第30話 【悪い奴らは、許せねえ!】
アラバスの行動は、基本ナルシストだ。人に良い格好を見せたいと思う衝動が常にある。
しかし、人目が無ければ、弱者には目もくれない。己の欲望が重視される。ゆえに、強者の前以外は弱者など存在しないも同然な行動をする。
今度は、意識が戻ったダルトンに、
「ダルトン! てめえはアラバスよりもっとクズ野郎だ‼ 人を痛めつける事に快楽を感じてるだろ! 一人旅の人間は足がつかないと考えてるのか、痛めつけたうえ手足を引きちぎりその辺に投げ捨て! 幼い子供をさらっては殴り殺す‼ これは人としてやる事じゃねえだろがーーー‼‼」
「ハッ! それのどこが悪いってんだよ! 弱い者は強い者に言われるままになってりゃ良いんだよ‼」
「ゲスが‼ そんなんだから闇の力に飲み込まれるんだ‼」
リョウは吐き捨てるように言った。
吐き気を催すようなダルトンの行動に、さすがの『光の聖剣』のメンバーも引いていたが、リョウの次の言葉で今度はディーに視線が移る。
「ディー! お前もダルトンと同じような人種だよな! スラムで浮浪者をさらっては、人気の無い所で槍の試し刺しをしていたよな⁉ そんなに人を殺すのが楽しいのかよ⁉ 最低だぜ‼」
「何の役にも立たない者を、役立たせているのだから、感謝されこそすれ、非難されるいわれはない!」
「てめぇは何様のつもりだ! どんな人間であろうとも生きる権利はあるんだ‼」
「ふん! 偉そうに御託を並べているが、お前だってズーミニでは散々暴れていただろう!」
「ああ。暴れたさ! だがな、人様は絶対に傷つけなかったさ!」
シャギーも『光の聖剣』に居た時は、他のメンバーから怪しまれなうように、程々の悪さをしていた。
それは、飲み屋で暴れたり、道行く人に難癖をつけたり、などをしていたが、決して人への危害は与えないよう細心の注意を払っていた。そのうえ、物を壊すなどした時には、律儀に後日謝罪と弁償などもしていた。
今度はピットに目を向けるシャギー。
「ピット! てめぇは人畜無害なような顔しやがって、裏ではとんでもない悪党だよな! 女さらって娼館に売り飛ばし、子供さらって奴隷屋に売り飛ばし、そう言う汚い金稼いでただろ⁉」
「何を言っているか分からんね。なんの根拠があってそんなでたらめ抜かしてるんだ⁉」
「証拠か? そんなに証拠が欲しいのか? ならくれてやるよ!」
と言って、アイテムボックスから書類の束を取り出し、
「これは、ズーミニのお前の部屋にあった奴隷の売買契約の書付だ‼ お前は書類をその辺に無造作に置いていたから、訳なく手に入ったぜ!」
と、ピットに突き付ける。さすがに、知らぬ存ぜぬは出来なくなり、書類から顔をそむけた。
「アシューナ! お前! 自分より美しいと言われている女は、ことごとく探し出し、嫌がらせや危害を加えていたよな! 顔を切りつけたり、ただれる様な液体を顔にかける何て事してただろ!」
「何の事言っているのか分からないわ。シャギー、あなたが勝手にそう思っているだけでしょ! 私がそんな事するはずないじゃない‼」
「ああ、そう言う事言うのかよ! 実はな、サマリーアートの下町で被害にあった女達が、城の騎士団にお前の捕縛の嘆願を出したそうだ」
「……だったらどうだって言うのよ‼」
「受理されて、お前の捕縛命令が出てるぞ!」
下唇をかみ、悔しそうにシャギーを睨みつける。
「マージュ、お前は何もしなさすぎだ! 実力はあるのに努力せず遊び惚け、他の奴らがやっている事気付いていても無関心。人としてどうなんだよ!」
「そう言うシャギーだって、何もしてなかったじゃない!」
「俺か?俺はお前らの悪さの証拠を集めていたが、あまりの酷さにバカらしくなってな、『魔力過多症』なんて事でっち上げて『光の聖剣』をおさらばする事にしたのさ! 正直、もうこれ以上お前らに付き合ってらんねぇし、俺もその仲間だと思われたくねぇからな!」
数々の悪行三昧を、黙って聞いていたイースが、
「よくそんなに悪い事出来るよね? ホント逆に感心しちゃうよ!」
キッチンに居る黒いGを見るような目で、『光の聖剣』のメンバーを見る。
「シャギーも、大変だったんだね。でも、そんな所から僕を助けてくれてありがとう!」
あの時のイースは、生きていくのに精いっぱいだったので、『光の聖剣』がそんなパーティーだとは思っても居なかった。そんな非道なパーティーから救い出してくれたシャギーに、改めて感謝するイースだった。
数々の悪行を言い当てられた面々は、口汚く罵しり暴れるが、シャギーがかけた捕縛の魔法でガッチリ縛られて身動きが取れない。
「で、本当に、この後どうするの?」
そうセイに聞かれたので、顎に手を当てながらシャギーは、
「殺してしまうのも一つの手ではあるけどな、それだと殺された人達の、苦しさや悲しみ無念が晴れないと思うんだ」
「じゃぁ、どうするのさ?」
「……永遠の時間を彷徨ってもらおう‼」
と、宣言するように言った。
「と、その前に」
と言いながら、『光の聖剣』が束縛されている所に行き、マージュの襟首をつかみ、束縛から引き剥し、イースに向けて放り投げる。
「イース! ちょっとマージュを捕まえていろ! 逃げるようなら首をへし折れ!」
「うん、分かった!」
それを聞いたマージュは青い顔になり、ガタガタ震え生きた心地がしない。
あらためて、マージュを除く『光の聖剣』のメンバーに向き合い、
「さて、俺達の事を知られてしまったんで、てめえらにはここで消えてもらう! 記憶を操作して生かしておこうかと考えないでもないが、てめえらがやって来た事を思えば、消えてもらうのが妥当だよな⁉」
怖い事をサラリと言うシャギー。
「勝手なこと抜かすな‼ 俺達を殺せば、お前だって俺達と同じ殺人者だ!」
「なに、殺す訳じゃないさ! さっきも言ったが、永遠の時間の中で生きていけ!」
「なっ、何をするつもりだ⁉」
シャギーは、その問いには答えずにゆっくり静かに詠唱を始める。
詠唱に伴い、難解な黒い魔法陣が、『光の聖剣』のメンバーの座っている所に形成されていく。
その魔法陣からもがき逃れようと暴れまわる『光の聖剣』のメンバーだったが、シャギーの戒めがきつく動く事さえままならない。
そして、シャギーの最後の一言が聞こえる。
「【亜空間】‼」
魔法が発動し、黒い魔法陣があった場所に漆黒の穴が出現し、マージュを除く『光の聖剣』が穴に落ちていく。悲鳴や怒声と共に。
「助けてぇーーーーーー‼…………」
「くそ! 覚えてろぉーーーー‼…………」
「やめてくれぇーーーーー‼…………」
「金なら幾らでも払う!助けてくれぇーーーーー‼…………」
「いつか、絶対にお前を殺してやるぅーーーーー‼…………」
穴は、何事も無かったように塞がった。
またも魔力を大量に使ったリョウは杖を支えに、どうにか立っていた。
最後のハイポーションをシャギーに手渡しながら、セイは、
「シャギーって、結構えぐい事するね。さながら無限の地獄で生きて行くようなものだもんね」
と、かなり引き気味である。
ハイポーションを飲みながらシャギーは、
「そう言うけどなぁ、被害にあった人たちの無念を思うと、死んで罪を終わりにさせる事なんか出来なかった。死んだ方がマシと思える様にしてやりたかったんだ!」
「そうかもしれないけど…………。まあ、あいつらの自業自得かもね」
シャギーの苛烈な思いに、イースは何とか自分を納得させた。
イースに捕らえられているマージュにシャギーは近づき、犬歯をむき出しにした凶悪な表情で、
「マージュは、アラバス達と違って人様に危害を加えなかったからな、二つの選択肢をやる!」
指を一本立て、
「一つ、アラバス達と同じく無限の穴に落ちるか?」
もう一本指を立て、
「冒険者をやめて、辺境の地で治療師をして生きて行くかだ⁉」
その提案だと後者を選ぶしかないマージュは、激しく首を縦に振り頷く。
「やめる! 冒険者をやめて治療師になる!」
と、食いつき気味に言った。
シャギーは苦笑しながら、
「じゃぁこれをやる」
と言って、きれいな細工が施してある腕輪を、マージュの腕にはめた。
「これは、治療師の治癒の力を増幅させる、俺が作ったいわゆる魔術具だ」
「えっ? こんな良い物、私が貰って良いの?」
「ああ、ただし…………俺たちの事を、一言でも漏らしたら…………」
シャギーはマージュの耳に口を寄せ、小さな声で、
「お前の体は、ボンッ! となる魔術具でもあるからな!」
と脅す。
顔から血の気が引き真っ青になりながら、マージュは腕輪を外そうとする。
「無駄だ。それは俺以上の、魔力の持ち主じゃなきゃ外す事は出来ねぇよ」
シャギーの魔力量を超える人間は居ないと言っても良い位なので、事実上外す事が出来ない状態である。
でも、イースは知っていいる。あれはただの魔力を増幅させるだけの、魔術具である事を。
シャギーの、小芝居は今に始まった事では無いので、笑いをかみ殺しながら、
「じゃぁ、そろそろここを出ようよ! いい加減外の良い空気を吸いたいよ!」
と提案した。




