第2話 【魔力過多症⁉】
ズーミニはダンジョン都市と言われてはいるが、本当はダンジョン街と表現した方がしっくりくる位の規模である。
都市の周りは外敵や魔物の侵入から防ぐように、ぐるりと強固な外壁で囲まれており、南北と西に通行門が有る。
『光の聖剣』のメンバーは西門から出て、今回攻略するダンジョンに向け歩いていた。
「なぁ」
一番後ろを歩いていたシャギーが、おもむろに声をかけてきた。
「なぁ、ちょっと待ってくんないか」
面倒くさそうに皆が振り返ると、そこには真っ青な顔をして、口から大量の血を垂らし、ヘラヘラ笑っているシャギーがいた。
「なっ!どうした!」
アラバスが慌てて駆け戻り声をかけるが、シャギーは相変わらず笑いながら、
「分かんねぇ、ちょっと咳したらこうなった。なんか、おもしれぇな~」
「いやいや、面白い訳ないだろ!いったい、何なんだよ!」
他のメンバーもこの異常な事態に言葉が出ないようで、成り行きを見ていたが、
シャギーは力なく、
「なぁ、こんな状態じゃ俺、足手まといになっちまいそうだ。悪りいけど、今日はねぐらに帰って良いか?」
はっと、我に返ったアラバスは、
「……まぁ…そうだな。…シャギーが抜けるのはかなり痛いが、そんな状態で戦闘中に倒れられても庇う事は出来ないから、お前の言う通り足手まといになるだけだからな…」
「悪いな、…お前ら……攻略頑張ってくれよな」
そう言葉を残し、シャギーは一人門の中に去って行った。
後に残ったメンバーは、何とも言えない表情でしばし見つめ合っていたが、アラバスは気を取り直して、
「お前ら!気持ちを切り替えろ!そうでなければ、ダンジョンの餌食になってしまうぞ!」
と、檄を飛ばし、ダンジョンに向けて再び歩き始めた。
ただ一人、剛力の荷物持ちとして付いて来た奴隷のイースだけは、何も映していないような目で、ぼんやり遠くを眺めていた。
結果として、非常に困難を極めたダンジョン攻略になった。
何とかズブタークを攻略する事が出来たが、マージュがかける回復魔法や防御魔法はほとんど効かず、荷物持ちのイースを含めメンバー全員が満身創痍であった。
やはり、脳筋シャギーが一人いない事が、非常に重かったと言わざる終えなかったし、全員生きて帰れたのは奇跡のようである。
皆疲れ果て、ベース基地としている家にたどり着いた時には、誰も声を出せないような状態であった。
しかし、イース以外のメンバーの心の内は、ダンジョン攻略に成功し、Aランクに昇格できる喜びに気持ちが高ぶっていた。
そんな彼らを迎えたは、青色を通り越して土気色をした顔のシャギーであった。
彼は、いつもの威勢の良い傍若無人を絵に描いた様な態度ではなく、消え入りそうな小さな声で、
「…大事な話が有るんだけど、…おまえら、今日は無理そうだな。…明日にするわ」
と言って、自分の部屋に戻っていった。
「あいつ、今にも死んじまいそうな感じだったな」
「ダルトン、不吉なこと言わないでよ!」
と、魔女っ娘マージュは言い返していたが、アラバスもそう思うようなシャギーの様子であった。
しかし、今は疲れが酷く色々考える気力も無いので、取り合えずリーダーらしさを装いながら、
「まあ、今日の所は皆疲れているし、シャギーも言っていたが、話は明日だ。ひとまず全員解散!良く体を休めろ!」
と、話を終えた。
翌日、疲れ果てた体を休めたメンバー全員が揃ったのは、お昼もかなり過ぎた時刻だった。
「おい、肝心のシャギーはどうした?」
アラバスが言った時にタイミングよく、シャギーは階段を下りてきた。
「悪い、待たせちまったか?」
顔色は昨日と同様に土気色である。シャギーはだるそうに、
「あの日、医者に診てもらったけどよ、俺、『魔力過多症』なんだってよ」
シャギーの言葉に、皆一様に息をのむ。
各冒険者ギルドには、冒険者を診る専門の医者がおり、ケガや病気を格安で診ている。
『魔力過多症』とは魔力を持つ、生きとし生ける者全てがかかりうる病で、魔力が制限なく増え続け、動物であれば魔物になるか、魔力の増加に体が耐えられず自爆する。
人の場合は、なぜか魔人になる事は無いが、ただただ魔力が増加していき、いずれ体が耐えられず自爆をする事になる。この自爆の規模が厄介で、その者が有している魔力量に比例する。
だが、『魔力過多症』の発症の原因はいまだ解明されていない。
シャギーは誰が見ても魔力を多く持っているのが分かるので、もし、街中で彼が爆発するとなると、甚大な被害がこの街を襲う事になる。
「でよ、医者の先生が言ったんだけどよぉ、南のアレッドカに『魔力過多症』を治せるかもしれない大賢者が居るんだってよ…」
「それ、本当なの?」
アシューナは疑う。それ程『魔力過多症』は治療法が無いのである。
「まぁ、うわさ程度だけどな。それにホントじゃなくても、その話は俺にとっては、藁をもすがる話なんだよ…」
「だからって、一人でアレッドカに行くと言うの?……う~ん、その様子じゃ無理なんじゃないの?」
「マージュが心配してくれるのはありがたいけどよ、俺がここに居たら最悪、街が吹っ飛んじまうかもだろ?」
その言葉に、その場の全員があり得ると想像できた。
アラバスはしばし思案したが、結局自分たちと街の安全を思えば、答えは一つしか選ぶ事が出来ないので、
「分かった、『光の聖剣』からいくらかの金を出す。足代の足しにでもしてくれ」
「あ~、金は、いらないや」
シャギーの言葉に全員驚き、アラバスは聞き返す。
「えっ⁉どう言う事だ、金はいくらでもあった方が良いだろう!」
「金じゃなくて、俺、他に欲しいもんがあるんだよ」
「何だ?俺たちが出せるもんなら協力するぜ!」
気前よくダルトンはそう言ったが、シャギーの次の言葉に一同耳を疑った。
「俺、イースが欲しい‼」
読みやすくするため、少し手を加えました。