第23話 【ミーニャと人身売買】
ドラゴン退治から十日ほどたったある日の事。セイは、聖都の錬金術士ギルドに来ていた。
実は、例のエリクサーの件である。リョウと話し合って、エリクサーはこの世界に与える影響があまりにも大きすぎるので、少し効能を押さえたハイポーションを新たに作った。それでも、影響は出ると思うので、錬金術ギルドに相談しに来たのだった。
ちなみに、エリクサーは二人だけで秘密裏に使う事にした。
話を聞いた錬金術士長のトストロイは、あんぐり口を開けてしばし固まっていたが、
「で、このハイポーション、どうしましょうか?」
「どうしましょうかじゃないわ! おぬし、何を作ったか分かっておるのか⁉」
「?、ハイポーションですけど?」
可愛く首をかしげたセイの無自覚な無知に、
「…………。ハァ、もうよい! それで、そのハイポーションは誰でも作る事が出来るのか?」
「はい! 材料さえあれば、そう魔力も使いませんから」
その材料が大問題になるのではないかと、トストロイは胃が痛くなりそうである。
「して、その材料とはなんじゃ?」
「回復草とメダンタの根、それとジュダの樹液です」
回復草とメダンタの根は比較的手に入りやすいが、ジュダは白の魔森にしかない木である。したがって、とても手に入りずらい貴重な材料になる。
しかし、全く手に入れる事が出来ないわけでは無いので、一考の余地はある。
「して、そのレシピは公開しても構わぬのか?」
「はい! 一人でも多くの人が助かるのであればと思ってます」
「…………。欲が無いの、おぬしは。と、言うより、おぬしたち兄弟はの」
「ありがとうございます?」
どうして、そんな事を言われたか不思議に思いながら、お礼を言うセイであった。
ギルドを出て、リョウに頼まれた魔導書を買いに本屋に寄ろうとしたとき、それは起こった。
近道をしようと路地に入った所、突然、後ろから誰かにしがみつかれた。
振り返ったが目線の先ではなく、下を見ると、真っ白な髪に右耳としっぽの先が黒い、赤と青オッドアイの猫獣人族の女の子が、セイにしがみついていた。
(えっ⁉ 何この子? 超かわいいんだけど‼)
「…………たっ、助けてニャー!」
(はっ?)
一瞬、訳が分からなかったが、すぐ後方から数名の男たちの殺気だった声が聞こえる。
「こっちに来たみたいだったが、居たか⁉」
「いや!居ねぇ!」
「どこ行きやがった!あのネコ娘は‼」
「あの毛並みは高く売れるんだ、何としても探し出せ‼」
猫獣人の女の子は、セイにしがみついてガタガタ震えている。
(これは、面倒事の予感しかしないけど、放っても置けないし、とりあえず)
「ねえ君、助けるから、少し静かにしててもらえるかな?」
こんな時、ニッコリ笑ったかわいい顔が役に立つセイである。
「はい、ニャー」
「うん、いい子だ!」
セイ自身は隠ぺいの魔法は使えないが、今着ている錬金術士のローブは、リョウによって様々な魔法が付与されている。その一つに隠ぺいが有る。
ローブに女の子を招き入れ、魔力を通すと二人の姿が見えなくなる。
人に当たれば分かってしまうので、そっと壁際に移って様子を窺う。
男たちが戻って来て、
「どうするよ! あのネコ娘を取り逃がしたとあっちゃぁ、お頭に殴られるだけじゃ済まねえぞ‼」
「落ち着け! 子供の足だ、まだこの辺りに居るはずだ。しらみつぶしに探せ‼」
「見回りの兵士に見つかるなよ! 人身売買はこの国じゃご法度だからな‼」
女の子は、男たちの話でますます震えがひどくなる。
セイは、安心させるように背中をさする。
(これは、一度家に行って兄さんに相談した方が良いな)
リョウとセイは、このサマリーアートの街中に、密かに転移の為のポイントをいくつか設置してある。
どのみち、二人にしか起動させることが出来ないので、結局やりたい放題な状態で、設置しまくっていた。
そのうちの一つがこの路地の先にあるので、セイはゆっくりと、男たちに気づかれぬよう移動し、女の子と共に家に転移した。
家で、のんびりコーヒーを楽しんでいたリョウは、突然、猫獣人の女の子を連れたセイが現れ、思わずコーヒーを吹き出してしまった。
「やだな、汚いよ兄さん!」
「おっ、おっ、お前、その子どうしたんだ⁉」
と、今までの経緯をリョウに話し、何かいい考えが無いか聞こうとした時、手紙鳥がリョウに届いた。
良く見ると、女王の紋章の手紙鳥である。
急いで開き読んでみると、今回の事について話が有るので、急いで来るようにと書いてある。
しかも、今回はセイと女の子も共に来るようにとの事だった。
「えっ? 僕も行くの?」
「そう書いてある。見るか?」
と、手紙をセイに渡す。
「……ホントだ。何で僕が⁉」
「………そりゃぁ~、お前がその子を連れて来た当事者だからじゃないか?」
「え~⁉」
とはいえ、女王陛下を待たせる訳にはいかないので、急いで用意して王宮に転移する。
ちなみに用意と言っても、リョウがシャギーに変わるだけではあるのだが。
王宮に転移した所、女王が開口一番、
「人身売買の拠点をつぶしなさい‼」
と強い口調で命を出した。
「ここに、詳しい地図と証拠になる書類が有ります。これをもって王命の賊退治とします!」
バサッと書類を投げてよこし、
「この際です、徹底的にやりなさい‼ もう二度とこのような浅ましい所業など、出来なくしてしまいなさい‼」
女王様は激オコである。
「セイはイースとなって行きなさい! その間この子は王宮で預かります。さあ、早く行きなさい‼」
「「ハッ!」」
二人はアジトに一番近い転移ポイントに転移した。
転移してきたのは良いが、女王様の徹底的とはどこまでして良いのやら。
それに、家から王宮に行くのに愛用の武器は持って行ってないので、アイテムボックスに入ってる物で戦わなくてはならない。まあ、リョウは杖をアイテムボックスに入れてはあるが、今回はシャギーなので剣で戦う事にする。
「さて、どうしたもんかね?」
「とりあえず、ボコボコにしちゃう?」
「それでも良いが、思い知らせるにはチョット弱いかな」
顎に手を当てシャギーは、
「………今回、魔法はなるべく使いたくは無いが、……ボコった後、精神に干渉して自分たちが奴隷として売られ、虐待される幻覚でも見せるか?」
「ん! それいいね! それで行こう‼」
「それじゃあ、殴り込みの開始だ‼」
暗くなるのを待って見張りを一撃で倒し、そっとアジトの中に入る。隠ぺい魔法で姿を隠しさらに奥に進む。程なくして、男たちの下卑た話声が聞こえてくる。
「お頭! あのネコ娘とっ捕まえたらどこに売るか、もう決めているんっすか?」
「ああ。さるお貴族様が女になる前の娘ををいたぶるのが、死ぬほど好きなんだそうだ。それも、上玉である程な!」
「ゲヒヒヒㇶ…………」
まったく、胸糞が悪くなるような話である。
イースが、我慢できずにブチ切れそうである。
「…………もう‼ 行っても良いかな‼」
「おおぉ……。殺すなよ」
シャギーが思わず引いてしまう程、怖い位イースは怒っていた。
二人は口元をスカーフで隠し、剣を持って飛び込んだ。
突然飛び込んできた、目つきの悪い赤毛と酷薄な目つきの金髪に、中に居た連中はパニックになる。
「なんだ! てめえらは‼」
「な~に、名乗る程のもんじゃないさ!」
シャギーは、サラッと相手を煽りながら、次々と手下共をのしてゆく。イースも負けじと殴り倒していく。
「おーい! 手加減しろよ~。お前が本気出したら死んじまうぞ~」
「してるつもり! いちいち五月蠅いな‼」
「…………お~怖!」
次々に手下どもが倒される中、人身売買の頭目は、
「やい! てめえら、どこの者だ! 俺が誰だか分ってやってるのかっ⁉」
「知らねえな~。てめえなんざ、そこらのゴミと同じだぜ! いや、ゴミ以下だ‼」
リョウは、以前ガラの悪いシャギーを演じていただけあって、口の悪さは天下逸品である。
「俺は、アレッドカの…………」
「うるさーーーい‼」
最後まで話す事無く、イースに殴り倒されてしまったお頭である。
もう、辺りに意識の有る人間はイースとシャギーだけになったので、口のスカーフをずらして、
「さて、後は外に出ている者が居るかどうかだな?」
「自白させる魔法とか無いの?」
「聞いたことないけどなぁ、………チョット試しにやってみるか?」
ぶっつけ本番で新しい魔法を試みるシャギーである。
のびて居る頭目を引きずり起こし、シャギーは耳元で何やらつぶやく、
「お前の手下はこれで全部か?」
「…………そうだ、……今日は前祝だ…………」
ぶっつけ本番でも、どうにかなるシャギーの魔導士としての技量に、イースは感嘆する。
「すごいね! 兄さんはやっぱり天才だよ!」
「ほめても、何も出ないぞ」
笑いながらイースに答え、シャギーは杖を取り出し次の魔法の為の詠唱を始める。
いつもの様に、低くつぶやくシャギーの詠唱が聞こえる。
のびて居る組織の人間たちを覆うように、緑色の魔法陣が現れ、魔法が発動する。
「【悪夢】!」
途端に、悪党どもは阿鼻叫喚な状態になった。
シャギーは、
「ふん‼」
と、鼻を鳴らす。
一方イースも、気が済んだのか、いつもの穏やかなイースに戻って、
「この後どうするの?」
「さあ? そう言えば聞いてなかったな、どうするんだ?」
と、思っていた所、表が騒がしくなってきた。
どうやら、取り締まりの騎士たちが来たようだ。
シャギーは、証拠となる書類をその辺にばら撒き、隠ぺいの魔法を自分達にかけ、静かにその場を後にした。




