第27話 【ディール再び】
「まあ、俺が考えたのは、ズバリ酒だ!」
「お酒?」
「ああ。日本でも寒い地方で酒造りをしているだろう? まあ、温かい所でも作ってはいるが、寒い所でも作れるって言うのが決め手だ」
前世の世界でも、寒い国で良い酒を造っている所は結構あるし、それを名産にして居る国もある。
ちなみに、温かい国でも特産の良い酒は結構ある。
「でも、原材料はどうするの?」
「それを探しに今度お前と、ロザリード辺境伯領内を見て回りたいのさ。お前となら、魔物が出てきても安心だしな!」
「え~! 僕って用心棒なの~?」
「頼りにしてるぜ、弟よ!」
この世界の酒は、正直に言ってリョウ達には飲めた物では無い代物である。おもにエールと呼ばれるもので、貴族でもこれを酒として飲んでいるのだ。なので、前世のアルコール類が手に入るリョウ達は、ラドランダー大陸の酒は滅多に口にしない。
リョウが『光の聖剣』にまだ入る以前、年齢的には子供だが、この世界のエールを飲んだ事が有った。前世ではもうアルコールが飲める年齢だったので、期待していた分失望が大きく、それからはこの世界の酒は殆ど飲まなくなった。
そうこうしているうちに、ブラクロックに短い秋が訪れた。実りの秋である。
シャギーとセイは、今日は朝からロザリード辺境伯邸に来ていて、酒の原材料探しに森に行くつもりであったが、マリアーナとシュテハンから待ったがかかる。
「もう! シャギーリース、どこに行く気よ! 式まで日にちが無いのよ。決めなければならない事が沢山有るんだから‼」
マリアーナの勢いにタジタジになりながらも反論を試みる。
「アサール国王からの頼み事なんだよ! それに、ここ最近はちゃんとやる事はやっていただろが!」
「ハァ…………。シャギーリース、お前が思っている程簡単な事じゃ無いんだよ。領主の結婚って言うのは。それこそ、国を挙げての祝い事に等しい。特に、辺境伯ともなればな」
シュテハン達の言葉に思わず、小声で愚痴るシャギー。
(だから領主なんてなりたく無かったんだ‼)
そんなシャギーを憐みの目で見るセイが隣に居た。
ブラクロックの秋は短い。今を逃せばどんなものが有るか、分からなくなってしまう恐れがある。
シャギーは強硬手段に出た。すなわち、セイの肩を掴むが早いが転移したのである。
が、マリアーナと、シュテハンにその行動は織り込み済みであったらしく、二人もとっさにシャギーにつかまり、結局4人で森の最深部に来てしまった。
シャギーは頭を抱えて、
「何でこうなるーーーーー‼」
と叫んだが、その声はただむなしく森に響くだけだった。
足手まといが二人いるが、戻ると時間が無駄になるので、来てしまったものはしょうがないと諦め、周囲を警戒しつつ探索にあたる。
しばらくすると、シャギー達にとってはお宝ともいえる物に出くわした。それは、山ブドウの群生地だ。事前に、セイの検索で酒にふさわしい物を調べておいた所、山ブドウも使える事が分かっており、しかも素人が見てもかなり良い出来のブドウで、この辺りでこれだけ良質の物が群生している所を見ると、寒さにも強いと思われる。
「やったぜ! これでワインが出来る!」
「そうだね、この地の物で作れるから、他を頼らなくていいしね!」
やはり、前世の物はあまり持ち込まない方が、良いに越した事は無いと考えている二人だ。
「これをどうするの?」
二人のはしゃぐ様子を見たマリアーナが、顔に疑問符を浮かべながら聞いてきた。
仕方なく、先日アサール国王から、何か国の特産になる物が無いか考える様に言われている事を告げた所、
「何で、シャギーリースがそんな事するのよ⁉」
と言われてしまった。
まあ、その疑問ももっともなのではあるが、これ以上話すと色々ややこしい事になりそうなので、王命だからと言う事で打ち切った。マリアーナとしては消化不良な思いも残るが、国王が関わっている事でも有るし、これ以上の追及は渋々あきらめた。
その時である、辺り一面とてつもなく禍々しい気配に一瞬にして包まれた。シャギーは瞬時に気付く。これはあの男の気配だと。
「俺から離れろ‼」
そう叫ぶのと同時に、3人を風魔法で吹き飛ばし、自分から距離を取らせる。
だが、次の言葉を発する暇も無くシャギーは何者かに首を掴まれ、そのまま持ち上げられていた。首を絞められている状態になったシャギーは、苦しみもがきながらも、
「…………ディール……何し………に来た…」
「ほぅ。しばらく見ないうちに、えらそうな口をきく様になったな」
シャギーは、この魔族とだけは絶対に会いたくは無かった。自分の愚かさ故ではあるが、暗黒歴史の張本人である。正直に言えば、出来る事なら殺してやりたい位憎んでいる。
シャギーの首を絞める手に力が増し、頭がガンガンして来た。
こうして、改めて対峙して分かった。自分は、魔導士としても冒険者としても、このラドランダー大陸随一の実力を持っていると、自負していた事がいかに思い上がりな事だったかを。今、このような状態になって、何も出来ずに手も足も出ない自分が居る。
「ずいぶん体もデカくなったし、以前にも増して聖の魔力が増えたな。面白い! 本当に面白いぞお前は!」
抵抗も出来ずに、一方的にやられてしまっているシャギーを見て、マリアーナは半狂乱になり、
「やめてーーーーー‼ お願い! シャギーリースを離してぇーーー!」
その声を苦しいながら聞いたシャギーは、力の限り叫ぶ。
「バカ!……やめろ! 俺に構…………わず逃げ…ろ! 早く! …………セイ! 頼む…………みん…なを守ってくれーーーーーーー‼」
そんなやり取りを目にしたディールは、さも愉快そうに笑いながらシャギーを放り投げ、
「フフフㇷ…………ハハハハㇵ。そうか、あれはお前の女か? あれに魔族の子を産ませるのだな? それも一興だな。人間が魔族の子を産む。楽しみにしてるぞ!」
シャギーは首を絞められていたせいで呼吸がしづらかったが、息を整えながら考える。そして、自分の事はすべてあきらめた。その代わり命に代えても3人は守って見せると決め、
「頼む! いや、頼みます。俺は何でもする! だから、あいつ等だけは見逃して欲しい! お願いします!」
「フン! また、何でもするか? それでお前は魔族化したのだぞ。また、同じ事をすると言うのか⁉」
「何とでも言ってくれて良い! あいつらが助かるなら今度は本物の魔族にだってなってやる!」
ディールはその魔族的な、何を考えているのか分からない薄気味悪い笑顔で、まだ立てずにいるシャギーを見下ろしながら、
「では、望み通りに魔族にしてやろう」
と言いながら、シャギーの顎を掴み上を向かせる。
顎を掴まれたシャギーは覚悟を決め、
「あいつ等は叶ず助けてくれ‼」
「そうだな。私は何もしないさ。…………ただ、魔族化したお前がどうするかまでは責任は持てぬがな! 今回、私の血を飲めば、今度は間違いなく心も魔族と化すであろうからな。ハハハハㇵ……」
この状態が、楽しくてたまらない様子で笑っているディールを他所に、シャギーは目を見開き愕然とする。
その事に思い至らなかった。子供の頃と同じに、心だけは人間でいられると思い込んでいたのだ。
だがもう遅い。ディールよって無理やり口を開かされ、今まさに血を流しこまれそうになっている。
その時、ふいディールのその行動が止まった。
「ああ! そうだった。あまりにお前が面白くて、肝心の用事を忘れるところだったな」
シャギーの顎を掴んだまま、彼のステータス画面を勝手に開き、『百貨店』スキル画面で煙草を注文し始めた。
本来、スキルの使用は本人のみしか使う事が出来ないが、ディールが魔族だからかなのか、また何かの魔法を使用しているのかは分からないが、シャギーのスキル『百貨店』を自由に使用している。
今回、シャギーの前に現れたのは、15年前、10歳のシャギーの前から姿を消した時に、大量に持って行った煙草のストックが無くなったので、その補充の為にここに来たのだった。
その注文の量は驚くべきもので、全ての銘柄をソウルドアウトさせる勢いで注文をしていた。




