第6話 【変身 チート 変な趣味?】
シャギーは気を取り直し改めて、
「とりあえず、これからの方針話したいんだけど、良いか?」
そう聞かれても、現実に戻されたイースは、彼への恐怖も戻って来てしまい、
「……別に、今さら僕に確認する必要なないんじゃないの?…そんな事今まで言われた事無かったし……」
と答える事しか出来ない。
「いや、これから旅を共にするにあったって、協力し合った方が断然良いだろう?」
「………だって!…シャギーもうすぐ死んじゃうじゃん…」
一瞬、目が点になった。
「はっ?……いやいや、勝手に人を殺すなよ‼」
「……でも………シャギーは『魔力過多症』じゃない」
ああ、と思い当って、アッサリと、
「あっ悪い、それ嘘!」
と言った。
「…さっきからの話でそうじゃないかと思ったけど、やっぱり嘘だったんだ」
顔色の悪いメークを落としたあたりから、仮病じゃないかと思っていたが、日ごろのシャギーの言動で、本当だったらと思っても仕方のない事だと思う。
「『光の聖剣』を抜けるのと、お前を連れ出す口実にしたんだ」
本当に嫌そうに、シャギーは言う、
「この頃のあいつらは、本当に目に余る事が多かったからな。ほとほと愛想が尽きたわ!」
「じゃぁ、まず、これからどうするか、俺が考えた事を話す」
「…ん…」
少し上目遣いで窺うようにシャギーを見る。だいぶ話やすくなったとしても、やはりその存在は恐怖を覚える。
そんな様子のイースを見て、少々ばつの悪そうなシャギーは頭をかきながら、
「そんなに怖がらなくても良いんだが、今までが今までだったらなぁ。…まぁ、しょうがないか。これから少しづつ慣れてくれ」
「……慣れるかなぁ?……僕、シャギーに見られると怖いんだ…」
一つため息をつき、
「…はぁ、しょうがない。もう少し話をしたら、やろうと思っていたんだが。今やるか」
「何するの…?」
ポーチからシャギーが取り出した物は、赤い魔石がはめてあるおしゃれなデザインの指輪である。その指輪を、左手中指にはめると一陣の風が通り過ぎ、そこに居たのはイースが見た事の無い青年だった。
その青年は、東洋系の顔をして黒目、右前髪に一房赤毛がある黒髪の、白い歯が眩しい、なかなかの爽やか系イケメンだ。
しかし、髪形と服装はさっきのシャギーのままであるが。
「これで、少しは怖さが無くなるだろ?」
とっさの事で、思考が追い付かない、
「えっ……?なに、どうなってるの?」
元シャギーの見知らぬ青年は、
「この指輪はな、さっきの遮音の魔術具と同じように、俺が作った姿変えの魔術具だ」
「魔術具って、…シャギーは魔剣士だよね?何で、そんなもの作れるの?」
「~ん、俺の本当のジョブは魔導士。それも、白魔導士なんかじゃなく、聖魔導士なんだよ」
一瞬の沈黙の後、
「…………ええええええぇーーー‼‼」
あまりの驚きっぷりにシャギーは、
「いや、そんなに驚かれても……」
と、逆に困惑する。が、次の言葉に今度は、ガックリ肩を落とす事になる。
「だって!どう見てもシャギーは魔剣士だったよね⁉ それも手の付けられない脳筋バーサクの‼」
「…その言い方、ちょっと傷付く。…まっ、自業自得だけどな……ハハハ…ハァ」
と、乾いた笑いをした。
魔導士と言う事を隠して、魔法で身体強化のバフまでかけて、バーサク魔剣士を演じていたのである。
気を取り直し、
「で、ここにもう一つ指輪がある」
と、取り出したのは薄い紫の魔石が付いた、さっきシャギーが指にはめた物と同じデザインの指輪である。
「これはお前の為に作った指輪で、後は指にはめて少し魔力を流せば、お前も姿変えが出来る」
その言葉に、少し明るくなった気分が、途端に消え失せ、
「……僕は、魔力が無いからその指輪は使えないよ……」
しかしシャギーは、そんな事は些細な問題と言わんがごとく、
「そうでもないさ。お前のステータスを見ると、魔力の上限は俺と同じくらいあるぞ」
「…えっ?僕のステータス見えるの?」
「ん? ああ、俺は鑑定のスキルが有るんだ」
その言葉に、さっきのアイテムボックスの事もあり、
「シャギーは! 結局すごいチート持ちなんじゃない⁉ ずるいよ!シャギーばっかり‼」
つい言ってしまった。
「そうは言うが、お前もけっこうなジョブやらスキルがあるぞ。……剛力のジョブが分かっているなら、教会で洗礼を受けたんだろ?」
「受けたよ。…奴隷は、スキルが有るのと無いのじゃ扱いが違ってくるからね」
その言葉に、イースが今までたどってきた、人生の理不尽さを垣間見たシャギーであった。
それにしても、剛力しか告げられなかったこの状態は、
「じゃぁ、何なんだろうか?」
「あの時、他にも奴隷が沢山居たから。それでかな?」
と、イースが言った。
あまり洗礼の人数が多いと、確かに手抜きをする場合があるとも聞いた事が有る。あと、洗礼の謝礼金の多い少ないとでも、変わってくる事が有るらしい。最も、洗礼を行う教会次第ではあるのだが。
本当に教会で洗礼を受けたのなら、色々な事が分かるはずなのだが。
ふと、シャギーはある事を思い出す。
「まあ、教会にあるステータスを見る魔術具は、扱う人間の魔力量に関係するから、お前を見た奴の魔力量がたいしたことなかったんだろうな」
顎に手を当てながら、
「となると、まずイースは魔力を使えるようになる事が一番だな」
「…僕にできるかな?」
「出来るさ!」
シャギーは、力強く断言した。
「他人の魔力と言うのは、非常に不快なんだよ。ちょっと我慢しろ」
魔力を認識させるために、イースに手を出すように言い、両手を繋ぎ少しづつ魔力を彼に流していく。
魔力を流されたイースは、
(ん? 不快というよりは、むしろ気持ちいかもしれない?)
「俺の魔力が流れて来る感じが分かるか? 不快さを我慢できそうか?」
「うん。なんとなく分かるような気がする。でも、不快というより、気持ち良い位だよ?」
魔力的にありえない返事に、一瞬驚き、そして考える。
「はっ? いや、そんな事は……イース、魔力を動かせるようであれば、試しに俺に流してみろ」
イースから流れてきた魔力にシャギーは、
(……本当だな。なんだ、これは? 本当に気持ちいいぞ)
二人はしばらくの間、無言で見つめ合い、魔力を流しあっていた。
が、ハッと我に返ったシャギーは、イースから慌てて手を放し顔を背け、
「あ~、もう! 俺は絶対、そんな趣味は無いからな‼」
と赤い顔で叫んでいた。