第22話 【素材を買って下さい】
もう、二人とも心身共に疲労困憊で、座り込んで動けない。
当然だが、ポーションもエリクサーも無いので、自然に魔力体力が戻るのを待つしかない。
リョウは、親指を立てドラゴンを指さし、
「とりあえず、一休みしたら、こいつをどうにかしないとな」
「どうにか?」
「ドラゴンの素材は高く売れるってことだ。持って帰って一儲けしようぜ。やられ放題やられたんで、売ってしまっても、バチは当たらないだろ?」
「なる程?」
「何で疑問形なんだよ⁉」
「こんな大きな物、どうやって持って帰るのさ?」
時々、抜けているセイにあきれながら、
「…………。アイテムボックスが有るだろうに」
「…………ああ!そうか! あんまり大きいから気が付かなったよ」
シャギーはアイテムボックスから、予備の指輪を取り出しリョウに戻る。
「セイ。ありがとな! おかげで、腕を失わなくてすんだよ」
「どういたいしまして、お互い様だしね」
さっきまでの殺伐とした雰囲気とは逆に、和やかな空気が漂う。
魔力体力が戻るまでの間に、今後を考える。
「一番簡単なのは、このまま転移して、サマリーアートに帰る事だけどな」
「でも、ガドシュの冒険者ギルドで結果を待ってるんじゃないの?」
「そうなんだよな~(面倒くせえな~)」
「とりあえず、一回ガドシュに行った方が良いんじゃない?」」
「……しょうがない、行くか?」
「うん!」
こうして、ガドシュに報告をしに行く事にした二人だった。
程なくして魔力も体力も戻って来たので、討伐した砂トカゲやデザートリザードの素材になりそうな所を、かき集めアイテムボックスにしまい、残りはすべて魔法で焼き払った。
万が一、アンデットにならない為の作業である。
巨大なデザートドラゴン丸々一匹を、リョウのアイテムボックスにしまい、セイはアイテムボックスからサンドバギーを取り出し、来た時と同じく猛スピードでガドシュ向け出発した。
ちなみに、ガドシュに着いてから転移をすれば早かったと思ったが、今さらである。
途中、第一オアシスで預けたラクダに乗り変え、ガドシュに向かう。
ガドシュの冒険者ギルドのギルマスは、一日千秋の思いでリョウ達を待っていた。
「無事に戻られて安心しましたよ。で、砂トカゲはどうでした?」
「とりあえず全て討伐しましたよ」
その一言はここのギルマスには信じられず、
「…………‼ かっ、かなりの数の砂トカゲが居たと思うんですが⁉」
「ええ、居ましたね。砂トカゲどころか、かなりの数のデザートリザード迄いましたからね」
「何ですって‼…………。それをお二人で討伐したのですか?」
「まぁ…、それがS級ランクと言われる事なんでしょうね」
たとえS級ランクでも、そんな事出来るはずないのが常識である。
「にわかには信じられません…………。」
「確認の為、人を現地にやってくださっても良いですよ。もっとも、アンデットにならない様に、素材をはぎ取った後、焼却してしてしまいましたけどね」
リョウは証拠とばかりにアイテムボックスから、砂トカゲとデザートリザードの素材を、いくつかギルマスに出して見せ、
「この通りです。もし、ご入用な物が有れば、いくつかここの買い取りに出しますけど?」
「そうして頂けると助かりますが、どのくらい出して頂けますか?」
砂トカゲもデザートリザードも、皮は防具に加工すると優秀で、値段も安価で買い手も多いので、いくらあってもギルドとして損はない。
リョウとしても、砂トカゲやデザートリザードの素材ばかり、沢山手元にあってもどうしようもないので、ここは思い切って、
「砂トカゲの皮を、400。デザートリザードの皮を100でどうですか?」
「…………。はっ?」
「少なかったでしょうか? 何ならもう少し出せますよ」
実は、あまりの数の多さに言葉が出なかったギルマスであったのだ。
「ちっ、違います! 多すぎるんです‼ なんでそんなに多いんですか⁉」
「何でと言われても、実際あいつらは1,500位居ましたからね。その上、デザートドラゴンも出て来たし」
「…………ドラゴン…………」
もう、放心状態のギルマスである。
我に返り、
「ドッ、………ドッ、………ドラゴンをどうしたんですかーーーー⁉」
「倒しました」
いともあっさり返すリョウに、ギルマスはただ一言。
「…………ドラゴンスレイヤー…………」
と言った。
放心状態のギルマスにたたみかける様に、
「ドラゴンの素材も要りますか?」
と言ったが、
「………。欲しい所ですが、うちでは解体が出来ません。………って、どこにしまってあるんですか~⁉」
「えっと、……アイテムボックスです」
「ドラゴンが入る位の?」
「入る位のです。………できれば、俺のアイテムボックスの容量の事は内密でお願いします!」
「分かりました。と言うより、人に言っても信じてもらえんでしょうからね。そんな大きいアイテムボックスなど」
ドラゴンの素材など、ここ何十年と出たためしがない。ゆえに、解体する人員も居るかどうか分からない状態である。
「ドラゴンの素材は、聖都でどうにかして下さい。そのうち競売が有るでしょうから…………」
「……えっと、そうします」
こうして、砂トカゲ討伐の件は終止符を打った。新たに、数々の面倒な問題が発生した事を除けば……。
聖都に戻った二人はとりあえず、冒険者ギルドに報告に行った。
「…………、と言う訳で、最終的にドラゴン退治になりました」
ムーンシャナーは、額に手をやり眉間にしわを寄せ頭が痛そうに、
「………どうして、お前たちはそう規格外な事ばかりするんだ⁉」
「規格外って言われても、こっちが望んでそうなった訳じゃ無いし」
「それでもだ! なんで二人だけでドラゴン退治になる⁉」
「成り行きで?」
「ハァ……、もういい! 素材を買い取りに出せ。とりあえずドラゴンの事はまた後日だ。今のうちでは解体など出来んからな。家に帰って休め!」
リョウ達は、ギルド一階の買取窓口で、砂トカゲとデザートリザードの素材を山ほど出し、受付の者を唖然とさせた後、解体専門のバカランに会いに行った。
「よう! おっさん! 生きているか?」
「相変わらず口の悪い奴だな、お前は!」
「まぁ、そう言うなって。所で、素材の解体についてチョット聞きたいんだけどさ?」
「何だ?」
「ドラゴンって解体できるか?」
一瞬、幻聴が聞こえたと思い聞き直した。
「…………、なんだって?」
「だから、ド・ラ・ゴ・ン!」
頭の中でドラゴンが踊っているのが見えそうだった。
「……………………。」
「お~い! 聞こえてるか~!」
あまりのばかげた話に、怒鳴りたくなるバラカンである。
「馬鹿野郎! そんなもん出来るか‼ ここ聖都でも出来る奴は居るかどうか分からん! だいたい、どうしてそんな話になる⁉」
「あっ……いや。チョット聞いてみただけだ」
「……………………。お前、まさか、ドラゴンを狩って来たって言うんじゃないだろな?」
バカランの指摘にまずい事を聞いたと、リョウは冷や汗を流しながら、
「ハハハハハッ…………」
と笑ってごまかし、その場を離れた。
久しぶりと言うほど家を留守にしていたわけでは無いが、ドラゴンとの死闘を経験した後なので、家でのひと時はかけがいの無い時間である。
ドラゴン解体の事は自分達ではどうにもならないので、その事は意識の外に追いやって、二人はゆっくりと自分の時間を好きに使った。
リョウはコーヒーを飲みながら魔道書を読み、セイは新たな錬金術の錬成に挑戦している。
そんなある日の事、またトラブルが二人に降りかかる。




