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第14話  【謎の冒険者】

 マリアーナに一瞥いちべつをくれて、

「俺はレッドじゃねぇ‼」

 と切り捨てる。


「リョウ……だったかしら?」

「………この黒髪の時はな」

「じゃあ、『双赤を纏う者』の時は違うと言うの?」


 リョウは黙って、さっきシュテハンに渡した書状に目をやる。

 それは正式な書状なので、名前も正式な物を記さねばならない事に気づき、3人は慌てて書状の名前を確認する。

 男としては流麗な文字で『シャギーリース・ロザリード』と記されてあった。


「…………シャギーリースと言うのね。でも…私にとっては、幼い頃私を好きだと言ってくれたレッドだわ」


 自分が幼い頃に言った他意の無い一言、それを支えにレッドが生きていると思い、今まで暮らしてきたと思われる。しかし、自分はもう昔の自分では無い。そして、もう昔には戻れない体である。


「バカかお前は⁉ じゃあ、お前はミディーと呼ばれて嬉しいのかよ⁉」

 と、マリアーナの幼名を告げてみる。


「嬉しい訳無いじゃない! 私はマリアーナと言う魂の名前が有るのよ」

「じゃあ、俺がレッドと呼ばれたくねぇのも分かるだろうが⁉」


 自分で矛盾している事を言っているのは分かっているが、子供の頃の大切な思いが有るので、割り切れないのも確かであった。


 黙り込んだマリアーナを他所よそに、リョウは改めて転移をしようとしたが、今度はマルクスが声をかけてくる、

「待ってください! この際、領地の事は私どもで何とか致します。ですが、娘はあなたをずっと慕って今までを過ごして来ました。どうか、あなたの妻にして頂きたい! お願い致します」


 考える素振りも無く、速攻で、

「断る‼」

 と言い切った。


 リョウとしては、魔族の血の事が有るので、結婚なんてとても出来る事では無いと考えている。

 子供が出来た場合、高確率で魔族の子が生まれてしまう惧れがあるからだ。その場合リョウの責任ではなく、マリアーナが魔族に犯され子を宿したと、非難されるのが目に見えて分かる。

 そんな可哀そうな目にあわさない為にも、リョウは誰とも結婚しようとは思っていない。


「ああ、もう! とにかく話は終わりだ! 俺は帰る!」

 と言って、転移してしまった。


 あとに残された3人は、それぞれが割り切れない不安な心持で、イエロキーを後にした。



 ロザリードに戻ったシュテハンは、正式な領主代行として精力的に政務に取り掛かった。

 ガルバンが、余りにも自分本位で政務を行っていたので、ハッキリ言ってとてつもない財政難である事が分かった。かと言って、領民にこれ以上の税をかける事など出来るはずも無く、頭を悩ませる日々が続いていた頃、その噂が耳に届いた。


 ロザリード領の辺境の村や町から、シュテハンの行いに対する、好意的な話が聞こえて来たのである。

 シュテハンとしては、その様に言われる事は何も行っていないにも関わらず、日々名声が高まって行く。

 それとは反比例する様に『双赤を纏う者』である、シャギーリースの悪評も広がって行った。


「いったい、これはどう云う事なんだ?」

「さあ? 私にも皆目見当がつきません」

「これではまるで、誰かがシュテハン様の良い噂を流し、お館様の悪評を流しているような感じさえ致します」

 シュテハンの相談役に就いたマルクスと、セバスも不思議がる。


「誰か、信の置ける者にこの件を調べさせてくれ」

「分かりました」


 後日、その報告が届いた。

 その内容は驚くべきもので、シュテハンの命を受けたと言う、濃い紫の髪で青い目の冒険者が町や村の改革を行って、少なからず日々の生活が良くなりつつあるといった事だった。


 もちろん、シュテハンは、そんな指示を出した覚えが有る訳無いので、まるでキツネにつままれた様な思いだった。


 その冒険者は、長身のなかなかの男前で、濃い紫の髪をターバンの様な物で纏め上げ、青い瞳で左目を黒い眼帯で覆っている。そして、大きな剣を背中に背負っているとの事だった。

 シュテハンとしては、ここの所『領主の灯』が点灯したり消えたりしていたので、シャギーリースが領内に来ているのではと考え、彼がそれらを行っていると一時は思った。が、彼の髪は黒で瞳も黒であった事に気づき、その思いを打ち払う。


 そしてある日、とうとう見過ごす事が出来ない事態が起こった。


 やはり、辺境の村からの報告で、ダゴイと言う雑草から砂糖が出来たと言ってきたのである。ダゴイは繁殖力が強く、どこにでも生えてきて畑を荒らす厄介者でしかなかった。確かに、少々の甘みを感じるが、えぐみと苦みが酷く食べられる物では無いと言うのが、人々の常識なのである。


「砂糖だと⁉」

「これが本当なら、領地の財政が一気に上向きになりますよ!」

「量産出来るのでしょうか?」


 砂糖は、南のアレッドカ共和国の名産品で、ほぼ独占している。そのため高額で他国の王侯貴族でもめったに口にできない代物である。


「待て。まだ喜ぶにはまだ早い! いったいなぜこんな事になっているのか、私が直接行って確かめてくる!」

「ですが、領主代行である貴方様が直々にお出ましになるのは、危険ではございませんか?」

「セバス。お前はそう言うが、これは〔はいそうですか〕と言って済ます事はできない事態だ! 自分の目で見て判断をしたい」

 と言って翌日には、その砂糖が出来たと言って来た村に、出かけて行った。


 その村に着いた時、村は総出でシュテハンを歓迎した。

「ご領主代行様。この度はこの村に多大な幸運を授けて下さり、誠にありがとうございます。このご恩はこの村一同、子々孫々迄伝えて行く事に致します」

 と、村長に言われてしまい、今さら自分の指示では無いとは、言えない状況になっていた。


「あっ、いや。…………ところで、例の冒険者はどこに居るのか分かるか?」

「あの方ならば、今朝がた、森に出たアイアンロックボアの討伐に行かれましたが……」

「いつ頃戻る?」


「あっ、ちょうどお帰りになりましたよ」

 と言って、森の入り口を指さした。


 そこに居たのはアイアンロックボアを引きずっている、まごう事無き変装をしたリョウの姿であった。


 リョウのそばに居た、姿変えを解いていたイースが、

「あ~、兄さん! バレちゃったみたいだよ?」

「まずいなー。バックレるぞ!」

 と言って転移しようとしたが、シュテハンが一足早かった。リョウの腕をガシッと掴み、


「逃がさないぞ‼ 詳しい話を聞かせてくれるだろうな‼」

 と、怒気を含んだ笑顔で言い、リョウは天を仰いでため息をついた。


 人払いをした村長の家で、リョウはシュテハンとセバスに挟まれ尋問されていた。

「お前は何をやっている‼」

「なにって、見て分からんか? 魔物の討伐だ。アイアンロックボアは美味いんだぞ!」

韜晦とうかいしているんじゃない! 真面目に話せ!」


 のらりくらりと話をはぐらかすリョウに対し、シュテハンは怒りが収まらない。

「私の評判を上げるのは良いとしても…まあ…良くは無い、が……なぜ自分の評判を落とす‼ 全く訳が分からん‼」

「俺のような荒くれ者が、領主でいたって良い事なんざねぇからよ。せいぜいお前を持ち上げて、領政が上手く回れば良いじゃねぇか。なぁ?」


 とは言ってみたものの、このままでは当分解放してはくれなさそうなので、諦めて話し出すリョウ。

「……まあ、なんだ。……あの時ああは言ったが、俺はあのくそ野郎の血を引いているからよ、これも身内の罪滅ぼしだと思って、俺に出来る事が有ればと動いていたに過ぎないんだ」

「出来る事って…………それが砂糖を作り出す事なのか? あり得ないだろ‼」


 普通に考えても、砂糖を作るなんて事は常識外れである。


「だから、砂糖は止めた方が良いって言ったのに……」

 とイースが口をはさんだ。

「でもな~、ダゴイを見つけちまったからなぁ~。砂糖が出来るって思ったら…………」

「ホント、考え無しの処置無し!」

 兄弟の言い争いになってしまった。


 イースの姿を見てシュテハンは訝し気に、

「君は、ひょっとしてセイ君か?」

「ええ、そうですけど……それが何か?」

「えっと…………黒髪と金髪とどちらが本当の姿なのかな?」

 イースは、ニッコリ笑って、

「秘密です」

 と言った。


「所で、その変わった姿は何だ⁉」

「とりあえず、リョウともシャギーとも分から無い為の変装?」

「ハァ~。何の為に変装をする必要が有るんだ。領主のシャギーリースとして、堂々と砂糖作りを指導すれば良いではないか?」

「いや~、こんな領主じゃ申し訳ないからなぁ~」


 どう言っても、リョウの自分自身の評価を変えそうも無いので、

「とにかく、一度領主邸に来てもらう! 逃げるなよ! 逃げたら、今までの事は全部お前の指示の元やっていたと噂を流すからな‼」


 と脅され、しぶしぶ領主邸に行く事を了承したリョウだった。


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