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第6話  【貴族なんて、なりたくない‼】

 衝撃のリョウの告白が終わった。


 あまりの事にセイは返す言葉が見つからない。


 そんなセイを見て、リョウは悲しげに笑いながら、

「………まあ、これで隠している事はもうない。お前が俺を人として許せないなら、魔族の俺を排除したいのなら、俺はそれを甘んじて受けいれるよ」

「……………何で、……何で、そんな事言うのさ! 僕の兄さんは、大切な兄さんはリョウだけだよーーーー‼」

 泣きながら、リョウの胸に飛び込むセイ。受け止めるリョウも泣いている。


 どれ位二人で泣いていたか分からないが、窓から差し込む光が夕日のそれに代わっていた。


 お互い泣きはらし、目の周りが真っ赤になっている。

「ありがとう。セイ。こんな俺を受け入れてくれて」

「何言ってるのさ! 過去がどうであれ、僕にとって今の兄さんが僕の兄さんなんだよ!」

 リョウにとって、セイのその言葉は希望の輝きにも感じた。 


「今度、あんな事言ったら、体中の骨をバキバキにしちゃうからね‼ 覚悟しておいてよね!」

「…………いや、さすがにそれは勘弁してほしい!」

 一時の、温かい笑いが起きた。


「じゃあ、今度はこれからの事を考えなくっちゃね」

「そうだな…………でも、明日、ロザリード邸に行った時、諸悪の根源のあの野郎の顔を見て、俺は冷静でいられるか自信が無いぞ!」

「いっそのこと、自分がレッドだって言って、このロザリード辺境伯だ!って宣言しちゃえば良いじゃん!」

「…………」


 黙り込むリョウにセイは疑問の表情で、

「ん? 何か都合が悪いの?」

 リョウは、こぶしを握り締めて、

「出来れば、正体を明かさずに依頼をこなして、黙ってイエロキーに帰りたい!」

「何でさ?」

 切実に、

「……領主なんて面倒くせぇし、何よりここは寒すぎるーーーーー‼」

「…………あ~、兄さんらしい…………」

 いつものリョウに、納得のセイであった。


「でも、兄さん…小芝居が得意じゃない⁉いつもの様にやれば良いんじゃん!」

 悪い顔したセイがリョウにそう言う。

「なんか、詐欺師かペテン師な言い方だな!…………でもまあ、それで行くしかないか!」

 とりあえずの方針として、領主の事は無かった事にした二人である。



 翌日、二人はロザリード邸を訪ねた。

 門の所で、警備をしているらしい一見冒険者風の男に、依頼書を見せ取次ぎを頼む。


「ねえ兄さん」

「何だ?」

「今の人、冒険者って言うより、ならず者って言った方が良いんじゃない?」

「……そう言う事は、思っていても言わないってぇのが花ってもんだよ……」

 と、取次ぎを待っている間に、小声で話す二人だった。


 その頃、屋敷の中ではちょっとした騒動が起こっていた。『領主の灯』が、リョウ達が来た事によって、一層輝きを増したのである。

 苛立ちを隠せないガルバンは、窓から外をうかがったが、門の所に居たのは黒髪の二人連れで、赤い髪は見当たらなかったのである。


「いったい、どう言う事なんだ‼」

「ガルバン様。あいつらの他には誰も居なかったです!」


 ガルバンは爪を噛みながら、

「まあ良い。とりあえずここに連れてこい! わしが直々に見極めてやる!」

 と言い、二人を待った。


 執務室の様な部屋に通されたリョウとセイは、部屋の内装に二人期せずして(成金!)と思ってしまうほど、悪趣味満載であった。

(この野郎! 領民の血と汗と涙の結晶の金を、こんな事に使やがって! あーーイライラする‼)

(うわ~! これは無いわ! お金の無駄使いも良いとこだね~)


「お前達が、S級ランクの冒険者なのか? 何かの間違いではないのか?」


 二人を見下したガルバンの態度に、リョウは子供の頃の記憶が蘇り、殴りかかりたい衝動を、乱暴な態度と言葉でどうにか抑えた。

「俺達を疑うのはそっちの勝手だがなぁ、わざわざイエロキーから呼び付けておいて、その言い草は何なんだぁ⁉」

「ふん! まあいわ‼ キッチリ依頼をこなせば何も言わない! お前達にこなせればの話だがな!」


 ガルバンは、リョウがレッドであるかどうか疑ってはいたが、外見がまるで違うので、どうにも決めかねている。


「あぁ⁉ 言ってくれるじゃねぇか? こっちだって金さえ払って貰えればキチッリ依頼はこなすさ!」

「口の利き方も知らんのか⁉ これだから冒険者なんて者はクズなんだ!」

「チッ! うるせぇえじじいだ!」

「何だと! 立場をわきまえろ! きさま、貴族に向かって…………」


 その時セイが、真っ赤になって怒鳴るガルバンの言葉を遮る。

「もぉ~いよ。兄さん、早く依頼こなしてイエロキーに帰ろう!」

「ああ、そうだな! で、おっさん! 結界と魔物どっちが優先なんだ⁉」


 怒りが収まらないガルバンだったが、このいけ好かない二人を早く追い出したい、

「…………口の減らない奴だ! 両方に決まっているだろ‼」

「ったくよーー! これだからお貴族様は分かっちゃいないね。まあ良い、こっちのやり易いようにさせてもらう! その方が確実に依頼をこなせるからな!」

「ふん! 勝手にしろ! 出来なかった時にはお前達に責任を取ってもらうからな‼」

「お前らが、金さえ払えばな!」

 と言って、二人は部屋から出て行った。


 二人が出て行ってすぐに、ガルバンはランプに目をやる。そこには、少し明りをとしたランプが有った。

(やはり、あの二人のうちどちらかが、レッドなのか? 年齢的に言えば、あの口の悪い方だが…………いや、でも、二人とも黒髪だった…………本当にどうなっているんだ!)


 もう一人、部屋の扉の端に静かに控えていた、家宰のセバスは驚きを顔に出さずにいる事に苦労をしていた。

(あの方は、間違いなくレッド様! 御立派におなりになって、このじいは喜ばしいです! あの時、お守りする事が出来ず、本当に申し訳ございませんでした!)

 と、心の中でリョウに頭を下げていた。


 セバスは固有スキルとして、人のオーラを見分ける事が出来、レッドが生まれた時の衝撃的な感動を今も忘れる事が出来ないでいる。それは、今まで見た事の無いほどの美しい輝きを持った、真っ赤なオーラだったからだ。その時と全く同じオーラを纏ったリョウを見た時、レッドだと確信した。



 さて、いったん外に出たリョウは、さっきの事でイライラが収まらない。

「どうしてくれよう!あのくそ野郎‼ 見ていると昔を思い出して、殴り倒したくなるわ‼」

「あれは無いねぇ~! 人としてどうなのよ?って言いたくなるもん!」

「だろ?」


 二人そろって、不愉快な思いをしていたその時、後ろから声を掛けられた。

「レッド様!」

 一瞬目を合わせた二人だったが、自分達では無いと装い無視して歩く。

「お待ち下さい!レッド様!」

 と言われ、今度はリョウの袖をつかんだセバスが居た。


「あぁ? 爺さん、なんか用か?」

「あなた様は、当家のご子息のレッド様で間違いございませんよね⁉」

「はあ? どこ見て何言ってるんだ? 俺はレッドとか言う奴じゃねえよ!」

「いえ! 間違いなくあなた様はレッド様です! じいは、その、オーラの輝きを一瞬たりとも忘れた事などございません!」


(はっ? オーラ? じいはオーラが見えるスキル持ちだったのか。やっべぇな! ごまかし切れるか?) 


 リョウは領主と言う事を何としても隠したいのだが、思わぬ伏兵に背中に冷や汗が流れるのを感じる。


「おい、爺さん。あんたオーラが見えるって⁉」

「はい! レッド様のオーラは、それはそれは美しく、輝く様な赤でございます」


 ここで口八丁なリョウのペテン師ぶりが炸裂する。


「爺さんよ! あんた、ここの領地から出た事あんのかよ?」

「若い頃に何度か王都に行った事がございます。それが何か?」

「やっぱりな! 世界は広いんだぜ! このブラクロック王国しか知らない奴が、俺のオーラとそのレッドだっけ?そいつのオーラと同じだと言うのはおかしくないか?」

「いいえ!オーラは双子でも色が違うのです。ですから、何と申し上げてもあなた様はレッド様で間違いないと、確信致しております!」


 逆に言い負かされそうになってしまったリョウ。

「ハァ、爺さん。ホントに世の中を知らねえんだな! ラドランダー大陸に、どれだけの人間が住んでいるか分かって言っているんだろうな? 探せば、同じオーラを持っている奴の、一人や二人は居るに決まってるさ!」


 この話は、これでお終いとばかりにセバスを振り切り歩き出す二人に、


「では、右の手袋を取って手の甲を見せて頂きたい! そこには、このロザリード辺境伯の領主紋があるはずです!」

 と、伝家の宝刀である領主紋の有無を、セバスは切り出した。


 リョウは一瞬ギクっとして振り返り、目を泳がせながら渋々右手の手袋を取った。


 期待に満ちた目をしたセバスは、…………次の瞬間、膝から崩れ落ちた。


 リョウの右手の甲には何もなかったのだ。


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