第3話 【イースが欲しい‼】
一瞬、シャギーの言葉の意味が分からなかったが、理解が及ぶと思わず全員引いた。
「なっ! お前! そういう趣味があるのかよ!」
いつもは無口なディーも思わず大声を出す程の衝撃だった。
アシューナも、
「……そう、そうなのね。だからいつもイースを構っていたのね…」
と、気持悪そうに、シャギーに目を向ける。
「……っは⁉ そんな趣味ある訳ねえだろ! 俺はまともだ! 女が好きだっつうの‼」
シャギーは、思わず大声を出したが、出した瞬間クラッとよろめき、テーブルに手をついた。
「じゃあ何なんだよ」
ピットも困惑している。
シャギーは力なく、
「…ああ、それな。俺、正直言ってもう力が出ねえんだよ。日々力が無くなってくるのが分かってよ、自分の荷物どころか、自分の体も動かすことが出来なくなるんじゃないかとおもってよ、……それでイースを荷物持ち兼、俺の暇つぶしのおもちゃとして、欲しいって事だよ……」
「お前なぁ、俺達だって、荷物持ちが必要な事くらい分かっているだろうに」
「…アラバス。お前らA級に昇格しただろ、これから『光の聖剣』に入りたいって奴が間違えなく増えるだろ、その中からイースより重宝する剛力を雇うなり、新たに奴隷を買うなりすれば良いじゃねぇか」
「そうは言ってもね」
アシューナはためらう。
他に使える剛力を新たに雇えば、その分給金を払わなければならず、イースだと、ほぼただ同然の現状である。『光の聖剣』のメンバーは何故か全員、金にうるさいのだ。
「しかしなぁ」
アラバスも迷っている。シャギーの言う事はもっともだと思うのだが、だからと言って、ただ同然の奴から、金を払う事になる奴に変わるのは、釈然としない思いがある。
「…だったら、これをやるよ」
と言って、シャギーが腰につけたポーチから取り出した物に、一同目を見張る。
それは、赤子のこぶし大のミスリルの原石だった。
「お前!こんな物どこで手に入れた!」
ダルトンが吠えるように叫ぶ。
「……これか?これはまだお前達と出会う前、ミスリル鉱山で働いていた事があってさ、その時に偶然手に入れたもんだよ。……ああ、言っておくが、かっぱらったもんじゃねえからな‼」
この大きさのミスリル原石であれば大金貨1枚はするはずで、簡単に手放そうとするシャギーにピットは疑問を口にする。
「これを換金すれば、足代でも治療費でもなんにでもなるだろうに、なぜ手放そうとする? お前は何を考えているんだ?」
「…俺はもう、アレッドカまでもたないような気がするんだよ…換金先を探したりする時間も無いし。……だから、爆発して粉々になる位なら、使ってもらった方が良いと思っただけさ」
「……分かった。正直、イースをお前にくれてやるのは惜しい気もするが、こんな物をもらってしまってはな。しょうがない、イースはお前にやる、皆もそれでいいな!」
アラバスはイースを惜しむふりをしつつ、このミスリル原石をどうするか、内心ほくそえんでいた。
「で、いつ出発するの?」
マージュに問われたシャギーは、
「…今、自分の体の事を思えば、なるべく早くここを出たい。明日、朝一番の定期巡回馬車で行こうと思ってる、一刻も早く出て行きたいからな。……俺が、新たに剛力を探す時間がもったいねぇんだ。……ホント助かるよ」
と、力なく言った。
「イース!そう言う事だ。明日から、シャギーに付いて行け!」
今まで、黙ってみんなの話を聞いていたイースは、こんなことは今まで生きてきた中で、いつもの事だった。
しかし、気性の荒いシャギーとの旅は、人生最悪の旅になると心の中でため息をついた。
(僕は、明日から、死ぬ事になる旅に出るんだ。……これで楽になれるかな?……)
「…じゃぁ、イース、これからよろしくな」
と、シャギーはイースの肩に手を置いた。
翌朝、『四色街道』左回りの定期循環馬車で、シャギーとイースは旅立って行った。
読みやすいように、少し手を加えました。