第4話 【えっ? 四千円⁉】
短いです。
イースがシャギーから持たされた荷物は、剛力としては標準的な重さではあるが、普通の人が持つにはかなり重いものだった。
中身が何であるかを聞けるはずもなく、イースは、馬車に黙って揺られている彼に目を向ける。
そこには、普段では考えられぬ程、静かに外の景色を見ている、顔色の悪いシャギーが居た。
馬車の乗客は、早朝と言う事もあってか少なく、イースたち二人と行商人と思われる中年の男一人、そしてシホワロイト教の巡礼者が一人。その他馬車の護衛に冒険者が二人いた。
冒険者は巡回馬車を運営しているギルドの専属で、イース達とは特に面識はない。
シャギーが力なく話しかけてくる、
「このままイエロキー方面の『四色街道』を行くと、途中いくつかの宿場に泊まる事になる。金の節約の為、部屋は一つだからな。……分かってるな」
「…うん…」
元々イースには拒否権は無いと思っているので、なぜわざわざ確認してきたのか不思議だった。が、口にはしなかった。
途中何度か、強盗や魔物に襲われたが、護衛の冒険者は優秀なA級冒険者であったし、なぜか具合の悪いシャギーまでも討伐に加わって(街道付近に出る魔物は低級なものが多い)、割と楽に切り抜ける事が出来た。
無口で具合も機嫌も悪いシャギーとの旅は、イースには心を摺りつぶされるような日々であった。
やっと、イエロキー聖教国の国境の巨大な外壁が見えてきたが、まだまだアレッドカへには半分にも満たない。
門を通過する時に入国審査があるが、大陸共通の冒険者カードを持っているので、比較的速やかに通る事が出来る。
まあ、旅の目的を聞かれたシャギーは、
「アレッドカのダンジョンに行く途中さ」
そう無難に返事をしていた。
正直に『魔力過多症』などと言ったら、入国を拒否される事は目に見えている事であるし、それだけ『魔力過多症』は危険視されているのである。
門を通過中に、顔色の悪いシャギーを見た門の兵士が、
「兄ちゃん、顔色が悪いけど、病気じゃないだろな?」
「あ~俺、馬車に弱くってよ、乗ってる間中吐きそうで、吐きそうで、
…オェップ…」
「わ~、ここで吐くな!早くどっかに行ってくれ~!」
と言うような、小芝居な一幕もあったりなかったり……。
もう夕方近くでもあり、門の兵士に聞いた宿を目指し歩いていた。
「……今日は疲れているから、宿についたらすぐ飯食って寝るぞ……明日は、大事な話が有るからな……」
と、シャギーに言われたが、イースが断る事は出来ない。
「……分かった……」
宿に着いて、シャギーは宿屋のおやじに、
「二人が泊まれる部屋はあるかい?」
「あ~、ちょうど一部屋残ってるよ」
「じゃぁそれで頼む。二泊でも構わないか?」
「いいぜ、飯はどうするよ?うちは煮込みが自慢だぜ!」
「飯は、二泊で朝夜四食を二人分頼む……もう、飯は食えるか?」
「あぁ、食えるぞ。だがな、宿代飯代は前払いだ!。二人で二泊、銀貨四枚だ。
今、飯の用意をするから、適当に座ってくれ」
空いている席に着き、シャギーは金の用意をしながら、
「…銀貨四枚?四千円だよな。多いのか?少ないのか?…ホント俺にはこの世界の物価は、いつまでたっても理解できんな…」
シャギーはイースに聞こえていないと思っているのか、小さな声で独り言を言っていたが、イースには聞こえてしまい、内心パニックを起こしていた。
(今!シャギー四千円って言ったよね! えっ!聞き間違え? えっホント何?……って何だろう⁉)
イースのパニックに気が付かないシャギーは宿代を払い、運ばれてきた煮込みを食べていたが、イースを見て、
「お前、何やってんだ、早く食えよ」
「あっ、ごめん…いただきます」
と、手を合わせ、日本人ならではの食前の挨拶をした。それを見たシャギーは何とも言えない表情でイースを見ていた。
食事が終り、宿のおやじに部屋の場所を聞いた二人は、二階に上がり部屋に落ち着く。
ベッドに力く座ったシャギーは、夕闇が濃くなった窓の外に目をやりながら、
「明日、本当に大事なことを話すことになるから、今日は、もう寝ろ」
そう言うと、シャギーは、窓から目を離し、ベッドに横になりすぐに寝息を立てた。
イースは、シャギーが見ていた窓に、ぼんやり目をやり、
(本当に辛そうだよね、でも、話って何なんだろう?…僕にとってその話って良い話ではなさそうだね…)
シャギーと同じように、暗くなった窓から目を離し、イースもベッドにもぐった。