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第24話  【クリスタルホーンディアと鬱屈ボリス】

 闇落ちしたブラッククリスタルホーンディアを前にして、魔法の詠唱をしながらシャギーはいたたまれない思いで、

(お前も苦しいんだよな? 辛いよな! なりたくてなった魔物化じゃないからな。……元に戻す事は出来そうも無いが、今、俺が楽にしてやるから‼)


 詠唱が完了し、その様子を見ていた面々が今まで見た事のない、白銀と赤い色が混ざり合った美しい魔法陣が完成した。

 聖の魔力と火属性の魔力が入り交ざった魔法が発動する。


「【聖火炎闇滅破】‼」


 まばゆい光と炎がねじれ合いながら、ブラッククリスタルホーンディアに襲い掛かる。

「キャシャーンーーーー‼」

 と一声上げて、光と炎に包み込まれ、抵抗する事も無く一瞬のうちに倒れていった。


 その後には、シャギーを見つめる、クリスタルホーンディアの蜃気楼の様な影を、彼だけには見えていた。

(ごめんな。助けてやれなくて。安らかに眠ってくれ)



 静寂が辺りを支配する中スヴェンが、

「どうやら、あれがダンジョンボスだったようだな⁉」

「その様だな。辺りの魔物が居なくなった。まだ出来立てのダンジョンだったから、2階層どまりだったんだろうな」

 シャギーも、その意見に賛成する。


「あの、闇の力の勢いでダンジョンが出来上がって行ったら、どうなった事やら、考えるだけでも恐ろしい!」

「だがスヴェン、闇の気が消え去った訳じゃ無いから、原因が分かるまでここは封印した方が良いんじゃねぇか?」

「そうだな。では、いったん全員外に出る事にしよう!」


 と、話がまとまりかけた時に、またボリスが難癖をつけて来た。シャギーを指さし、

「出るのは良いけどよ、てめぇがブラッククリスタルホーンディアを燃やしちまったから、貴重な素材が灰になっちまったんだ。この落とし前はどうつけるつもりなんだ!」


 スヴェンは、頭が痛いとばかりに蟀谷に手をやり、

「何を言っているのか、理解に苦しむんだが? シャギーリースがあれを倒さなかったら、我々は大変な被害が出ていたのが分からないのか?」

「ふん! それはそれ、これはこれだ! 俺達は命を懸けてこの依頼を受けたんだ。それなりの見返りを求めて何が悪い!」


 正直、このボリスは今回の依頼でたいした事はしていない。むしろ、シャギー達に突っかかる事で、他のメンバー達の迷惑にすらなっている。その状況にもかかわらず、

「そもそもあいつが、初めの依頼を完了させておけば、こんな事にならなかったんじゃねぇのかよ⁉」

 などと、リョウ達を貶めるような事を言う。


 黙って聞いていたシャギーも、さすがにこれだけ言われれば、黙ったままではいられない。売られた喧嘩は高く買うのがシャギーの主義である。

「何が言いたい‼」


「お前がドルセン男爵に、クリスタルホーンディアを倒せと依頼されたんだろ! だったらその時倒しておけば、あれは魔物化しなかったんじゃねぇのかよ⁉」

 とんだ屁理屈に呆れながら、

「はぁ? 訳が分からん! 俺達は依頼を受けてすぐにここに来た。その時、この鉱山のダンジョン化を見つけたんだ。あの状態ではすでに奴は魔物化していただろうよ!」


「ちげぇよ! てめえは、王宮で男爵から直々に依頼を受けたんだろが⁉ そん時直ぐに行動すればって事だ!」

「……なんだそれは! それこそが話の筋がおかしくなる原因だったんだぞ! だいたい、男爵が辺境伯を呼び止めた挙句、魔物の討伐を命令するなど、言語道断な出来事だって分かってるのか? それに、何でお前は王宮での出来事を知っているんだ⁉」

「へッ! そんなお貴族様の事なんか知るかよ! あんたがあの時依頼を断ったせいで、俺の兄貴が代わりに討伐に向かって死んじまったんだ! 全部てめえのせいだ‼」


 言っている事は分からないでも無いが、完全に逆恨みだ。


 所詮、冒険者などと言うものは、死とは切っても切れない職業である。その覚悟も無しに冒険者になり、後になって死んだから責任を取れと、言って来る身内の者は結構居るのである。



 今回は、間が悪かったとしか言いようが無いが、逆恨みには違いが無いので、

「俺は、冒険者として決められた行動を取ったまでだ。それが気に入らねぇと言うんなら、冒険者など辞めちまえ!」


ボリスは視線でシャギーを射殺さんばかりに睨みつけ、

「……………………良いよな、お貴族様は! いざとなったら権力にモノを言わせて、俺達平民なんかゴミクズみたいに処分すりゃ良いんだからよ!」

 この男の貴族に対しての闇の深さが、うかがい知れる言葉である。


「お前の兄の事は残念だったとは思うし、お前が、貴族からどんな扱いを受けたか知らない。しかし、それをシャギーリースに向けるのはどうかと思う! 私も貴族の一人として言わせてもらうが、彼は、貴族として当たり前の事をしたに過ぎない」


 スヴェンにそう諭されても、すぐには気持ちを変える事など出来やしない。シャギーを、睨みながらパーティーメンバーと共に、ダンジョンの外に向かって歩き出した。


 他のパーティーも皆外に向かう。いまいち消化不良な思いと共に。



 シャギーとスヴェンは歩きながら、

「今回は『ブラット』に世話になりっぱなしだったな」

「気にするな、そのうち借しとして返してもらうさ!…………所で、スヴェンは貴族だったんだな?」


 何か、面白い物を見た様な顔でスヴェンは笑いながら、

「あの時俺も王宮の謁見の間に居たんだ。あの、お前の着ている服に度肝を抜かれた一人だよ」


 目を丸くして、頭をかきながら、

「いや~、張り切った割にはそう効果は無かったし、逆に今になって恥ずかし思いをしてるさ」

 とシャギーは言う。


「所でスヴェンはどこの貴族なんだ? 恥ずかしついでに教えてくれ。俺は新参なんでな、なかなか顔と名前が一致しないんで困ってる」

「ハハハハハ……。本当に分かって無かったのか? ドルセン男爵領とお前の領地を挟んだ反対側だ!」

 シャギーが本当に分かっていない様子が可笑しかったのか、爆笑しながら教えてくれた。


「と言う事は、ジニーアス伯爵か⁉」

「……まあ、側室腹の四男だけどな。なんかお前とは気が合いそうだ! これからもよろしくな‼」

「おお! と言いたい所だけど、基本冒険者としての俺はイエロキーが主体なんでな、それで良ければよろしく頼む!」


 シャギーは初めて貴族の冒険者仲間を得る事が出来き、二人は固く握手を交わした。



 ダンジョン(今はクリスタル鉱山に戻った)を出た一行は、とりあえず王都に帰る事とした。

 その際、シャギーは人の侵入を阻止するために、鉱山入り口に厳重な結界を張った。


 指輪をはめ、元のリョウに戻ったシャギーを見て、スヴェンは興味深げに、

「どうなってるんだ、それは?」

「ん? まあ、チョッと教える事は出来ないんだ。広まるとえらい事になる恐れがあるからな!」

「…………ケチ!」

 と言い、リョウは、久しぶりに思い切り笑っていた。



 王都の冒険者ギルドに戻った一行は、ギルマスに報告をしたが、リョウに恨みを持つボリスがまた問題を超す。

「ギルマス! どこかの誰かのせいで、ブラッククリスタルホーンディアの貴重な素材が、一つも手に入らなかったんです。当然、これは処罰の対象ですよね⁉」


 どれほどの恨みをリョウに抱いているかのか分からないが、こう度々だとさすがにもう一組のA級パーティーも、黙っていられなくなった。

「本当に、いい加減にしろよ! あの時、リョウさん?…シャギーリースさん?…が対処してくれなきゃ俺達全滅するとこだったんだぞ‼」


 途中で、リョウからシャギーにそして今はまたリョウの姿なので、名前をどうしたら良いのか迷ってしまったのである。


 ここラドランダーの世界では、名前と言うのは非常に神聖なものである。

 洗礼により魂に刻まれた名前を受けると、その他の名で呼ばれると生理的に拒否感が有るのだ。

 ゆえに、貴族も平民も関係なく、名を呼ぶときは最新の注意を払うのである。


 ギルマスのボールスはそんな彼を見て、

「ボリス君の言っている事は間違ってはいない。でもね、そもそも君は今回の依頼には参加できないはずでは? 確かに君のパーティーはA級だけど、君自身はC級だよね? これも処罰の対象だよね」


 階級を偽っての討伐依頼は、それこそ命の危険が増すので、禁止されている事である。その事を指摘されては問題のボリスも言い返せないようで、拳を握り締め、唇をかみ黙って下を向いている。


「今回の事についての処分を出します。双方、半年間のワンランクダウンとします! では、今日はご苦労様でした。報酬の件は素材が入りはしませんでしたが、それ相応に支払わせてもらいますよ。後は、ゆっくり休んで下さい。……あっ! スヴェンとリョウは残って下さい。話が有ります」


 かなり厳しい処分である。C級がD級に落ちるのは、ままある事ではあるが、S級がA級に落ちると言う事は聞いた事が無い。


 これを聞いた者達は、口々にリョウに対しての処分が重すぎるとか、相手の処分が甘すぎるとか言い出したが、当のリョウが、

「まあ、妥当だと思うぜ。 俺もしばらくは貴族業が忙しくなるんで、半年は冒険者業は休業だ」


 スヴェンがあきれ顔で、

「お前にとって、貴族は職業なのかよ⁉」

「まあ、そんなもんだ! 俺はつい最近まで平民だったからな。仕事だと思わなけりゃやってられん!」

「ハァ~、お前にとっては、貴族は価値が無いものなんだな?」

「当たらずとも遠からずだ」


 リョウとスヴェン、二人はお互いに顔を見合わせて、ため息をついていた。


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