第20話 【砂漠の魔物】
ここガドシュには、以前から遺跡調査や討伐依頼などで度々訪れており、すでに転移陣は設置済みである。
とりあえず、情報収集のためここの冒険者ギルドに足を運ぶ。
「王都から派遣されて来た『ブラット』のリョウだけど、ここのギルマスに 会う事出来るか?」
「…………、えっ? 早すぎないですか? 昨日手紙鳥で応援要請したばかりですけど?」
「ああ、俺達はここに何度か来てるんで、転移陣を設置してあるんだよ」
受付嬢は、今話をしているのが、転移陣の研究者であるリョウと分かりあわてて、
「…………! あっ! すみません! あの『ブラット』のリョウさんでしたね」
(どの、リョウだよ⁉ )
思わず心の中で、ツッコミを入れる。あのが、何を示すのか知りたくないリョウである。
ここのギルドマスターによると、一週間程前に第二オアシス『アクア』に向かったキャラバンが、途中休憩するために街道を少し離れた所に行った際、数えきれない数の砂トカゲを目撃したとの報告を受け、確認のためB級冒険者数名に依頼を出したが、帰って来たのは一人だったそうだ。
しかし、今ここには上位クラスの冒険者が滞在しておらず、王都に応援を要請したとの事だった。
「とりあえず、話は分かった。今日はもう暗くなってしまったので、明日準備を整えて『アクア』に向かう事にする」
「よろしくお願いします。では、乗るためのラクダ二頭と、荷物運びの一頭を用意します。あと、後道案内も用意します」
「あ~、俺達アイテムボックスを持っているから、荷物用のラクダはいらない。道案内も不要だ」
なまじ、他人がいると便利グッズを使う事が出来ないので、極力かかわりを避けたいリョウ達である。
しかし、ここに詳しいギルマスにとしては、砂漠の道案内なしでの行動は危険があり、S級冒険者に何かあった場合、自分に責任が及ぶのを避けたい気持ちも有る。
「ですが、どうやって『アクア』に向かうのですか?」
「そこのところは、まぁ、チョっと人には話せない事があるんでね。悪く思わんでくれ」
と、軽くかわして、二人での砂トカゲ討伐に向かう事となった。
翌朝、リョウとセイは西門からラクダに乗って第二オアシス『アクア』に向かった。途中の第一オアシス『マリン』に寄り、そこに乗って来たラクダを預けた。
目的は二つ、一つは戦いの邪魔になる事。
もう一つは移動に時間がかかる事。
本音を言えば、西の国境門から別の移動手段を使うつもりだったのだが、とりあえず人目を考えてラクダを使う事にしたのだ。
『マリン』を出てしばらく歩いてから、
「この辺で良いだろう」
「そうだね。じゃぁ、出すね」
とセイは言って、アイテムボックスからサンドバギーを取り出した。
「観光するならラクダでも良いが、時間が勝負だからな」
「じゃぁ、乗って」
「おう! 砂除けの防御魔法掛けたから飛ばしていいぞ!」
「了解!」
法定速度制限など無いから、セイは思い切りアクセルをふかして、飛び出した。
スピードによる爆音で会話がしずらい。お互い怒鳴る様に話をする。
「索敵の魔法をしながら行く!」
「分かった! 目標を発見したら教えて!」
猛スピードで砂漠を行く二人だったが、リョウの索敵魔法に反応があった。
「ちょっと待て! いたぞ!」
「どのあたり⁉」
「あの、砂丘の向こう辺りだ!」
セイはスピードを落とし、
「どうするの? このままこれで行く?」
「いや、いったん降りて砂丘を登って、様子を見よう」
二人はバギーをアイテムボックスにしまい、砂丘を這うように登って行った。
そこで見た物は、想像を絶するものだった。
「…………何だあれは⁉」
「砂トカゲをこんなに見た事無いよ!」
リョウはアイテムボックスから双眼鏡を出し、
「こんな数、あり得ないぞ! おそらく千は軽く超えているんじゃないか⁉ それに中心部分にデザートリーザードも居るし、ホントにどうなってるんだ?」
「えっ? ホント? チョットそれ貸して」
セイも双眼鏡を覗く、
「ホントだ‼………で、どうするの?」
「とりあえず、定石どおりにあいつらの苦手とする水魔法で攻めて数を減らし、少なくなったところで、各個撃破とするか? バスターソードを出せ、水魔法を付与する‼」
「分かった、お願い‼」
リョウは、アイテムボックスから愛用の杖を取り出し、セイのバスターソードに水魔法を付与する。これにより、バスターソードは水の力をまとって力を増す。
砂トカゲは水と雷に弱い性質なので、何もしてないバスターソードの、数倍の威力を発揮する事になる。
それに、セイには筋力増強のスキルが有り、時と場合に応じ力を2~10倍に増す事が出来る。
「とりあえず広域の水魔法を掛ける、少し詠唱をするから魔法が発動した後、撃ち漏らしを片付けてくれ!」
「分かった‼」
普段リョウは魔法を使うとき、ほとんど無詠唱で使う事が出来るが、大規模魔法や、広域魔法など魔力を大量に使うとき、心と魔力を集中するために詠唱する。
ただし、詠唱するとどうしても『厨二病』が頭をよぎるので、つぶやく様に詠唱するのであった。
低くつぶやくリョウの詠唱が聞こえる。それに応えるように砂トカゲ達の上空一面に、巨大な水色と黄色の複雑な魔法陣が形成されていく。
リョウは、
「【水雷散弾】‼」
と声を張る。
辺り一面に、雷を帯びた水の弾が物凄い勢いで砂トカゲたちに降り注ぐ。
途端に砂煙が舞い上がり、辺りを覆いつくす。砂トカゲたちは突然の事に、慌てふためき恐慌状態になった。
かなりの数の砂トカゲを減らす事が出来たが、数が数なのでどうしても撃ち漏らしが出る。
その機を逃さず、セイは群れの中に突っ込み、かったぱしから屠っていく。バスターソードを、一振りするだけで、面白いように砂トカゲを蹴散らしていく。
リョウも、初手で撃ち漏らした砂トカゲの頭に、水魔法【水弾】を打ち込みながら、杖でも打撃を与え、数を減らす。
中心辺りに居た、デザートリザードに向かいながらリョウは、
「セイ! デザートリザードを先に叩け‼」
「了解! 任せて!」
中心には、魔法で数を減らしたとはいえ、砂トカゲの上位種のデザートリザードが数十匹群れており、先に脅威を取り除くに越した事は無い。
セイは魔法付与のバスターソードで、リョウは水弾魔法で、数を減らしていく。
「……ハァ……ハァ、さすがに数が多くて……魔力切れになりそうだ!」
「僕も、…………ちょっと、手がだるくなってきた………」
リョウは攻撃を避けつつ、考えるようにデザートリザードに目をやり、
「…………。仕方ない、もう一度【水雷散弾】を放つ‼」
「だっ、大丈夫なの⁉」
「あと一回くらいは出来る。このままでは魔力も体力もじり貧になってしまう! ……5分、いや3分時間を稼いでくれ!」
「分かったよ! でも、無理しないでね!」
「おう!」
リョウは、再び詠唱を始め、魔法を放つ。
「【水雷散弾】‼」
しばらくして、辺りは静寂を取り戻し、二人は背中合わせに座り込んでいた。
「…………もう当分トカゲは見たくないよ~」
「まったくだな。………もう、撃ち漏らしが無い事を祈るしかないな」
リョウのその一言が、呼び水になったのか、
「…………兄さ~ん、それってフラグが立つ奴じゃないの? ほらあれ~!」
「えっ⁉ えっ~‼ なんだあれ~⁉」
セイの指さす方向に居たのは、デザートドラゴンであった。




