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第21話  【ドラゴンスレイヤー⁉】

 二人はあまりの衝撃に、頭の中が真っ白になってしまい、言葉を発するのを忘れてしまったかの様である。

 ハッ!と我に返り、ドラゴンから最初のブレスの一撃をギリギリかわす。


「……無理! 無理! 無理! 絶対無理~‼」

「あんなの! どうやって倒すって言うのさ~⁉」


 二人は慌てふためき逃げ惑う。


 リョウは魔力、セイは体力が底をつきかけている。この状態で、ドラゴンなど相手にできるものではない。

 どうやったらこの危機を回避できるか考えたい所ではあるが、ドラゴンの攻撃がそれを許してくれない。


 攻撃を必死にどうにか避けつつセイが、

「兄さん! 僕、この間、錬金術の錬成でエリクサーを錬成できたんだ‼」

「…………、はっ⁉」

 こんな時なのに、間の抜けた声が出る。


 このラドランダーの世界には、HPポーションMPポーションは有るが、いわゆる万能薬のエリクサーは存在しないのである。ゆえのリョウのこの反応である。


「まだ、人で試していないけど、この際だから飲んで!」

「お前! 俺で実験しようってのか⁉」

「どっちにしろ、このままじゃ魔力も体力も失くなって、ドラゴンの餌食えじきだよ!」

「分かったよ! もう、こなりゃヤケだ‼」


 と、セイからエリクサーを受け取り、一気に飲み干した。

 飲んだ瞬間リョウの体が淡く光り、

「…………これは………、すごいな! 魔力も力もあっという間に戻ったし、ケガもギズ一瞬で治ったぞ‼」

「良かった! じゃあ、僕も飲むね」

「…………お前! 本当に、俺で実験したなっ⁉」

「てへっ!」

「てへっ! じゃなーーーーい‼」


 リョウの叫びは、ドラゴンの咆哮ほうこうにかき消されたのだった。


 とにかく、魔力体力の枯渇から復活を果たしたので、ドラゴンからの攻撃を避けつつ、この状況を打破すべくリョウは考える。


(やはり、あれを倒す事など出来ると思えんから、水と雷属性の魔法で攻撃を加え、あいつに隙を作らせ、その隙を利用して脱出したい。…………まぁ…魔法が効けばだけどな)


「セイ! 新たに魔法を付与するから、バスターソードをよこせ!」

 走りながらセイは、バスターソードを差し出す。

 今度は無詠唱では無く、短いが詠唱付きで水と雷の魔法を付与していく。


「出来たぞ! 万全とは言い難いが、無いよりマシ位と思ってくれ‼」

「分かった‼」

「じゃあ、攻撃の詠唱を初めるから、時間稼ぎを頼む‼」

「了解!」


 先程の【水雷散弾】の時と同じく、低くつぶやく様なリョウの詠唱が聞こえる。

 しかし、先ほどの詠唱とは違い、もっと長く複雑な詠唱である。

 それに伴い、ドラゴンの頭上に【水雷散弾】と比べ物にならない位の、水色と黄色、そして白銀の混ざり合った巨大な魔法陣が形成されていく。


「【氷虎神雷弾ひょうこじんらいだん】‼」

 リョウの叫びが放たれ、円錐形の氷弾が稲妻を伴って尾を引きながら、ドラゴンの頭に直撃する。


 物凄い衝撃波とドラゴンの咆哮、砂煙が舞う中、間髪をおかずにセイがバスターソードでドラゴンに切りかかる。

「うおおおおおぉーーーー‼」

「やったか⁉」


 しかし、魔法とバスターソードの攻撃で、傷を負わせることは出来たが致命傷には程遠く、逆にドラゴンはセイを標的に定めてしまったようだ。


 ドラゴンの前足でセイは激しく払われ、遠くに飛ばされた。

「セイーーーーーーー‼」

 絶叫するリョウ。


 リョウは自身の足に身体強化魔法をかけ、セイの所に素早く移動し、癒しの魔法ハイヒールをかける。

「大丈夫か⁉」

「…………どう……にか生き……てるよ…………」

「さっきの、エリクサーは⁉ あったら早く飲め‼」

「………さっきので、……終わり………」

「チィッ‼ 仕方ない! 最後のポーションだ、飲め。無いよりマシだろ‼」

「………ありがとう。兄さん」


 リョウは怒っていた。

 怒ると言うよりも激怒していた。ドラゴンにも自分自身にも。

 事前の調査確認を怠った事、もっと準備が出来たはずだと思う事も。


 なんにせよ、この世界でただ一人の大切な同邦人であり、何より血のつながりなど無いが、愛すべき弟を危険にさらしてしまった事を。


「俺の大切な弟に! 何てことしやがるんだ! 覚悟しろ、このドデカトカゲ野郎がーーーーー‼」


 跳躍の魔法を自身にかけ、飛翔しながら右手に愛用の剣、左手に杖を持ち、魔法と剣での攻撃をドラゴンに加えていく。


 何度目かの跳躍で、ドラゴンの顔付近に近づいたその時、リョウに一瞬のスキが出来、左腕を杖ごと食われてしまった。


「ぐわっ‼」

「つっ………⁉ 兄さんーーーーー‼」

 今度はセイが絶叫する。


 左腕を失くしたリョウは、当然指輪の効力も無くなるので、シャギーの姿になっていた。

(くっそ! このままだと出血多量で死んでしまう!)

 急いで、痛覚無効と止血の為の魔法を自身にかける。


 セイも、痛みで思うように動かない体だったが、シャギーに近づき泣きながら、

「死なないでよ! 僕を一人にしないでよーーー‼」

「………勝手に…人を殺すなって前に言っただろ?……大丈夫だ……止血もしたし…………痛みも抑えた」

 弱弱しく答えるシャギーであったが、一つの勝機を見出していた。


「あいつ…………俺の腕と杖を飲み込みやがった。あいつの腹の中には…今………俺の杖が入っている。ここから、杖に魔法を送る事が出来る…………あいつを腹の中から仕留めてやる‼」

「兄さん‼ 無茶だよ‼ その体で大量に魔力を使ったら、本当に死んじゃうよ‼」

「………それじゃぁ、ここで二人そろって死ぬか?……俺は嫌だぜ! 絶対に二人とも生きて家に帰るんだ‼」

「でも…………」


 セイの言葉を無視し、

 シャギーは残っている魔力のありったけを使って詠唱を始める。するとドラゴンの腹のあたりに赤い魔法陣が現れる。

 それは、イエロキーに来た時に、シャギーとイースの存在を消し去った魔法【爆散】の魔法陣であった。

「【爆散】‼」

 力の限りシャギーが吠える。


 次の瞬間ドラゴンの腹がまばゆく光り、爆発した。

 さすがのドラゴンも、内からの攻撃は防ぎようは無く、内臓をまき散らしながら、ドッと倒れこむ。


 それを見届けたシャギーは、さすがに意識を保っていられなくなり、気を失う。

 その際、どうでも良い事が頭をよぎった。

(ドラゴンの素材は、一つも無駄にならないって聞いたけど、内臓粉々にしちゃったわ。ちょっと、もったい無かったかな?)


 本当に、どうでも良い事である。



 シャギーは、次第に意識が戻るのが分かった。

 目を開けると、泣きはらしたセイの顔が目の前にあった。

「兄さんのバカーーーー‼ なんでこんな無茶な事するのさ‼ 僕を一人にしないっで言ったよねー!」

「悪かったよ、……………。でも結果オーライだろ?」

「バカ! 死んじゃったらどうしようもないのに!」


 ここで、シャギーは違和感を覚える。

 その違和感の正体は、失くしたはずの左腕が有る事だった。

「何で…………? 俺、腕あいつに食われたよな?」

「……実は、もう一本エリクサーがあったんだ」


「………なんで! あの時自分で飲まなかったんだよ⁉」

「あの時は、まだ死ぬような状態じゃなかったし、でも、本当に死を覚悟するようだったら飲んでたよ! だけど、言わせてもらうけど、兄さんだってあの状態での魔法は無謀すぎるでしょ‼」


 お互いがお互いを大切に思い合うからこその、二人の行動だった。


 気落ちしながらセイは、申し訳なさげに、

「早く兄さんに、エリクサーを飲ませたかったんだけど、口を固く閉じていたんで、なかなか飲ませられなくて、結局、……口移しで飲ませたんだ」

「……………………!」


 セイに悪気が無いのは分かっているが、思ったより純真なシャギーは、顔が赤くなるのが分かり、心の中で叫ぶ。

(俺は、絶対、そんな趣味は、なーーーーい‼)



 何はともあれ、リョウとセイは新たに『ドラゴンスレイヤー』の称号が付いたのだった。


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