し、酒の国としての確たる地位を築いて行く事となるのであった。
それからしばらくしてからの事である、イエロキー聖教国の聖都サマリーアートの冒険者ギルドに『ブラット』指名の依頼が来た。
依頼人は、アレッドカ共和国の宰主アルスラその人からである。
今回で、第2章『ブラクロック王国』と『シャギー過去との邂逅』編は完結になります。
次回は、第3章『アレッドカ共和国』と『宰主アルスラの野望』編を始めます。
次回の投稿は6月半ばを予定していますので、しばらくお待たせしてしまいますが、楽しみにお待ち頂けたら幸いです。




