第25話 【シャギーの貴族教育】
リョウはセイに向かって、
「ギルマスから御指名が入ったけど、お前はどうする?」
「ん~。ここの錬金術士ギルドにちょっと寄ってみるよ。あとは、ここに戻って来るから」
「じゃぁ、話が終わったら俺はここで待ってるな」
と言って、冒険者ギルドで分かれた。
ギルマスの部屋に移ったリョウとスヴェンは、勧められたソファーに腰かけ、
「で、話って何ですか?」
「今回のクリスタルホーンディアの件は、リョウさんの言っていた、ドルセン男爵の密猟で間違いなかったですね」
「あぁ、やっぱり」
「王宮騎士団がキッチリ話を引き出したそうです。何でも、南のアレッドカで大規模な密売組織が暗躍していて、貴重な素材やアイテムを高値で取引しているそうです」
ここ最近、アレッドカにかかわる事件が多くなってきている。先日のミーニャの人身売買組織もアレッドカの名が出ていたし、今回の密売組織もアレッドカである。
あの国は今、どうなっているのだろうか。リョウはある一人の人物の顔を思い出していた。
リョウが物思いにふけっていた時、ギルマスのボールスが、申し訳ない様な、おかしさを堪えているような感じで、
「リョウさんには悪い知らせです。前領主代行であった、あなたのお父上のガルバン殿も今回の件に関わっていました。しかし、今は騎士団の牢に入っているので、捕まえる必要無いので楽ですがね」
リョウは、頭が痛いとばかりにこめかみに手をやり、
「ったく! あいつは何やってくれてるんだよ! あんな奴の血を受け継いでいるかと思うと、いやになるぜ‼」
「リョウも、何かの罪に問われるのでしょうか?」
スヴェンもリョウの今後が気になる様である。
「いえ、現ロザリード辺境伯は、何もご存じないのは明白なので、おとがめなしです。ですが、色々文句をつける輩が多くいるのも事実ですので、今回の、ランクダウンと言う事になった次第です」
リョウも納得したようすで、
「まあ、色々こみこみでの処遇と言う事ですか」
「そんな所と思って下さって結構ですよ」
それから、今回の顛末を詳しく報告したり、報酬をどうするか話し合ったり、ボリスを今後ギルドでどう扱うかなど話して、解散となった。
ドルセン男爵には嫡子はおらず、怪しげな養子縁組での後継者がいたが、これも書類不備との事で養子が認められず、結局王国直轄領となった。報酬の件は、もともとドルセン男爵からの依頼料に加え、密売組織の壊滅に貢献したとして、国からの報奨金が出る事になり、ボリスの件は、情状が分からないでも無いが、色々な面で教育が必要と判断された。そして、ギルドの監督不行き届きで、キッチリ再教育を行う事が決まっていた。
蛇足ではあるが、『ブラット』のリョウがロザリード辺境伯であると言う事は改めて、かん口令が言い渡された。ある意味、リョウは色々有名になりすぎたせいでの処置である。
そんなこんなで、今回のクリスタルホーンディアの件は終わりを告げたのであった。
それからしばらくは何事も無く日々が過ぎ、シャギーはランクダウン中に領主としての教育を、シュテハンやマリアーナの父であるマルクスから、嫌々ながら受けていた。
「ハァ~。…………これって絶対にやらなきゃいけないのか?」
連日の貴族としての教育と、領政の執務の多さに飽き飽きしているシャギーである。自分の好きな魔法の研究になると、時間を忘れて机にかじりついているのに、こう、しきたりばかりを教え込まれると、いい加減嫌になる。
こんな事は、何もシャギーに限らず、前世の学生なら誰もが経験した事が有るのではないか?好きな事は時間を忘れ、いやな事は時間が長いと。
マルクスが言うには、執務に関してシャギーは、自分達でも太刀打ちできない程完璧にこなせるが、貴族としての常識がまるでダメだそうだ。
なので、今教えている事は貴族としての基本中の基本である事。
シャギーは、5歳までしか貴族の教育を受けておらず、その後は波乱万丈の生を過ごしてきた。だからと言う訳では無いが、平民として暮らしている方が性に合っている。それに日本人の僚佑としても、貴族などは時代遅れで常識外の身分制度なのである。
そんな時、執務用の机のわきに置かれた台のミニ魔法陣が光り、一通の手紙が届いた。
この台は、以前シャギーがシュテハンの相談事の連絡用にと置いた台で、今では、イエロキーの家からと、ブラクロック国王アサール陛下と、イエロキー聖教国マミーナリサ女王からの手紙が届くように、魔法陣を改良をしてある。
手紙が届いたのをこれ幸いと思って、嬉々として手紙の蠟封を切る。
今回届いたのはアサール国王からで、相談したい事が有るので、すぐ来て欲しいと言った内容だった。
「国王陛下に呼ばれたんで、チョッと行って来るわ!」
と、軽いノリで転移して行ってしまった。
後に残ったマルクスとシュテハンは、
(逃げたな!)
と思い、ため息をつく。
「はぁ~。あの方は、幼い頃は本当に神童かと思われる程、良くお出来ななられたのに、どうしてこうなってしまってのでしょうか?」
「ハァ……無理も無いかと思いますよ。ガルバン殿によるあの虐待では…………」
「つくづく、ろくな事をしませんでしたね。ガルバン様は!」
二人は、目を合わせ再びため息をついた。
「お召しにより、参上いたしました」
片膝をついた、正式な礼で王宮に転移をしたシャギー。
それに対し、かなりフランクに接するアサール国王。
「よく来た! 堅苦しい挨拶は不要だ。お前と俺で街中を散策した仲では無いか⁉」
(いや…………どんな仲だよ⁉)
心の中でツッコミを入れるシャギー。
「膝まづいていては話ずらい。まずは座ってくれ」
「では、お言葉に甘えまして」
と言って、アサール国王の対面に腰かける。
ベテランと思われるメイドがワゴンを押して入って来て、国王とシャギーの前にカップを置く。
「これはコーヒーだ。まあ、お前には説明は不要だろうがな」
「はい。イエロキーの新たな特産品ですから」
「それだけでは無いだろう? お前が、このコーヒーをあの婆さんに教えたんだろう?」
まだ、イエロキーでも販売を始めたばかりの、コーヒーが出て来た事に驚いたが、この事に自分が関わっている事が、分かっている事に驚いた。
「……………毎回毎回、どうしてそのように詳しい情報をお持ちなのですかね? 全く感心してしまいますよ。……ですが、その情報には少し誤りがあります」
「ほう! どのような誤りだ?」
「コーヒーの情報は、私が女王陛下に御教えしたのでは無く、初めからご存じでしたから」
これにはさすがのアサールも知らなったようで、
「…………そうなのか? それは知らなかったな。で、お前は何に関わっているんだ?」
「コーヒーの苗木の手配です」
「ッ‼ どこでその苗木を手に入れたのだ! あれはどう調べてもラドランダー大陸の物では無いぞ!」
アサールは、イエロキーでも極秘中の極秘になっている、コーヒーの苗木をどうにか入手する事に成功した。その後、学者と共に色々調べた結果、このラドランダー大陸の物では無いと結論付けた。
「…………陛下。これは私の特殊スキルに関する事なので、口外不要でお願いいたします。それを守っていただけないのであれば、御教えする事は出来ません」
「ああ! 必ず守る! 何なら、『誓の書』を書いても良いぞ!」
食い気味に答えてしまった所に宰相が、すかさず注意をする。
「陛下! 貴方様は国のもっとも高貴な方です。軽々しく『誓の書』など口にしてはいけません‼」
「爺! あっ、いや、ブランドン。実際にするわけでは無い。気持ちの問題だ!」
宰相ブランドンはアサール国王の爺やだったらしく、頭が上がらない様であった。
『誓の書』とは、契約を交わす時に書かれるもので、魔力的縛りがあり、違反すると身の破滅を引き起こす。ゆえに、絶対に守らなければならい様な契約に使われる物である。




