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第3話  【シャギーはお貴族様⁉】

 その頃、ロザリード邸では小さな異変が起きていた。


 10日位前から、『領主のともしび』と言われるランプに、小さい火が灯るようになったのである。

『領主の灯』とは、文字通り領主が領内に居ると、自然に明りが付く不思議なランプである。

 ロザリード邸では、20年前に現領主代行の妻であり、領主でもあった女主人が亡くなってから、一度も明りを灯した事が無かったのだが、明らかに火の大きさが徐々に大きくなって来ていた。そして、今日はとうとう、一番の明るさになっていた。

 それは、すなわちこの屋敷の近くに、領主が居る事を示唆しているに他ならない。


 屋敷の人々は、それぞれの思惑を持ってランプの明りをみていた。

(…………あいつが、近くに来ていると言うのか⁉)

(頼む!レッド。生きているなら早く来てくれ!)

(レッド様がようやくお戻りになる!)



 その頃リョウ達は、中の上くらいの宿に落ち着いていた。


 例によって、遮音の魔術具を作動させ、

「ねえ、何で家じゃダメなの?」

「前に、女王陛下のスキルについて話した事があっただろ?」

「ああ、あの凄いスキル」

「俺が考えるに、多分だが、あのスキルの力はイエロキー国内限定なんだと思う」

「えっ! そうなの?」

「多分だけどな。で、今からの話を女王陛下に聞かれたくないんだ」

「それで、家じゃなくここでなんだ」

「すまんな、わがまま言って」

「そんな事無いよ」


 そして二人は語り始める。


「セイが仕入れて来た情報ってどんなのだ?」

 一瞬言いよどんでからセイは、思い切って言った。

「…………ロザリード辺境伯邸での行方不明の息子の情報。赤い髪で赤い目、そして顔に大きな傷。……僕、その顔見た事有るんだけど⁉」


 リョウも、ある程度予測がついていたので、頭を掻きながら率直そっちょくに認める。

「まあ、そうだな、そう思うよな。俺は以前はその顔で居たからな」

「…………やっぱりそうなんだ。兄さんが行方不明の息子なんだね?」


「そうだ。そして、今現在の正当なロザリード辺境伯でも有るみたいだ」


 そう言って、右手の手袋を外して領主紋を見せながら、領主紋についてセイに説明した。

「ブラクロック王国に入る国境門を通過した時、なんか右手の甲に違和感を感じて、手を見たら紋章が出ていたんだ。死んだ俺の母親が右手にこれとおなじ物があったが、当時は子供だったんで何か分からなかったんだ。さっきギルマスに聞いて初めて領主の証だと知ったしだいだ」


 あまりの事に、

「えっ!…………じゃぁ、今、兄さんって本当にご領主様なの?」

「…………不本意ながらそうなる」


 小説より奇なりな、話である。


「もっと早く、俺の事を話しておけば良かったと思っているよ。そうすれば、セイに余計な詮索をさせずに済んだとな………」

 今さら悔やんでも、後悔先に立たずである。



 リョウの壮絶な、これまでの生き方が語られ、セイを驚愕きょうがくさせる事になる。



 今から20年前まで遡る。


 その日、ロザリード女辺境伯の5歳になる一人息子のレッドが、洗礼を受ける為に教会に馬車で向かっていた。


 ロザリード辺境伯邸では、赤を纏った子供が生まれた場合、洗礼迄の仮の名を男の子は『レッド』女の子は『ルージュ』と呼ぶ習わしがある。しかも、この息子は髪も目も赤い『双赤を纏う者』であったため、周囲の期待は否が応でも高くなっていた。


 周囲の期待にこたえるかのように、レッドは5歳とは思えぬ聡明さであり、周囲に対しての行動も適切であり、何より洗礼を受けていないにも関わらず、魔導士の素養を見せていた。その上、剣術も教えれば教える程上達すると言う有様である。

 そして、周囲の者たちは、初代の再来とか、神童などと言って期待を寄せていた。


母様かあさま! 私はどんなスキルが得られるのでしょうか⁉」

 期待に満ちたレッドの眼差しを受け、母であるルナシーナは微笑み、目を細めて答える。

「それは、洗礼を受けてみなければ分かりませんが、シホワロイトの神がお決めになるので、良い子にしていると、良いスキルが与えられる事でしょう」

「はい! 私は良い子にして良いスキルを頂きます」


 子供の素直すなおな言葉に、ルナシーナも嬉しさがこみ上げてくる。


 しかし、教会に行くには時間がかかりすぎる事にルナシーナが気づき、御者に声をかけるが返答が無い。不思議に思い、馬車の窓にかけられたカーテンを少し開けると、そこはもう街中では無く町はずれの森に近かった。


「止まりなさい‼」

 強く命令するが、やはり答えが無い。


 レッドが不安そうに、

「………母様、どうしたのですか?」

「何でもありません。大丈夫ですよ。あなたは、私が必ず守りますから!」

「いいえ! 母様は私がお守りします‼」

 幼い子供の母を思う気持ちが、こんな状況なのに嬉しく思う。


 しかし、そんな思いとは裏腹に馬車は森の奥に入っていく。

 そこには、武器を持った盗賊と思われる集団が待ち構えていた。


「残念だが、洗礼は中止だ! ここでお前らは、親子共々死ぬ事になるからな!」


 盗賊の首領らしき男がそう告げる。その言葉を合図に、十人近い盗賊が馬車を取り囲み、中からレッドとルナシーナを引きずり出し、切りかかる。


 ルナシーナはレッドを全身で庇い、賊から守ろうとするが、抵抗むなしく自身が切られてしまう。

 レッドは、目の前で母親を切り殺され、その母の血を浴びながら、目を見開き母が崩れ落ちるのを呆然ぼうぜんと見ていた。

 レッド自身も、賊から切りつけられた。致命傷は避けられたが、顔に左から右にかけて大きな傷がつけられた。


「かわいそうだが、ここで死んでもらう! 恨むんなら自分の父親を恨め!」

「ハハハハハ…………! お前のおやじはお前が目障りなんだとよ!」

「死ねやーーーー!」


父様とうさまが…………私を…………)


 もう、どうすることも出来ない。このまま死を受け入れるしかないと思った時、それが来た。


「ギャーーーー‼」

「何だ⁉ どうした⁉」

「お頭ーーー! アイスホーンウルフだ‼」

「バカな⁉ まだ、あいつらが出てくる季節じゃないだろーーー!」

 盗賊たちに襲いかかるアイスホーンウルフ。


 おもに、冬になると人家を襲う冬の脅威である。しかし、まだ秋に入ったばかりでこの魔物の出現は異常であった。


 次々とアイスホーンウルフの餌食になる盗賊たち。一人の盗賊が、アイスホーンウルフの体当たりを受け、飛ばされた。その飛ばされた先に居たレッドも、玉突きの要領でまた飛ばされる。

 レッドが飛ばされた先に、破壊された馬車の残骸が有り、その隙間にはまって運よくアイスホーンウルフの襲撃を免れたレッド。


 どれくらい時間がたったのか、ようやく我に返ったレッドは、母親を求めて馬車の残骸から抜け出した。

 そこは、まだ幼いレッドにとって、有ってはならない惨状があった。食い散らかされた盗賊たち。血の匂いと、人間とは思えぬ肉の物体。


「…………あっ!あっ! あぁーーーーーーーーーー‼」

(うっ!ぐぅうっげぇーーーー)

 声の限り叫び、次の瞬間、胃の中が空になる程吐き戻し、気を失った。


 意識が戻った時、粗末な見知らぬ天井が見えた。近くの農民が騒ぎを聞きつけ、助けてくれたのだ。

 このロザリード領では、領主邸の双赤の子供の事を知らぬ者など居らず、すぐさま館に連絡をしたとその家の者は言った。


「…………あの、私の母様はどこですか?」


 その幼い子供の一言に、そこに居た人々は皆痛ましげに顔をそむける。

 さいわいと言って良いのか分からないが、母のルナシーナは、賊の一太刀で絶命しており、アイスホーンウルフによる損傷は無かったとの事だった。


 その3日後に母の葬儀がしめやかに行われた。


 しかし、レッドの辛酸しさんをなめた人生は、まだ始まりの序奏に過ぎなかったのである。


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