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第10話  【『氷雪鳥』】

 シュテハンが指さすランプを見ても、リョウは何の事か分からず、

「いいえ、分かりません。何か特別な物なのですか?」


 シュテハンは、リョウの目をまっすぐ見つめて、

「これは『領主の灯』と言って、このロザリード辺境伯領内に領主が居る事を明りで示す物なのだ」


 その言葉を聞きリョウは、背中に冷や汗が流れるのを感じたが、知らぬ存ぜぬを貫く。

「そうなんですか。それが何か?」


「ここ最近、そう、君たちがこのロザリード辺境伯領に入った辺りから明かりが灯って、この領主邸に近づくにつれ明るさが増してきた。で、今が最も明るくなっていると言う事だ」


 シュテハンは、確信をもって、

「君はレッドだな‼」

 とリョウに言った。


「ハァ~!」

 と一つ大きくため息をつき、言葉を崩してリョウは言う。

「どうしてこの館のもんは、俺をそのレッドとか言うのにしたがるかね~。この間、そこの爺さんにも同じこと言われたぜ」

 とあきれた様子で話す。

「そこの爺さんに、手を見せろって言われて見せたけど、その何とか紋ってのは無かっただろ? で、今度はランプかよ。全く次から次へと何なんだ⁉ いい加減にしてほしいぜ! まったくよー!」 


「しかし、そうだとしたらこのランプの明りをどう説明するんだ⁉」

 リョウはランプに目をやり、

「ちょっとあれ見せてもらっても良いか?」

 と言って、ランプに近寄り手をかざす。すると、ランプの周りに複数の魔法陣が現れた。


「やっぱりな! これは良く出来た魔術具だ。領主の魔力の他に、強い魔力に反応するようだな。自慢する訳じゃないが、俺はこのラドランダー大陸でも、一二を争う魔力の持ち主だ。俺の強い魔力に反応して、誤作動したんだろう。それに、セイも俺に負けず劣らず魔力が多いから、それも影響したんだろな」


 そのリョウの説明を信じたくは無いシュテハンは、反論を試みる。

「では、そうだと言う証拠を見せてほしいものだ!」


 リョウは、いともあっさり了承する。

「良いぜ!」

 と言って、自分とセイの周りに魔力障壁の結界を張る。すると、瞬く間にランプの灯は小さくなった。

「これで分かったろ? さすがに灯を全部消すにはこの領地を出るしかないがな」


 シュテハンもセバスも、ランプの明りに一縷いちるの望みを持っていただけに、この事実に衝撃を受けた。


 一方、出まかせのハッタリと、力技でランプの明りを押さえていたリョウは心の中で、ほとほと嫌気がさしていた。

(ったく、何でそんなに領主を示す物が有るんだ? 昔から領主をかたる奴が多かったって事なのか? ああ、面倒くさ‼)



 その時、急に外が騒がしくなり、悲鳴まで聞こえて来た。


 リョウとセイはいち早く窓に駆け寄る。

 窓の外には、まるで空を埋め尽くすかと思える程の、氷の魔物『氷雪鳥ひょうせつちょう』が群れで飛んでいた。


『氷雪鳥』は冬に出る魔物で、飛びながら羽から氷の結晶をまき散らし、その結晶に触れた物を凍らせてしまうと言う厄介な魔物である。しかし、まれに群れで飛んでいる事はあるが、これほど多くが群れていた事は、今まで見た事が無かった。


「なんて数だ! このままでは領都中が凍り付いてしまう!」

「兄さん、あの鳥は何⁉」

「お前は見た事無かったか⁉ あれは氷雪鳥と言う冬の厄介な魔物だ! 一羽でも厄介なのにこの数の群れだ! 行くぞセイ!」

「分かった!」


 と言いながら、窓から外に飛び出る。


 それを見たシュテハンが、

「待て! ここは3階だぞ!」

 と言いながら窓に駆け寄り下を見たが、二人は何事も無かったように街を見下ろせる場所に駆け出していた。


 領主邸は街の一番奥の少し高くなった場所にあり、街を一望できる。


 街を見下ろしながら、

「俺は、ここから街中を覆う対物衝撃と対魔法結界を二重に張る。お前は、フブキに乗って結界の外から数を減らしてくれ‼」

「こんな広範囲に結界を張るなんて無理だよ!」

「やるしかないんだよ! じゃなきゃ街ごと全滅する‼ バスターソードに炎の魔法を付与する!出せ!」

「わかったよ!」

 と言ってリョウに魔法の付与をしてもらう。


「ついでに、お前自身にも対寒の魔法を掛けておいた。 無理するなよ!」

「兄さんもね!」


 といって、セイが乗れる位の大きさになったフブキの乗って、空高く飛んで行った。


 リョウは、愛用の杖を取り出し魔力を惜しみなく注いで、超広範囲の炎の結界魔法を張る。赤く輝く魔法陣が街中を覆い、氷雪鳥の結晶から街を守る。


 その時、後方からガルバンの怒声が聞こえた。

「今だ! あいつが動けない今が絶好の好機だ! あいつを殺せ‼」


 ガルバンは、卑怯にも結界に魔力を注ぎ込んで、結界を維持していて動く事が出来ないリョウを、襲わせようとしている。この機を逃せば、S級ランクの冒険者をるなど、とても出来そうに無いからだ。

 手下の者共が、リョウを取り囲み、剣を振り下ろす。


 左手に杖を掲げ持って結界に魔力を注ぎ込みながら、右手に持った愛用の剣で手下どもの攻撃を防ぐリョウ。

「チッ! こんな時に何てことしやがるんだ‼ てめえ! 領民の事考えてないのかよ‼」

「そんな事はどうでも良い事だ‼ 最早もはやお前達が何者でもわしは構わん! お前達さえ居なければ良い事だ!」

「クソ! 理屈になってねぇぞっ‼」


 どうにか、攻撃を防いではいるが、無傷とはいかず体中血が滲む。

(このままでは、らちがあかん! これ以上無駄な魔力は使いたくないんだが、背に腹は代えられん‼)


 と、ガルバンと手下に向かって、

「【パラライズ】‼」

 足止めの為に魔法を放つ。

 途端にそこら中でしびれて動けない者が続出し、倒れこむ。


 リョウは、余計な魔力を使い余力が乏しい。ハイポーションを飲むが焼け石に水状態。


 一方セイも空の上で苦戦を強いられていた。バスターソードを振るうたび、赤く燃える炎がそこらじゅうの氷雪鳥を薙ぎ払う。が、何せ数が多い。

(早くしないと、兄さんの魔力が潰えてしまう!)

 焦る気持ちが、攻撃に影響し、仕留める数が減って来る。


 リョウは上を見上げて、セイが氷雪鳥を仕留める数が少なくなってきている事に気が付き、

「しょうがない! 最後の手段だ‼」

 と言い、今張ってある結界に残りの魔力全てを使い、氷雪鳥を下から上に包み込むようにまとめていく。


 リョウの体から魔力が赤いもやの様に沸き立つ。その力に、姿変えの指輪と髪飾りが耐えきれず弾け飛ぶ。

 赤い髪があらわになりふわりと漂う。ルビーの目が眼光鋭く空をにらむ。その顔には大きな傷。


 そこには、この領地で探し求めていた『双赤を纏う者』、行方不明とされているレッドの成長した姿が有った。

 その姿を見たシュテハンとセバスは歓喜し喜び、しびれて倒れているガルバンは恐怖と狂気に包まれた。



「くっそたれーーーーーーーーーーー‼」

 残りの魔力全てを注ぎ、巨大な結界で氷雪鳥を包み込み、燃やし尽くした。


 力を誓い果たしたシャギーは、その場に仰向けに倒れこむ。急ぎ、地上に降りて来たセイが駆け寄り、

「兄さん! 大丈夫⁉ これ自分で飲める⁉」

 セイは、エリクサーを差し出す。

「………ダメだ、指一本動かせねぇ…悪い、飲ませてくれ………」


 倒れているシャギーの背中に手をまわし、上体を起こしてエリクサーのビンを口に当て飲ませるセイ。

 小声で、

「兄さん、姿変えが解けちゃってるけど…………」

「ああ、分かってる。もう、ごまかしは効かない! しょうがない、もう一仕事するか!」


 エリクサーが効いて切られた傷も治り、魔力も体力も戻ったシャギーは、起き上がり自分を見ている者に、己の今の姿をハッキリと見せた。


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