第11話 【怒りのシャギー】
シャギーは、こちらを見ている者達を見回し、ガルバンに視線を定める。
『光の聖剣』の時にいつもやっていた、剣の代わりに魔導士の杖を肩に担ぎ、片頬を上げ犬歯をむき出した笑いで、一歩一歩ゆっくり近づいて行く。
ガルバンは、しびれて思うように動かない体でも、恐怖からか必死にシャギーから離れようと後ずさる。
ガルバンを館の外壁まで追い詰めたシャギーは、凶悪な表情を作り、
「さて! 親父殿、久しぶりだな~!」
「…………知らん! わしはお前の様な奴は知らん!」
「ハァ~? てめぇの息子の顔も忘れるほど耄碌したのかよ、それじゃしょうがねぇな」
と呆れたように言いつつ、アイテムボックスから一枚の紙を取り出しガルバンに突き付け、
「じゃぁ、これにサインしてくれ。耄碌していてもサイン位は出来るだろ?」
「断る! 誰がサインなどするものか! それに、儂は耄碌などしておらん‼」
「ふ~ん。別に俺は構わないぜ、これは冒険者ギルドの依頼完了を記す書類だ。サインをもらうまでここにいてやっても良いんだぜ。これを貰わない事には、俺はイエロキーに帰る事が出来ねぇからな!」
その言葉を聞き、怪訝そうな顔で、
「イエロキーに帰る?」
「ああ、俺はこんな所にゃ用はねぇよ! 一刻も早く暖かいイエロキーに帰りてぇだけだからな」
「……おまえは、領主の座を奪い返しに来たんじゃ無いのか⁉…………」
「誰が好き好んでこんな寒い所来るかよ! てめえが、特級魔導士として俺を呼んだんだろ!…………だがよ~、てめえがサインしなけりゃ俺はずっとここに居続けなきゃならいんだよ!」
シャギーの言葉にガルバンは、
「サインをすればここを出て行くのだな⁉」
「おおよ! 速攻で出て行ってやるぜ!」
それを聞き、シャギーが領主になる事が無いと踏んだガルバンは、
「その書類をよこせ、サインしてやる!」
「お~おぅ! 偉そうに言うじゃねえか⁉ それじゃぁ、書いて貰おうか」
と言って、書類とペンを渡した。
しかし、それを聞いたシュテハンとセバスは黙っていられない。
「待て! レッド! お前は正当なロザリード辺境伯だぞ。それを無視してイエロキーに行くと言うのか⁉」
「そうです!貴方様はこのロザリードの希望なのですよ!」
シャギーは肩越しに振り返り、
「面白れぇ御託並べてくれるじゃねぇか? 俺が、ガキの頃お前らは俺に対して何をした! 何もしてねぇよな? 今さら、領主をやれってのは勝手が過ぎるんじゃねえのか⁉」
その言葉はシュテハンとセバスに突き刺さる。
「ほら、サインをしたぞ! 早く出て行け‼」
と差し出された書類をシャギーは受け取ったが、ここで壮絶な笑いを浮かべ、
「まあ、出て行くがな…………チョッと昔の事で思う事が有るんでよ‼」
と言いながら、ガルバンの顔面を思い切り殴りつけた。
S級冒険者のシャギーが思い切り殴ったのだ、ガルバンの顔はただでは済まない。顎の骨が砕ける音がし、顔が変形してしまっている。当然、意識も失っている。
それでも飽き足りないのか、シャギーは怒りで肩が揺れている。
「兄さん。そこまでにしておきなよ。それ以上やったら死んじゃうよ?」
握りこぶしを震わせているシャギーの手に、セイは自分の手を乗せ優しく諭す。
「…………あっ、ああ、すまない。ちょっと自分を見失っていた」
その言葉で少し落ち着いたのか、空を見上げ長いため息を一つ付き、セイに向い、
「ハァーーーーー。帰るか?」
「うん!」
と、二人で歩き出した。
少し歩いた所でシャギーが振り返り、シュテハンに歩み寄り、アイテムボックスから書類の束を取り出し、押し付けた。
「これをどう使うかはお前らに任せる。好きに使え。だがな、これ以上俺に構うな! 今度、何か言ってきたらあれ以上の事になるかならな。覚えておけよ‼」
と言って、ガルバンを見た。
そして、シャギーとセイの二人は、その場から転移で消え去った。
残されたシュテハンは、押し付けられた書類を見て、驚愕の表情になる。
それは、いったいどうやって調べたのか、ガルバンの悪行の数々の証拠書類であり、証人の証言及び証人の所在を書き記した物だった。
これまでも自分たちで調べてはいたが巧妙に改ざんされており、なかなか思うように調べる事が出来ず、結果ガルバンの悪行を黙って見ているしかなかったのである。
ただ、この書類が有ればガルバンの領主代行を取り下げさせる事が出来、それどころか捕縛対象にもなると思われる。
さすが『双赤を纏う者』と言うべきか。これ程の事が出来るにも関わらず、ロザリードを後にしたシャギーに対して、ただ黙っている訳にはいかない。
シュテハンは、必ずロザリードにシャギーを連れ帰ると心に決めた。
一方、転移でイエロキーの家に帰った二人は、やっと一息つく事が出来たが、見るからに気落ちしているシャギーは静かに、
「ちょっと今日は疲れたから、もう寝るわ」
と言って自分の部屋に入って行った。
その姿を見ながらセイは、何とも言いようのない気持ちになっていた。
翌朝、何事も無かったかのように、リョウの姿に戻ったシャギーは、いつもの時間にいつもの様に起きて来て、ミーニャが作った美味しい和食の朝食を食べながら、
「今日、ギルドに行って、書類を提出してくるが、お前も行くか?」
「ああ……僕はちょっと試しかけの錬金術が有るんで、パス!」
「…………くれぐれも、離れを壊すなよ」
「うん、頑張る!」
「ハァ~」
と、いつもの掛け合い漫才の様なやり取りをして、リョウは転移で出かけて行った。
ギルドに転移してきたリョウは、真っ直ぐギルマスの部屋に向かい扉をノックした。返事が有り部屋に入ると、そこにはギルマスの他に懐かしい顔がいた。
以前、この『聖光の館』でS級冒険者パーティーの、リーダーとして活躍していたアーノルドである。
彼は巨人族と人族のハーフで、凄腕の両手剣士だったのだが、自身もメンバーも年齢には勝てず、3年前に冒険者を引退したのだった。
リョウは笑いながらアーノルドに近寄り、
「久しぶり! 元気そうで何よりですね!」
と、握手を求めた。
アーノルドもそれに応えて、手を出し握手しながら、
「お前も元気そうだな!『ブラット』の活躍は聞いてるぞ!」
「いや~、噂だけが独り歩きしてるだけですよ」
「謙遜するな、ドラゴンスレイヤーだろ!」
と言いつつ、拳で軽くリョウの肩を叩いた。
「ところで、今日はどうしてギルドに?」
と聞いた所、ムーンシャナーが、
「今日から、アーノルドに私の助手を務めてもらう事にした。とんでもない事を次から次と仕出かす奴がいて、仕事が増えたんでな!」
明らかにリョウ達の事を言っているのが分かったが、リョウは明後日の方を見ながら、
「へぇ~、そんなはた迷惑な奴がいるんですね」
と、しらばっくれる。
ムーンシャナーは呆れて、
「バカ者! お前の事だ!」
と言い、そばでアーノルドが豪快に笑っていた。
リョウは改めて今回の事、ドラゴンの使い魔の事を含めムーンシャナーに報告をした。
「詳しい事は後ほど書類で提出します」
彼女は、こめかみに手をやり、
「言っているそばからこれだ、本当にお前は!」
「と言ったって、俺はやることをやっただけで、後は全部不可抗力ですってば!」
アーノルドも呆れ顔で、
「これでは、本当にリョウ達はトラブルメーカーそのものだな」
と宣った。
「あと、もう一つ報告と言うか、相談した事が有るんですが?…………」
ムーンシャナーは渋い顔をして、
「聞きたくない!」
と、きっぱり言った。
「え~、聞いてくださいよ~。ギルマスの知恵を貸してほしいんですってば!」
「何か困り事なのか?」
「まあ、そうなんです」
自身がロザリード辺境伯の、正当な領主と言う事は避けながら、お家騒動に巻き込まれたと告げる。
すると、ムーンシャナーは意外な事を告げる。
「確か、あそこの領主代行の息子は、今、生死も行方も分かっていないんだったな。……そうだ、なんて言ったか……………そう!『双赤を纏う者』だ‼」
これにはリョウも驚きを隠せない。
「ご存じなのですか⁉『双赤を纏う者』を?」
「ああ、私はロザリード辺境伯の初代と顔馴染みなのでな。それとなく気にはしていた」
(700年前の人と顔馴染みって…………いったい何?)
心の中で、嘆息する。
「それで、その息子が現れたのだな?」
「そうです」
「会ったのか? その『双赤を纏う者』に」
「ええ、まあ……」
「で、どんな奴だった?」
「こんな奴です」
と言って指輪を外した。




