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第12話  【俺は辺境様だったりして?】

 突然、赤い髪赤い瞳に姿を変えたリョウを、ムーンシャナーとアーノルドは、驚愕の表情で見ていて言葉が出ない。


 シャギーは、面白そうに二人を見て、

「いや~、ギルマスのそんな顔を見られるなんて、得しましたよ~」

 と呑気そうに言う。


 ハッと我に返ったムーンシャナーは、恐る恐る聞き返す。

「お前は、リョウか?」


「そうです。……では、改めまして。ブラクロック王国、ロザリード辺境伯シャギーリース・ロザリードと申します。以後、お見知りおきを」

 と、右手の手袋を外し、領主紋が見えるように胸に手を当て、綺麗な立位の礼をして見せた。


「どう言う事なんだ! お前がその行方不明の息子なのか⁉」

「そうですよ。今回ロザリードに行く事になって、ブラクロック王国の国境門を通った瞬間、この紋章が現れたんです。………もう、こう言う面倒くさい事になるから、俺はブラクロックには行きたくなかったんですってば!」


 とんでもない事の衝撃で、立ち直る事が出来ず、

「…………なぜ、今まで黙っていた?」


 当然の疑問にシャギーは、子供の頃から今に至るまでを話した。

 魔族と関わった事は言わずにいたが。


「『白の魔森』に捨てられた? 良く生きていられたな⁉」

 アーノルドが感心を通り越して驚く。


「まあ、モノ好きで親切な人って、割と何処にでもいるんですよ。5歳で母親を殺され、8歳で父親に捨てられ、10歳にはその養い親も居なくなってしまい、それからは一人で生きてきました」


 その、悲惨な子供時代を聞いて、二人は

「それでロザリードに帰ろうとは思わなかったのか?」

「帰ったら、また虐待の日々どころか、命が危ないと思いましたからね、帰りたいとは思いませんでしたよ。それに、その時いた大人たちは皆、見て見ぬふりでしたから、そんな奴らの為に領主なんてやってられませんって!」


 ある意味、納得は出来る。

 納得は出来るが、領地の事を考えれば、

「領民の事を考えた事は無いのか?」

「まあ、俺より優秀ないとこが居ますから、そいつに任せれば良いと思いますよ」

 と、あくまでロザリードに係わりを持ちたくないシャギーの態度である。


 複雑そうなな表情でこちらを見ている二人に対し、肩をすくめながら指輪をはめ、元のリョウに戻ったシャギーは、

「で、相談なんですが、俺はイエロキーを離れたくはないんです。このままここにいられる手段が無いか、女王陛下のお知恵をお借りしたいんです。絶対、ロザリードの奴らは俺の引き渡しを要求してくると思うんでね‼」

 と強く言う。


 これは、かなり政治的な事になる。国家間の重要事態だ。一国の正式な辺境伯が、他国に亡命を求めていると同じ事になる。


 ムーンシャナーは頭が痛い。なぜこうも次から次とこの男は問題を起こすのか? 

 そう言えば、ロザリードの初代も、常識外れの問題行動が多かったと、今さらながら思いだした。

 これも『双赤を纏う者』の、なせる業なのかどうかは分からないが、初代と同じような行動を取るリョウに、嘆息する。


「とにかくこの事は一度女王陛下に、お伺いを立てるので、お前は自宅で謹慎していろ!」

「えっ? 謹慎? 俺、謹慎するような事しましたか⁉」

「……間違えた。自宅待機だ!」


 アーノルドは笑いながら、

「間違える程、お前の行動が突拍子も無いんだろ!」

 と慰めにもならない事を言った。


 ふと、彼女は気が付いた事が有るので、リョウに問い質してみる。

「……お前。冒険者カードの名前は、確かリョウだったよな?」


 冒険者カードは血で魂の名前を表すので、偽造は出来ない。なので、今回のこの騒動でカードに記載されている名前と、辺境伯の名前が違う事がどうなっているのか気になる。


「あ~。実はですね、この黒髪の時は名前がリョウと、赤い髪になるとシャギーリースと、鑑定の魔術具に出るんですよ。もっとも、辺境伯の紋章が右手に出るまでは、ただのシャギーでしたけど」


 その返答に、ムーンシャナーもアーノルドも驚きを隠せない。なぜならば、そんな事になったらリョウの様に姿を変える事が出来る者は、名前を変え放題になってしまうからである。


「バカな! そんな事が有ってたまるか!」

「女王陛下は、この事はご存じなのか⁉」

「赤い髪になれる事とシャギーの名前の事はご存じですが、さすがに辺境伯だと言う事はご存じないと思います。俺も、こんな事が無ければ、一生誰にも自分が辺境伯の血筋の者だとは、言うつもりはありませんでしたからね」


 悪びれずにシラッと話すシャギーに、ますます頭痛が酷くなる気がするムーンシャナーであった。


「なぜ、姿を変えていた?」

「それは、一つにはロザリードにバレたくない事と、セイの姿に寄せる事です」

 そう言われて、改めて思い至った。リョウがロザリードの血縁者ならば、セイとは他人になる事を。

「あいつも、子供の頃から苦労してるみたいで、少しでも家族らしい事がしたかったんですよ」

 と、少し寂しい笑顔で答えた。



 それから、ふた月ほどたったある日。 

 思わぬ長期の休暇となったリョウの元に、女王陛下からの手紙鳥来た。内容については、赤い姿で来る事と、正装で来るようにとの事だった。


「いよいよだね、兄さん!」

「まあ、そうだな」

 セイの楽し気な態度とは裏腹に、まったく気乗りしない様子のリョウ。


「なんか嫌そうなんだけど?」

「行くのは良いんだ。行くのはな。…ただ…………正装が…………面倒くさい」

「…………まあ、頑張ってね…………」


 やればいくらでも貴族の所作が出来るのに、堅苦しい事が嫌いなリョウの心境が、手に取るように分かるので、セイもそれ以上の事は言えなかった。


 女王陛下のリクエストに応えて、今日はどこぞのアイドルかと思う様な、赤を基調とし、差し色に黒の騎士風のコスプレ衣装にしてみた。


 日本のアイドルの衣装は、この世界では生地も仕立ても良く見えるらしく、ハッキリ言えば高級品に見えるのだ。それを逆手にとって、安くても高級に見える服として、最近のリョウは便利に活用している。しかし、最近はやけくその開き直りで、コスプレイヤーと化しているリョウである。


 いつもの様に王宮のあの小部屋に転移する。ただ、いつもと違うのは、今日は片膝をついた正式な礼をとっての転移である。


「お召しにより、参上いたしました」

「良く来ました。では、いつもの様に」

 と、女王陛下の言葉が有り、

「はい。承りました」

 と返事をする。


 顔を上げるシャギーの目に、女王とローラン、他に3人程いつもと違う人物が映った。

 一人は、いとこのシュテハン。あとの二人は、シャギーが最も会いたくない筆頭の人物。子供の頃から決まっていた許嫁の、濃い青紫の髪と若草色の瞳のマリアーナと、その父であるマリアーナと同じ髪色でサファイアの瞳のマルクスだった。


 三人の視線を気にも留めず、シャギーは部屋の片隅にあるコーヒーショップのような場所に行き、コーヒーを淹れる準備をする。

 ここ最近は、王宮に呼び出されると必ず、シャギーはコーヒーを淹れさせられていたのだった。


「本日は、どのように致しましょうか?」

「そうですね。何か変わった趣向の物で、お願いします」

「では、フレーバーコーヒーなど如何でしょうか?」

「フレーバーコーヒー?」

「はい。味はコーヒーですが、コーヒーの香り以外の香りを加えた物になります」

「面白そうですね。では、それでお願いします」


 女王とシャギーのこのやり取りを、3人は驚きながら見ていたが、陛下の御前である手前何も言えず、ただ黙って見ていた。


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