第25話 【S級とA級】
あざけりを込めたダルトンの言葉に反応したムーンシャナーは、ギャラリーが思っていた反応とは違った言葉を発した。
ドラゴンの頭部をアイテムボックスにしまっていたリョウに声をかける。
「リョウ‼」
「はい?」
「こいつらの相手をしてやれ! 手加減無しで良いぞ‼」
「何で、俺が相手しなくちゃいけないんですか⁉」
「A級ランクとS級ランクの差がどれ程のものか、思い知らせてやれ‼」
(ハァ……勘弁してくれよ。こいつらと関わり合いたくないんだよ、俺は……)
心の中で、嘆息するリョウである。
とりあえず、ドラゴンを解体するには広い場所が必要と分かったので、いったんこの件に関しては終了である。
リョウと『光の聖剣』との模擬試合の為、地下の訓練場に移動する。
この試合を一目見ようと大勢のギャラリーもゾロゾロと移動してきた。
その様子を見ていたムーンシャナーは、
「リョウ! この訓練場に防御結界を張れ!」
「はっ?」
「お前の戦いで、見物人に被害が出ない様にするためだ」
(俺って、どんな危険人物なんだよ⁉)
「ハイハイ、分かりました!」
と言って、アイテムボックスから愛用の杖を取り出し、一振りするだけで防御結界の魔法陣が現れ、結界が張られる。
それを見ていたギャラリーは、
(でたーーーー! リョウさんの無詠唱魔法!)
(いつ見てもすげーよなー‼)
(ほんと、あんな事リョウさん以外出来ないわよね~!)
(あの、魔法陣! 完璧だわ!)
絶賛の嵐である。
「ふん! 何だよ! S級と言っても魔導士じゃねえか。ハッ! これじゃあ俺たち楽勝だぜ‼」
ダルトンは、鼻で笑いながらバカにする。
しかし、同じ魔導士のマージュには分かってしまった。この無詠唱の防御結界が、どれほどすごい事なのかを。
「でも、あれほどの魔法を詠唱無しで出来るんだから、相当な実力なのは確かだよ!」
「ばかか、魔法が使えても、力じゃ俺たちの足元にも及ば無いだろうよ!」
ダルトンの言葉に、他のメンバーが賛同する。
「そうだな、力の実力は俺たちの方が上だろうな」
「あんなの、見掛け倒しよ。たいした事無いわ!」
「……魔導士風情に、我々が負けるはずない………」
リョウは思う。
(俺が『光の聖剣』に居た時から分かってはいたが、こいつらは他人の実力を見定める事が出来ないんだよな。いつも自分が人より優れていると思い込んでいるからな。………ハァ、しかしここまでけなされたら、ギルマスの思惑に乗るのは癪だが、ここは一つこいつらを叩きのめして、溜飲を下げるか!)
ムーンシャナーが、
「模擬剣を使用した練習試合だ。リョウかそっちのパーティー全員が、戦闘不能になれば終了とする!」
「ハッ? 模擬剣だと? そんなまどろこっしい事なんか無しで、真剣で勝負させろよ!」
ダルトンは相変わらずである。
「これはお前たちを思っての提案だったが、必要ないという言うのであれば真剣で良いぞ。リョウ!思いっきりやれ‼」
彼女の言葉で自分たちが、いかに見下されたか感じ取り、
「ハァ‼ 俺達をバカにしてんのか⁉」
ダルトンは、怒り心頭で、冷静さが無くなる。
ムーンシャナーは突然、思いだしたかの様に、
「ああ、そうだ、リョウは魔法禁止だ」
「はっ? それは無いでしょ⁉ 魔導士に魔法使うなって!」
「それくらいのハンデを付けなければ、勝負にならないだろ?」
(いい加減にしてくれよ。もうこれ以上こいつらを煽らないでほしい‼)
仕方が無いので、アイテムボックスから愛用の剣を取り出し、逆に杖をしまった。
ムーンシャナーが、煽りに煽りまくったせいで、マージュを除く『光の聖剣』のメンバーは、リョウを視線で殺さんばかりに睨みつけている。
全員、臨戦態勢に入った。
緊張が高まる中、ムーンシャナーの声がする。
「はじめ‼」
その言葉が口に出た瞬間、リョウが動いた。
突っ込むように走りながら、腰のベルトの背後に付けてある投擲用の小ナイフを投げ、ピットが持つ弓の弦を切る。勢いのままピットを蹴り飛ばし、返す足で並んで立っていたマージュとアシューナの足を払い、二人の武器を取り上げ遠くに投げる。
そこにディーの槍が繰り出されるが、リョウは紙一重でかわし、逆にその槍をむんず掴む。掴んだまま遠心力を利用して、ディーをダルトンとアラバスに向けて投げ飛ばし、手に残った槍も手の届かないところに放り投げる。
ディーをぶつけられたダルトンは、悪鬼の様な形相で雄たけびを上げながら、リョウに迫る。
「ウオオオオォーーーーー‼」
メイスを振り上げ、力任せにリョウに振り下ろす。
リョウは、すれすれでその一撃をかわし、逆にダルトンの懐に飛び込み、襟首をつかみ背負い投げの要領で、床に力の限り叩き付けた。物凄い振動が訓練場を襲う。すぐさまダルトンに近づき、起き上がってくる前に頸動脈を握りしめ、意識を狩る。
これがほんのわずかな時間での出来事である。息を飲み、成り行きを見守っていたギャラリーが一斉に声を上げる。
(すっげー‼)
(えっ⁉ いったい何があったんだ?)
(さすがS級だぜ‼)
(リョウさ~ん! ステキ~!)
絶賛の雨あられである。
リョウはこれまで剣に触ってもいない。
最後に残されたアラバスと対峙し、リョウはようやく剣を抜く。
リョウは片手剣士であるが、いつもは右手に剣、左手に杖を持つ、剣と杖の二刀流でのスタイルである。しかし、今回は魔法を禁じられたので、両手で剣を構える。
リョウの剣は日本刀の様なそりを持つ、優美な形の美しい剣である。
いつもはリーダーらしく振舞うのが好きな、ナルシストのアラバスではあるが、「勇者」の称号を持っているので、『光の聖剣』の中では一番の強敵である事に変わりはない。
しかし、これまでの戦いでリョウが思うのは、
(こいつら四年前と戦い方が全く変わってない⁉ この四年で全然技量が上がって無いじゃないか? アホなのか?)
あきれてしまうほどの、代わり映えの無さである。
逆に、アラバスは混乱していた。
(何だこれは⁉ いったい何が起こった⁉ どうしてこうなった?)
A級ではあるが、S級でもおかしくないと自負していただけに、たった一人に良いようにやられてしまった事が信じられない。
しかし、仲間たちは実際やられてしまい、あのダルトンでさえ気を失っている。
だが、目の前には剣を構えたリョウがいる。
これで自分が負ければ、これまで強気でしてきた事何もかもが、滑稽な事に見えてしまう。
リョウに負けるわけにはいかない。
二人の間に緊張が走る。
が、しかし勝負は一瞬で決まった。
打ち合った瞬間、アラバスの剣はリョウの剣によって巻き取られ、遠くに投げ飛ばされてしまった。
結局、魔法を使わない魔導士に、ほぼ素手と剣で全滅させられてしまった。
呆然としているアラバスに、ムーンシャナーの声がかかる。
「勝負あり! リョウの勝利‼」
途端に、ギャラリーたちの歓声に訓練場が包まれる。
「これで分かっただろ。A級とS級の違いが。せめて、半数はリョウに勝つくらいじゃないと、S級など夢のまた夢だぞ」
ムーンシャナーは、うなだれているアラバスに、近づきそう声をかけた。
剣をアイテムボックスにしまっているリョウに彼女は、声をかける。
「リョウ。こいつらに癒しを掛けろ!」
「え~⁉ めんどくせぇ~!」
「やれ‼」
なんだかんだ言いながらリョウは、杖も無し詠唱も無しで『光の聖剣』のメンバーに、
「【癒】!」
と、癒しをかけた。




