第2話 【ロザリード辺境伯領 領主代行】
ロザリード領都ロザリーの冒険者ギルドのギルドマスターは、ドワーフのノルディーと言う男だった。
ドワーフらしい体躯に、パワーあふれる気合の入った人物で、頑固職人と言う形容詞がぴったりするようである。
「お前がドラゴンスレイヤーの、『ブラット』のリョウか?」
「ハァ、まあ、そうです」
「ハッキリしない奴だな! シャキッとせんか! シャキッと!」
バシッと背中を叩かれ、物言いはあれではあるが、嫌みが無くむしろ好感が持てる人物である。
「いや、あまりドラゴンスレイヤーとか言われたくないんですよ」
「何故だ? 自慢できることだろうが?」
「その言葉が独り歩きして、要らぬ厄介事が増えたんでね」
「……まあ、有りそうな事だな」
冒険者など、言っては悪いが自尊心の塊の様な物である。リョウのドラゴンスレイヤーと言う肩書につられ、そいつを倒して自分の実力を誇示したいとか、あるいは自分を売り込みたいとか理由は様々だが、結果、リョウとセイが日常的に迷惑をこうむっているのも事実である。
閑話休題
「ところで、今回の依頼について詳しく教えて欲しいのですが?」
「ああ…………。その前に言っておきたい事がある。まぁ、あまり大きな声では言えんのだがな…………」
「何か不味い事でも?」
ノルディーが言うには、このロザリード辺境伯の、領主の証である領主紋を持つ者が、この20年存在して居ないらしく、領政に支障が出て、上手く領内を統治する事が出来ていないらしい。
その事を見かねた、ブラクロック王国の国王が領民の生活を思い、ロザリードを取りつぶして新たな領地にしようとした。
そして、ロザリード辺境伯の領主代行に、新たな領地の領主に任命しようしたが、正式な領主任命の儀式をしても、彼に領主紋が現れる事は無かった。しかし、別の者を任命しようとしても、やはり領主紋が現れる事は無かった。
結果、現在ロザリード辺境伯の領主紋を有している者が、どこかに居るのではと、噂されるようになった。
「あそこの、領主代行はろくでもない男だからな」
「えっ、そうなんですか?」
「まあ、いい噂は無いな。ここだけの話だが、行方不明とされている自分の息子を、あいつは17年前に殺したと、言われているからな」
「噂ですよね?」
「ああでも、自分の息子の才能を妬んでと、未だに言われ続けているな」
「へぇ、かなり嫌われているみたいですね」
ノルディーは軽くため息をつきながら、
「ハァ、どこかに領主紋を持った奴がいるなら、早くあのろくでなしと交代して欲しいと思っている領民は、大勢いるとわしは思うがな」
「…………」
リョウは、話の中で気になる事があり、それをたずねる。
「えーと、勉強不足で申し訳ないんですが、領主紋って何ですか?」
「ああ、それか。まあ、普通の平民が貴族の事など知る訳無いしな。領主紋って言うのはな…………」
領主の代が変わるときに、新しい領主になる者に現れる紋章で、正しい血筋の正しき者の右手の甲に、薄く光る領の紋章が出る。これが出て初めて領主として認められる事になる。と、ノルディーは説明してくれた。
リョウはテーブルの上で組んでいた手を解き、オープンフィンガーの手袋をはめている右手に同じ手袋の左手を重ね、石でも飲み込んだかのように、胃のあたりが重く冷たくなるのが分かった。
そのころセイは、冒険者ギルドの受付嬢と他愛ないおしゃべりをしていた。こう言う時に、セイの可愛い顔が効果を発揮するのである。
「えっ! じゃぁ、あなたがあの有名な『ブラット』のセイさんですか⁉」
「まあ、言われて居るほどじゃないけどね」
と、軽くウインクする。
「でね、ロザリード辺境伯の依頼を受けるうえで、円滑に依頼をこなしたから、あそこでは話してはいけない事とか、やっちゃいけない事とかあったら教えてほしんだけど、ダメかな?」
と、可愛く下から見上げるように、彼女を見つめる。
受付嬢は、真っ赤になりながら、
「ここだけの話にして下さいね! 私が話したと言わないで下さいね!」
セイは、ニッコリ笑いながら、
「絶対、誰にも言わないよ!」
と言った。腹黒セイである。
彼女が言うには、ロザリード辺境伯の行方不明の息子の話が、最大のダブーらしい。領主自らが手をかけて殺したと噂されているからで、少しでもその話に触れると、後で決まって良くない事が、その者に降りかかって来るそうだ。
「へぇ~、かなりなもんだね」
「そうなんです!悪い噂しか無い人なんですよ!」
「で、その誘拐されたんだか、殺されたんだかの息子って、どんな感じだったのかな?」
「ん~、『赤を纏う者』って噂ですけどね」
「赤を纏う者?」
「そうなんです。ここのロザリード辺境伯の血筋にたまに現れる、赤毛で、赤い目の人の事を言うんですよ。ここでは、領主の血筋にしか生まれないって、言われるほど赤い人って見かけないんですよね」
赤を纏う者とは、ロザリード辺境伯の初代から続く言い伝えで、赤い髪を持って生まれた者は武勇に優れ、赤い目を持って生まれた者は知略に優れ、そして、両方を持って生まれた者は『双赤を纏う者』と言われ、文武共に優れた才能を示すとされる。そして、革新をもたらす者とも言われている。
「へぇ~、凄いんだね!」
「そうなんです! ロザリード辺境伯の初代と、今の領主代行の4代前、そして行方不明の息子さんがそうだと言われているんですよ」
「じゃあ、その領主代行がそう言う性格なら、自分の息子でも面白くなかっただろうね?」
「だ、か、ら、!ああ言う噂になっちゃうんですよ!」
「君もその人の事良く思ってないんだね?」
「良いと思う人が居たら会ってみたいですよ!…………あっ、そうそう。その息子さんって、なんでも、5歳の時に洗礼を受ける為、教会に行く途中賊に襲われたんですって。その時にお母様を亡くし、その上、顔に大きな傷を負ったって言われてますね」
「…………顔の傷?」
「そうです。何でも、左の眼の下から、右耳の下辺りまでの大きな傷らしいですよ」
「…………」
赤い髪で赤い目、顔の大きな傷。その顔に大いに覚えがあるセイであった。
再びギルマスの部屋のリョウ達である。
「で、依頼の事なんですが?」
領主の話から話題を変えるリョウ。
「おお、すまん!つい、あのろくでなしの話に夢中になってしまったわ!」
「よほど、嫌いなんですね?」
「あいつを好きな奴など居らんだろう!」
「依頼の件は、北の領境の結界の確認と、上級魔物の討伐だ」
「貰った依頼書通りと言う事ですか?」
「そうだ………領主の屋敷に行って、領主代行から直接聞いた方が良いだろう。なんせ、秘密が好きな御人だからな‼」
と吐き捨てるようにノルディーは言った。
結局、依頼についてはたいした情報は得られなかったが、リョウとセイ二人は期せずして欲しくも無い情報を得てしまっていた。
落ち合った二人は、無言のまま教えてもらった、領主の屋敷に向かう。
途中、二人同時に声をだした。
「セイ」
「兄さん」
「…………」
「…………」
二人の間に沈黙が落ちる。
「何だ?何か良い情報があったか?」
「うん、有ったって言えば有ったんだけど………」
「なんだ、ハッキリしないんだな?」
「…………」
またも、沈黙してしまう二人。
「言いたいことが有れば、言った方が良いぞ。言ってみろ!」
「兄さんこそ、僕に何か言いかけたじゃん!」
お互い、どう話を切り出すか迷っていた。
「ハァ。まだ、昼前だ。ちょっとどこかで落ち着いて話をするか?」
「領主の所に行かなくていいの?」
「別に、今日行くって言って無いから、最悪明日でも良いさ」
「じゃあ、イエロキーの家に転移しない?」
「……そうしたい所なんだが……」
「何か問題でもあるの?」
「ちょっとな」
とりあえず、近場の宿屋に部屋を取って、話し合いの場を設けたリョウ達である。




