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第13話  【リョウスケ・クジョー準公爵】

 静かな部屋にカチャカチャと音がする。しばらくすると、部屋中にコーヒーと共に、また別の爽やかな香りが広がる。部屋にいる者達はその香りに思わず目をつぶり、香りを堪能する。


 シャギーがワゴンを押して来た。まず、女王陛下の前に淹れたてのコーヒーを置き、次にマルクス、シュテハン、マリアーナの順でコーヒーを置いた。最後に、デミタスカップ位の小さいカップを、ローランに渡す。一応、毒見の為である。


 その後、シャギーは女王陛下の後ろに控えるように立った。


 ローランの毒見が済んで、女王がカップに口を付け、

「ほぅ…………」

 とため息をつき、

「とても素晴らしい香りと味わいですね。あなたは、また腕を上げましたね」

「お褒めにあずかり光栄です」

 とシャギーは軽く頭を下げた。


「皆さま、この飲み物は、イエロキーでこれから本格的に栽培、販売を考えている物になります。どうぞ味わってみて下さい」

 女王は、コーヒーをいたく気に入り、このイエロキーでも栽培する事が出来ないかと思い、リョウにコーヒーの苗木を『百貨店』から取り寄せさせ栽培実験を試み、最近になって栽培の目途がついたのである。


 そう女王陛下に言われては、口を付けない訳にはいかないので、3人はカップを口に運ぶ。その、思いがけない香りと味わいに驚き感心し、

「とても、美味しゅうございます」

「今までこのような飲み物は味わった事がございません」

「……………………おいしい」

 三者三様の感想を口にした。


 女王は、シャギーに目をやり、

「紹介しましょう。こちらはブラクロック王国のロザリード辺境伯領から来られた、シュテハン・ロザリード卿とマルクス・ランズベル卿。そして、そのご息女のマリアーナ・ランズベル嬢です。フフッ、あなたの許嫁ですって」

 含みを持った笑いに少々イラッとするが、表情を変えず、

「私には、覚えがございません」

 とすげなく返す。


 あらためて女王は3人に問う。

「さて、あなた方が探しているのはこの者で間違いありませんか?」

 と、本題に入る。

「はい。その者こそが我がブラクロック王国、ロザリード辺境伯で間違いありません!」

 シュテハンが食い気味に答えたが、次の瞬間冷や水を浴びせられたかの様になる。


「では、この者の名は何というのです?」


 リョウがロザリード辺境伯領に居た時、一度もリョウ以外を名乗っておらず、シャギーリースの名は誰も知らない。


 シュテハンが、

「レッドです」

 と答えたが、女王は呆れたように、

「それは、幼子に付ける幼名だと聞き及んでいますが?」

 と返す。

「名も分からずに、ロザリード辺境伯と言うのはおかしくはありませんか?」


 全くその通りなので、反論が出来ない。


「先日、この者にはそちらの依頼を受ける際、この国を出立する前にイエロキー聖教国の準公爵の地位を授けており、この国のれっきとした貴族なのです。それを、後から名も分からぬのに、そちらの貴族なので返して欲しいと言われましても、こちらとしても困ります」


 その言葉に、シュテハン達は驚きを隠せなかった。


 実は、リョウがムーンシャナーに相談を持ち掛けてから、すぐに女王は動いた。

 女王は、たとえリョウが他国の辺境伯だったとしても、色々な意味で彼を手放す気は全く無かったのである。

 あまり、権力を笠にした事はしたくは無かったが、今回ばかりは女王の特権を生かし、ゴリ押しでリョウを準公爵にしてしまった。

 本当は、公爵の地位を与えたかったが、さすがに王族の血筋でもない者には難しい。だが、辺境伯の地位に対抗するには侯爵では弱い。

 妥協案として、新たにリョウ一代限りとして準公爵の地位をもうけ、急遽、綬爵の儀式を執り行ったのである。


 女王はシャギーに、

「では、準公爵としての姿を現し、名を名乗りなさい!」

 と命ずる。


 シャギーは、隠しから指輪を取り出し、左手中指にはめる。一陣の風が吹く中、黒髪黒い瞳のリョウになる。


 シュテハンに目を向け、

「お久しぶりです。イエロキー聖教国、リョウスケ・クジョー準公爵です」

 と言い、左手甲の準公爵の家紋の入った手を胸に当て、立位の礼をとった。


 礼をとるリョウを見て、シュテハンは何故が少し違和感を感じた。その正体は、紋章が浮き出ている手だと気付き、

「紋章は、右手に現れる物です。なぜ、クジョー卿は左手なのでしょうか?」


 女王はたいした事では無いと、

「ああ、その事ですか。初めは右手で行いましたが、紋章が出る事が無かったので、左手に変えた所綺麗に出たのです。それが何か問題でも?」

「あります! 紋章は右手に出てこその物です」

 フフフと小さく笑いながら女王は、

「では、右手が無い貴族もおりますが、その者は左手に紋章が有りますよ。わたくしは手の左右にこだわる必要をあまり感じておりません」


 女王の勝ちである。

 実際、左手に紋章が有る貴族はそこそこ居るので、この論理は成り立たない。


 誰もが口を開かなくなり、部屋の中に沈黙が落ちる。


 女王は、

「ですが、この者はそちらの言う通り、ロザリードの者でもあります。これからしばらく時間を差し上げますので、お互いが利になる様に話し合いを行ってください」

 と言って、退室して行った。


 それを、礼をとって見送ったリョウは口を開く事無く、黙ってテーブルに置かれているコーヒーカップを下げた。

 そして、新たにコーヒーを入れなおし3人に提供し、自分はマグカップに淹れたコーヒーを持って、椅子にドカッと乱暴に座る。


 足を組み、明らかに先程とは全く違う態度のリョウに戸惑う3人。


「で、俺に話って何だ?」

 と、言葉と態度を崩し話し出すリョウ。


 こうなると3人共、何から話して良いのか分からずにいた。


「話が無いなら俺は帰る」


 と言ってリョウが立ち上がったその時、ようやくシュテハンが言葉を発する。

「待て! お前はそれで良いのか⁉」

「何がだ?」

「ロザリードを見捨てて、イエロキーにくみする事だ‼」

「…………俺を見捨てたのは、ロザリードの方だろ! 見捨てておいて今さら戻って来いなんて、虫の良い事言ってんじゃねぇよ‼」


 その、強い言葉に押し黙るシュテハン。


「この間も言ったが、俺がガキの時にお前らは何をやった⁉ 俺が、散々あのくそ野郎にいたぶれている時に、見て見ぬふりを決め込んでいたのはてめえらだろが‼」

「待ってくれ! 私はその時お前と同じ子供だったんだ、何かを出来るはずないだろ!」

「それでも、親に訴える事位は出来ただろ⁉」

 

 シュテハンは唇をかむ。


「ですが、あの時ガルバン殿に逆らえば、こちらもただでは済まなかったのです」

 と初めて、マルクスが口を開いた。

「そんなのは口実に過ぎない! やろうと思えば反対勢力を結集して、あいつを排除する事だって出来たはずだぜ!」

「しかし…………」

「しかしも案山子もねぇよ! それをやらなかったのは、てめぇらのエゴと自分可愛さの結果だよな⁉」


 シュテハン達は、思った以上にリョウのロザリードへの、嫌悪と拒絶が強い事に改めて気づかされた。


「この間渡した物はどうした?」

 と、リョウは先日渡した書類をどうしたか聞く。


「ああ、あれでガルバン殿は国からの捕縛命を受け、投獄されたよ」

「本当に助かりました。感謝いたします」


 シュテハンと、マルクスに礼を言われたが、リョウは嫌悪を隠そうともせず、

「なぜ、今まで出来なかったか不思議だぜ! 怠惰も良いとこだな!」

 と切り捨てるように言った。


 マルクスが、

「これにより、本当にロザリードでは領政を行う者が居なくなり、滞りが各所で出ております。どうか、あなたにロザリードに戻って来て頂き、領主として正しき領政を行って頂きたい」


「フン! 勝手な言い草だな! お前らで蒔いた種だお前らで何とかしろ!」

 と言いつつアイテムボックスから、丸めて蝋封がしてある一通の書状を取り出し、シュテハンに放り投げる。


 受け取ったシュテハンは、蠟封を解いて中を改め驚いた。

 それは、正式な領主によるシュテハンへの領主代行の任命書であった。

 この正式な任命書が有れば、領主のみが使える、ペンも印も使う事が出来る様になるのである。


「お前が今日から領主代行だ! せいぜい良い領政を行えよ!」

 と言って、その場から転移をしようとしたその時、


「お願い、待って! レッド!」

 初めてマリアーナが声を出す。


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