第19話 【シャギーリース・ロザリード辺境伯】
その後、ブラクロック国王から、正式に出向くようにとの書状が届く、各諸侯との顔見世を兼ねた綬爵の儀式を行うと記されたいた。
リョウは、いつもの口癖の、
「面倒くせぇ~」
を連発しながらも準備をし、婚約者のマリアーナとシュテハンを伴い王都ホラストロイズに向かって行った。
そこに新たな厄介事が、リョウを待ち受けているとも知らずに。
正面の玉座に国王陛下が座し、各大臣、諸侯が居並ぶ謁見の間に、一人国王陛下の前に進み、膝をつき正式な礼をとるシャギー。
シャギーはどうせ、海千山千の狸おやじがうじゃうじゃいるならばと、初めから奇をてらって度肝を抜かせ、マウントを取りに行くと決めていた。
今日のコスプレ衣装は、思い切り派手なものにしたのだ。
細身の真っ赤なノースリーブのロングレザージャケット、片身頃だけに黒と金の刺繍を施し、飾りのベルトとバックルを付けた。インナーは黒で体にぴったりしたハイカラーのシルクのシャツ、ハイカラーの襟と袖口に黒の絹糸で刺繍がしてある。パンツはジャケットと同じ色、同じ素材のスリムパンツで、飾りに金のチェーンとベルトとバックルを付けた。靴は黒のごつい見た目の編み上げブーツを用意し、仕上げに左側だけを覆うような黒のロングマントを羽織る。マントには、襟元と裾に黒のファーを施し、黒の絹糸と銀糸でびっしり刺繍がさしてある。
長身のシャギーが着ると、かなりさまになっているし、顔の傷がまた良いアクセントにもなっていて、ワイルドさが増している。謁見の間に居た女性は少なからず、目にハートが映っていた。
その様子を、同じ謁見の間にいたマリアーナは、
(ハゥ!………何てステキなの!………彼は私の婚約者で旦那様になるのよー‼)
と、心の中で見悶えていた。
そう言うマリアーナも、彼に合わせて赤いドレスに、黒と金の差し色の刺しゅうを施した、少し派手目だが彼女の美しさを引き出したドレスを纏っていて、彼女もまた人目を集めている。
シャギーの余りの派手さに、その場にいた国王を初め居並ぶ面々は言葉が出ない。
跪いたまま国王陛下の言葉を待つリョウだったが、自分のカッコが周りに与えた衝撃が、あまりにも大きすぎたと心の中で(テヘッ!)と舌を出す。
ようやく気を取り直した宰相ブランドンは、何事も無かったように一つ咳払いをして、
「これより、シャギーリース・ロザリード辺境伯の綬爵式を執り行う!」
と、高らかに宣言した。
式は、粛々と進んでいるが。そこ此処で密かな声が聞こえてくる。
(あれが、新しいロザリード辺境伯か?)
(まだ、若造ではないか⁉)
(なんでも、冒険者などと言う事をしていたらしいぞ!)
(本物なのでしょうか?)
(あれでは『双赤を纏う者』も地に落ちたな)
言われ放題ではあるが、シャギーは気にならない。自分自身が一番そう思っているからである。が、だからと言って卑屈になる訳でも無い、そんな細かい事を気にしていたら、冒険者などやっていられないからだ。
綬爵式が終わり、今度は国王陛下と各大臣、有力諸侯のみが集まる会議室に移動して、これからの事が話し合いが行われる。
コの字型に置かれたテーブルのコの字の空いている場所に座らされた。
(これじゃあ、まるで査問委員会だな⁉)
などと、今、自分が置かれている現状を皮肉に他人事の様に見ている。
「さて、ロザリード卿。いくつかその方に尋ねたい事が有る」
アサール6世国王の王弟トリスタン公爵が、いかにも横柄で蔑みの眼差しで話しかけてくる。
「私にお答えできる事であれば何なりとご質問ください」
シャギーも負けずに片頬を上げた皮肉な笑いで答える。
途端にヒソヒソトと聞こえてくる声。
(王弟殿下にあの態度は何事だ!)
(出自はともかく、育ちは下賤の者と同様だな)
(あれでは、街の無頼と同じではないか!)
(このブラクロック王国の品位が下がるわ!)
(お~お、言ってくれちゃってるね~。別に、俺は喧嘩を売りに来た訳じゃ無いが、はなからそう言う態度で来られると、こっちも売られた喧嘩は高く買いたくなるぞ!)
心の中で、臨戦態勢に入るシャギー。
「やめんか!」
張りのある良く通る鶴の一声で、アサール国王は周りを制す。
途端に周りに居た人々は黙り込む。
さすがは若くして国王になっただけはあると、その一声でシャギーも分かった。
「まずは、此度の綬爵の儀、大義であった。これよりはこのブラクロック王国の貴族の一員として、私を支え国に尽くすように」
「承りました。仰せのままに」
シャギーはそう答えたが、国王は爆弾を落としてくれた。
「その方は、イエロキーでも爵位を賜っているそうだな?」
「…………はい、リョウスケ・クジョー準公爵としての爵位を頂いています」
また、外野のザワツキが激しくなる。
「その方、自分がロザリードの直系の跡取りであると分かっていながら、イエロキーでの爵位を受けたと言う事だな?」
「確かに私は直系ですが、8歳の折に実の父親に『白の魔森』に捨てられた者です。ですので、ロザリードでは不要だと判断されたのでしょう。ですから、後は自分の好きなように生きてきました。正直、今さら領主をしようとは思っていませんでしたが、冒険者の依頼としてロザリードに来た時、右手に紋章が現れ困惑しました。なぜなら、その依頼を受ける以前に、イエロキーで準公爵の爵位を賜っておりましたので……」
「成程、イエロキーが先で、ロザリードの紋章が後と言う事か」
「まさかこの様に、二重の貴族籍を受ける事になるとは思いもよりませんでした。恐れながら国王陛下にお尋ねしたいのですが、紋章が両手に現れる事が有るのでしょうか? 片手に紋章が有る場合、私がロザリードに入っても紋章が、現れなかったのではと愚考いたしますが?」
「確かに、私もそのような事聞いた覚えは無いな」
ここで宰相ブランドンが、
「陛下、私も学者を含め色々調べましたが、その様な例はありませんでした。紋章が出ている人間は、どんな事をしても二重に爵位を得る事など出来ないと、結論致しました」
その宰相の言葉によって、外野のザワツキはピークに達する。
「では、なぜその者は両手に紋章が有るのです⁉」
「何か、やってはいけない事をして紋章を偽造したとか?」
「そうです、その者は、そもそも特級魔導士として高名を得ているのです。目くらましをするなど容易い事ではないか⁉」
「鎮まれ‼」
またも国王陛下の声でピタリと声が収まる。さすがの貫禄である。
「このような事は前例が無いと言う事は、このシャギーリースと言う男は、それだけの何かを持っており、何かを成し遂げねばならぬと言う事なのだろう。今後、この件についてとやかく詮索する事を禁ず‼ 分かったな!」
辺りを見回してみると、納得できないと顔に書いてある人物が半数以上居るのが分かる。しかし、国王陛下の決定なので渋々了承して見せていた。
宰相ブランドンが書類をめくりながら、
「ロザリード卿は、砂糖を作ったと報告が来ておりますが、誠ですか?」
「はい。試験的に作らせたものですが…………」
「何か不都合があったのですか?」
「いえ、だた、薪を大量に使う事になるので、このブラクロックでは冬の寒さに使うための物ですので、痛し痒しな所であります」
石油や石炭などが有ると確認が取れていないので、現代日本の知識が有るおかげでむやみに木を伐採して、森林資源を消費する訳にはいかないのである。
ただ、その様な事を分かっていないこの世界の人間は、
「木などいくらでもあるではないか、切って薪にすれば良いのではないか? 何を躊躇っているのだ?」
「そうだな。木を切る事に比べれば、砂糖による収益の方がはるかに有益だろう」
そう、僚佑のいた世界も以前は、いや、今もアマゾンなどでは木を切り倒し続けていて、森林資源の消費により、野生動物の保護や地球温暖化の問題になっている。
しかしこの世界には、魔物が居る。木を切り倒しすぎた弊害がどう出るか分からない。ゆえに、シャギーは木を伐りすぎる事にためらいを感じるのである。
「砂糖を作るための手順を、公開するのは構いません。ただ、今は、本当に試行錯誤をしている段階ですので、その手順通りにしても良い物が出来るとは限りません。それでも良いとおっしゃるなら、作り方を公開しますが、後になって私の方に出来ないと文句を言われても困ります。ですので、砂糖作りを知りたいとおっしゃる方には、出来なくても私の方に文句を言わないと、一筆書いて頂きたい。それが不服だとおっしゃるのであれば、今回の砂糖の件はあきらめて頂きたい」
古参の貴族にしてみれば、若造が何を言っていると言う思いだが、いち早く宰相ブランドンが、
「では、私は一筆書きますので、砂糖の製法をお聞かせください」
と、周りを牽制した。




