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第28話  【魔族シャギー】

 シャギーがいつもベルトに付けているマジックバックもどきから、大量の煙草を自分のアイテムボックスに移し替え、満足げにディールはうなずく。


「では、改めてお前に血をやろう。………おお、そうだ! 煙草の礼も含め今回は特別な血をやる! 有難く思え‼」


 顎を掴まれ身動き出来ないまま、『百貨店』の煙草の注文を他人事のように見ていたシャギーであるが、その言葉に即座に反応した。


 本能がその血は危険だと警告を発する。しかしディールとの力の差は歴然で、シャギーは顎を掴まれているだけなのに、顎から手を引きはがす事さえ出来ない。


 ディールは、自分の左手人差し指の先を切り落とし、そこから流れ出るタールより濃く黒い血をシャギーの口に流し込む。


 幼い頃に飲まされた血は、ディールの普通の血であった。その効果は、幼いシャギーの体を徐々に魔族化させていったが、今まさに、飲まされようとしている物はそれとは比べ物にならない位、魔族の血を濃縮させた濃厚な血である。


 シャギーの口にその血が一滴入った瞬間、『フブキ』がその闇にの気に耐えられず、彼の胸から飛び出した。

「キュイィーーーーーー‼」

 フブキは闇の気に当てられ、苦し気に鳴きながら飛び去ってしまった。


 それを見たディールは、感心したように、

「ほぅ…………なかなか面白い物を身の内に飼っていたのだな。あれも。お前の一部か? 食ったら美味そうだったが、残念だ」

 あまりにもあり得ない言葉に怖気がする。


 後に残されたのは、ディールの血を注ぎ込まれ、苦しみもがくシャギーの姿。ただ、顎を掴まれているだけなのに抵抗らしい抵抗も出来ず、なすがままに血を飲まされ続けている。


 想像を絶する血の効果である。見る間にシャギーの体が魔族と変貌していく。頭には左右一対の漆黒の角、耳はとがり、爪は伸び、瞳は縦瞳孔になり、犬歯は牙。これが、ほんの瞬き一つ程のわずかな時間での出来事であった。


 その姿に満足したディールは、ようやくシャギーの顎から手をを離した。が、シャギーは体が自由になった事で、苦しさに転がりのた打ち回る。


 幼い時は、気力も体力も精神力も聖の魔力さえも少なかったおかげで、魔族の血の暴力的な衝撃を気を失う事でかわせたが、今のシャギーはそれら全てが常人以上である。そのせいで、気を失う事が出来ずにもがき苦しんでいる。


「イヤァーーーーー‼ やめて‼ 誰か! シャギーリースを助けてぇーーー‼」

 マリアーナの悲痛な絶叫が響き渡る。


 マリアーナの叫びに、狂暴的な苦しさに人間としての自我を失いかけていたシャギーは、かろうじて人としての意識を引き戻し、途切れ途切れにディールに問う。

「…………こんな面…倒な事す…る位な………ら、一思いに魔………族の国に俺を連…れて行け…………ば良いだ…ろ⁉」


「フン! 何を言うかと思えば、下らん! それでは、お前がもがき苦しむ様を楽しむ事が出来ぬでは無いか? お前が、その姿で人間としての自我を保ったまま、人間の世界でどう生きて行くのか? はたまた、人間としての自我を捨て、人間を襲い喰らい、人間に討伐されるか。どちらにどう転んでも、面白可笑しい結末が待っているな。ああ…………何と楽しい事か‼」

 恍惚こうこつとした表情で、滔滔とうとうと話をするディール。


 これが魔族。人の不幸が最大の愉悦である。


 何も出来ずに、ただ成り行きを見ている事しか出来なかった3人は、ディールの言葉に吐き気を催す程である。特に、マリアーナは最愛のシャギーリースの変わり果てた姿に、取り乱し泣き叫んでいる。


 苦しい息の中、シャギーはディールに向かって、

「…………頼む、約束は守ってくれ!……3人には手を出さないでくれ!」

 そう言った。


 ディールは、ゴミでも見るような目でシャギーを見て、

「ああ、つまらん! まだ、人間で居ようとしているのか? 果たしていつまでもつ事か⁉」

 急に興味を無くしたように吐き捨て、現れた時と同じように唐突に消え去った。


 静寂な森の気配の中、シャギーの荒い息遣いだけが聞こえる。


 ディールが去った事で森の気配が元に戻った。セイ、マリアーナ、シュテハンが慌ててシャギーに近づこうとした時、

「来るな‼ 頼む! 頼むから俺を見ないでくれーーーーー‼」


 シャギーの悲痛な拒絶の叫びが響く。魔族と変貌した今の自分の姿を、見られたく無い。特に、マリアーナには…………。


 それ以上に、人としての自我をいつ迄保っていられるか、自分でも分からない。もしかすると、今すぐにでも、魔族としての意識に乗っ取られてしまい、3人を襲ってしまうかもしれない。そう思うと、一刻も早くここから離れて欲しいと、願わずにはいられない。


「セイ! お前に渡してあるオリハルコンの剣で俺を殺してくれ!」


シャギーのその言葉に目を見開き、セイは顔に恐怖の表情を刻み、

「……………………なっ、なっ! 何を言ってるの⁉ そんな事出来る訳無いじゃないか⁉」

「……お、俺はいつまで人として自我を保てるか分からん! 今も、体の中で闇の力が魔族になれと暴れてる! 俺を助ける方法はもうこれしか無いんだ、早く!その剣で刺してくれ!…………俺が、俺の心が完全な魔族になる前に‼ 頼む!」


 以前セイに渡したオリハルコン製の短剣には、常日頃リョウが聖の魔力を込められるだけ込めていた。セイには話してはいなかったが、いざ、自分が魔族と化した時、それで自分を殺してもらう為である。心優しいセイがそれを承諾する事が出来ないと分かっているが、魔族と化した自分を止められるのも、実力的にセイしかいないと言うのも事実なのである。


「頼む! セイ! 早くしてくれ! 俺はもう人として持ちそうにない‼」


 セイは、短剣を取り出して構えるが、手も体も震えて定まらない。泣きながら短剣を取り落とし、

「だめ! 僕には出来ない! 兄さんを刺し殺す事なんて出来ないよぉーーー‼」


 セイには、今までのリョウとの思い出がよみがえる。


『光の聖剣』でのイジメと称した剣の特訓、『光の聖剣』を抜けてイエロキーまでの旅の道中、イエロキー国境門都市でのお茶目な正体の明かし方、シャギーとイースの存在の消滅をさせた事、そこから聖都までランク上げの為の特訓しながらの旅、聖都での兄弟冒険者パーティー『ブラット』としての活動、二人で住んだ赤い屋根のログハウス。いつも、錬金術で離れを壊すなと注意され、頭をクシャクシャにかき回された手の温もりさえも、鮮明に思いだす事が出来る。


 セイは、今現在苦しんでいるシャギーを助けたい。それが、シャギーの命を絶つ事だとは………。何という、運命の非常な事か。だが、もうあまり時間がなさそうだ。シャギーの様子が変わって来た。呼吸が落ち着き、こちらに向ける視線が妙に据わって来ている。


 気を取り直して、セイは短剣を拾おうと手を伸ばそうとしたその時だった、シャギーが一瞬で間合いを詰め、セイを殴り飛ばした。その力は、普段のシャギーでは考えられない程の威力であり、また優しさのカケラも無かった。牙をむき出しにして、まるで猛獣の様なうなり声を立てている。


 身も心も魔族と化したかの様なシャギーのその様子は、3人を絶望と恐怖のどん底へと突き落とした。

 しかし、その思いは間違いだとすぐに気づく。


 シャギーは3人に寂しそうな悲しい目を一瞬向け、短剣を拾いげ逆手に持って自分の胸に突き立てた。


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