第31話 【一件落着!】
とりあえずシャギー、イース、マージュの三人は、遺跡の外に転移をした。
そこはもう薄明るくなっている。
外に出て改めて水の無くなったオアシスを振り返り、
「ここは、本当に何だったんだろうね?」
「ん~。かかっていた結界が古代魔法だったから、昔の人が闇の力を封印したと考えるのが妥当だと思うな」
「まあ、見たまんまだね」
「そうだな」
さらに、シャギーは言葉を続ける。
「多分だが、『光の聖剣』の奴らの強い負の感情と、遺跡の闇の気が同調して、結界が破られてしまったんじゃないかな。で、あいつらが闇の力を受け入れる結果になってしまった。と言うより、闇の力に操られたと言ったほうが良いかもな」
結局の所、結界も封じらていた闇の力も、両方とも消滅してしまったので、詳しい事はこれから冒険者ギルドなり、魔導士ギルドなりで調べる事になるだろうと、考えるシャギーだった。
「…………私、これからどうしたら良いの…………」
不安げにマージュ言う。
「さっきも言っただろ、僻地の治療師になれば良いさ。魔導士ギルドで治療師を募集していたから、それに申し込めばいい」
リョウがそう言う。
セイも、色々あった今回の事を思えば、後始末に時間がかかりそうだと思うので、
「もっとも、今回の件の結果報告をしなきゃいけないから、協力してもらう事になると思うよ」
「私は、何を言ったらいいの?」
「その辺は、兄さんが適当に話を作ってアドバイスしてくれるよ!」
「…………なんか、その言い方含みが無いか?」
「ん? ナイナイ!」
と、顔の前で手を振る。
この二人のやり取りを見て、ほんの少しだけどマージュの心も軽くなった。
「シャギーとイースはホントの兄弟じゃないよね?」
「ん? そうだよ。でも、今ではずっと子供の頃から一緒に居る兄弟だって思える程だけどね」
「ああ、俺もそう思うよ。他人だって言う方がしっくりこないな」
「仲が良いんだね」
二人の関係が羨ましく思うマージュだった。
「でも、この姿だと兄弟に見えないから、そろそろ元に戻らない?」
「それもそうだな。…………けどな、お前が俺の指輪壊さなきゃ、こんな面倒はなかったんだぞ!」
「テヘペロ!」
「ハァ…………」
一つため息をつくシャギー。
「アハハハハ…………」
今度こそマージュは声を出して笑ってしまった。
シャギーとイースは、各々のアイテムボックスから指輪を出し、指にはめ魔力を流す。
そこには、黒髪黒目のリョウとセイが居た。
マージュは目を見開き、興味深々で聞いてきた。
「ねえ!ねえ! すごいね! いったいどうなってるの⁉」
そんな彼女をみたリョウが、真剣な目で、
「マージュ! 世の中知らない方が良い事があると覚えておけ‼ むやみに興味を持つな!」
と、強い口調でマージュを諭した。
マージュは一瞬ビクッっと体が動き、何も言わずにただ頷いた。
それからリョウとセイは撤収作業にとりかかった。コンテナハウスをアイテムボックスにしまい、『光の聖剣』が持ってきた荷物もアイテムボックスに収納した。
そして、彼らが連れて来たであろうラクダは、最初の衝撃で逃げてしまったらしく、どこにもいなかった。
まあ、マージュが居てもラクダが居なくても、帰るのに困る事は無い。転移で国境門都市ガドシュに行けば良いだけの事である。
今回の件で、リョウ達とマージュで口裏合わせをする。
「まず、結界の事は『光の聖剣』の負の感情と闇の力が同調した事で、消し飛んだとそのまま報告する。そうしないと、俺が待機を命じられているのに、結界を解いた事になっていしまうからな」
「ああ、そうか! そうだね! 兄さんしか結界を解除出来そうにないもんね」
「と、言う事で、マージュにはそう証言してもらう。良いな!」
「……分かった」
今のマージュには拒否権は無い。
「さて、アラバス達の事は、…………そうだな、闇の力によって消滅させられた事にしよう! その際、マージュだけしか助ける事が出来なかったと」
「それで良いんじゃない。妥当だと思うよ」
「じゃあ、そう言う事だ。マージュ分かったな!」
「…………はい。…………あの…………今さらだけど、何で私を助けたの?」
マージュの疑問はもっともで、あれだけ『光の聖剣』に厳しかったのに、自分だけは助た。
「さっきも言ったが、お前は自分勝手ではあったが、人に危害を与える事は無かったからな。それに、これもさっき言ったが、お前には力が有る。これからもっと頑張れば本当にS級の治療師も夢じゃないと俺は思う」
「ホント!」
「ああ、ただし、まじめに修行すればの話だけどな」
マージュは、涙ぐんでこれからの事を思いながら、
「うっ……ヒックッ………。これからは頑張る。…………心を入れ替えて頑張って……修行する」
イースは小さく笑って、
「頑張ってね!」
と励ました。
その後、ガドシュに三人で転移し、ガドシュの冒険者ギルドで説明したり、アラバス達の遺品になってしまった荷物を預けたりして、今度は聖都サマリーアートに再び転移した。
サマリーアートの城壁門の外にいったん転移して、門を歩いて通過する。
「あれ、リョウさん。オアシスの調査に行ったって聞いたんですけど?」
顔見知りの門の兵士に声を掛けられる。
「ああ、ちょっとアクシデントがあって、いったん帰って来たんだ」
「そうなんですか、分かりました。そう、上に報告しておきます」
「よろしく頼む」
朝日が照らす通りを三人で歩きながら、
「マージュ、良い治療師になれよ!」
「そうだよ、マージュだったらきっとなれるよ!」
「ありがとう。頑張るから!」
「ただ、俺たちの事は…………」
リョウに念を押されるように脅されたマージュは、首を横に激しく振りながら、
「言わない!絶対言わないから‼ ボンッ!ってなりたくなもん!」
そも言葉にリョウは笑いながら、ちょっと脅しが効きすぎたかと思ったが、
「まあ、そうだ。言わなきゃ良い事だ」
と言った。
余談になるが、その後イエロキーの僻地を転々と移動しながら人々に癒しを与え、聖女の様に称えられた治療師が居た事は、有名な話である。
こうして、リョウとセイ二人の『光の聖剣』との係わりは終わりを告げた。
今回にて、第一章『イエロキー聖教国』と『光の聖剣』編は完結しました。
次回からは、第二章『ブラクロック王国』と『シャギー、過去との邂逅』編になります。




