第26話 【国王陛下の無茶振り】
シャギーは二人のやり取りを黙って見ていたが、自分も、爺のセバスに苦手意識が有るなと、遠い目をしてしみじみ思った。
「私としても、陛下の『誓の書』など怖くて頂けませんので、そのお気持ちだけで結構です」
「では、教えてもらえるのだな?」
「はい」
と言って、話始めた。
『百貨店』の事をすべて話すのではなく、真実と虚実を上手く取り合わせ自分の特殊スキルで、異世界の物を取り寄せる事が出来ると説明する。
「異世界の物だと⁉」
「はい。取り寄せる物によっては何に使うか分からない物や、不思議な文字で書かれた書物、奇想天外な衣装など多岐に亘りございます。あの時、着ていた衣装も取り寄せた物になります」
余りに真実味の無い話に、宰相どころかアサール国王までもが疑いの目を向ける。
「ならば、証拠を見せよ! その、異世界の物を取り寄せてみよ!」
と言った。
ここまで話したからには、当然証拠を見せろと言われると思っていたので、しばし考えてから、いくつかアイテムボックスから取り出した。
「これは懐中電灯と言いまして、魔力ではない他の力によって明かりがつきます。次にこれは、不思議な文字の書物にございます」
乾電池式の懐中電灯と、アラビア語で書かれた本を献上した。僚佑は英語は分かるが、さすがにアラビア語は分からない。ので、何が書かれているか、シャギーも分からない。
ふと見ると二人は懐中電灯に夢中になって、散々いじくりまわしてから、
「これは、どうやって使う物なのか?」
ガクッと肩から崩れそうになるリョウが(最初に聞けよ!)と思っても、仕方の無い事である。
呆れた様子を隠しもせず二人に近づいて、使い方を教えた。
「と、言う事でコーヒーの苗木は、異世界の物を取り寄せた次第でございます」
「…………その方、イエロキーにはずいぶん肩入れいているのだな? このブラクロックには何も思う事が無いのか?」
「陛下の御前でこのような事を申し上げるのは、いささか的外れかもしれませんが、私は、5歳以降はブラクロックの貴族としての教育を受けておりません。その上8歳には実の父親によって『白の魔森』に放逐されたので、正直に言って特に何も思う事はございません」
シャギーの幼い頃の事は調査済みであるが、実際に本人から淡々とした話を聞くと、何やらいたたまれない国王と宰相だった。
「あと、これは蛇足ですが、私はイエロキーの女王陛下に、少しばかり弱みを握られてしまいまして、言う事を聞かざるおえないと言うのも有りますので……」
あの女王陛下の特殊スキル『ミリオンアイズ』で、リョウとセイの秘密ほぼすべてを知られている。だからと言って、無茶苦茶な要求はしてくる事は無いので、今の所は大人しく要求を呑んでいる。
それと、自分のせいで今回の国家間の騒動に発展した貴族籍の事でも、力になってもらったので、結果ウィンウィンの関係でもある。
「弱みを握られている? どのような弱みなのだ?」
「…………ここで話すとお思いですか? 話したら今度は陛下にも。弱みを握られる事になるじゃないですか?」
肩をすくめるように答えるリョウ。
「ああ、ダメか。うっかり答えるかと思ったのだがな」
引っかけるにしても、直球すぎて呆れた目を向けるリョウである。
「まあ良い、本題に入る。このブラクロックの特産になる物を何か思いつかぬか?」
「…………砂糖だけではご不満でしょうか?」
「あれは、量産は出来ん。お前もそれは分かっているのでは無いか?」
「……やはり、お判りになりましたか? そもそも、原料は雑草ですから潤沢にありますが、手間がかかるうえ燃料も掛かりますからね。国内消費でも高級品の部類になってしまいますでしょうね」
「分かっていながら、献上したのか?」
「特に献上しようと考えていた事ではあませんでした。どう言った経緯か分かりませんが情報が広がりすぎました。明らかに、私の落ち度です」
シャギーとしては、 貧困の村の救済対策程度のつもりで、砂糖の精製方法を教えたのだが、ここまで影響が大きくなるとは思わなかったのである。
「特産品の件ですが、今すぐ何かをと言われましても、思いつく訳では無いので、少し時間を頂きたい。何か思い至ったら連絡を差し上げます」
「まあ、それで良かろう! 良い案を期待してるぞ。…………それと、その内また忍びでどこかに行こうではないか?」
国王の飾らない態度に好感が持てるが、出来ればこちらを巻き込まないで欲しいと切実に思うリョウである。
「陛下の、お心に叶うよう努力いたしますが…………その、お忍びの供の件は出来ればご遠慮申し上げます。私も、今は忙しい立場になってしまいましたので」
「そうか、残念ではあるが仕方あるまい。まあ、その方も貴族の教育が大変だろうしな!」
本当に、この国王の情報網はどうなっている事やら、自分のプライベートな事までバレている。その事に対しては、これからは自分の領地の情報管理には気を付けねばと、心に誓い、国王の御前を辞したシャギーだった。
王宮を辞したシャギーは、ブラクロックの屋敷には戻らず、そのままイエロキーの家に戻ってきた。屋敷に戻ればまた面倒な貴族教育が待っていると思うと、逃げたくなってしまったのである。
「あれ? 兄さん今日は向こうじゃなかったの?」
「その予定だったが、チョッとお前に相談したい事が出来たんで、戻って来たんだ」
「…………まさかと思うけど、貴族教育をすっぽかして来たんじゃないよね?」
疑いの目を向けるセイに対し、あからさまに眼を逸らして、人差し指でこめかみを掻きつつ、
「…………ん~。……まあ、そうとも言えるかな? あっ、でも相談が有るのはホントだぞ!」
「しょうがないな~。 あっちにはここにいるって連絡しときなよ! きっと、心配してるだろうから」
「って言うか、呆れていると思うぜ」
そこまで分かっていながら、脱走して来たのかとあきれ顔のセイだったが、あの貴族教育は、もしセイが受けるとしたら自分も逃げ出すなと思い、リョウに同情するのである。
「で、相談って何?」
そこで、さっき王宮でブラクロックの特産品を、どうにか出来ないかと言われた事をセイに話す。
「ん~、特産品ねぇ~。色々考えられるけど、何が良いのかね? 農業製品とか、工業製品とかね」
「どれもこれも一長一短には、語れないよな?」
「一番のネックは、寒さが厳しいって事だよね?」
そうなのである。ブラクロック王国は冬の期間が非常に長く、温かい期間が短すぎるので、農産物はあまり良くは育たず、畜産業もいまいちなのである。工業製品はそこそこ出来るものの、技術者の数が少ないので、量産が叶わないと言った現状なのである。
「イエロキーの時と同じように、前世の物と思ってもなぁ~。丸々こっちで出来るかって言ったら疑問だし。たまたま、コーヒーは上手くいったと考えるのが妥当だと、俺は思うんだよな」
「あっ! 僕もそう思った。本当に根付くと思わなかったもん」
「だよな~」
だがセイは、そんなリョウの態度でも分かってしまう事が有る。
「でも兄さんは、何かもう考えているんじゃないの?」
「…………お前には適わないな~。何で分かった?」
「ん~。長い付き合い、とか?」
「ハハハハハㇵ…………ホントに適わない!」
リョウとセイとして過ごした時間はそんなに長くは無いが、二人が共に過ごした時間は、とても内容が濃い充実した時間を過ごしてきた。今では、お互い気心の知れた本当の兄弟の様な仲である。




