第19話 【赤い屋根の一軒家】
二人は新たに住処になる場所に向かいながら、
「兄さん、新しい家ってどの辺なの?」
「この地図によると、東の丘陵地帯だな」
「あの辺りは放牧が盛んだったよね?」
「ああ、だから人家は少ないはずだ」
「と言う事は、S級の家にもってこいの場所なんだね」
鼻の頭にしわを寄せ、地図を見ながら嫌そうに、
「ああ、そうだな。……聖都の中心からかなり離れた場所って、事を除けばな……」
「………そうだね、離れた場所ってことを除けばだね………」
その場所は、聖都の中心からかなり離れた所にあり、郊外とは言うが、はっきり言ってしまえば辺鄙な所である。
しかし、リョウたちには奥の手が有る。
「まあ、俺達は転移する事が出来るから、距離は関係ないけどな」
「でも、転移先はどうするの?」
「各ギルドに、俺たちの部屋がもらえるそうだ。そこに転移陣を設置すれば良いだろう」
転移の魔法は失われた魔法と言われていたが、リョウ達が依頼でこなした遺跡探索で、古代魔法の魔法書を発見し、その解析をした結果、誰でも転移の魔法を使えるようになった。
しかし、その魔法陣は複雑で並みの魔導士では、魔法陣を描く事さえできない。そのうえ、転移陣を起動させるにも魔力をかなり使うので、実質、今の所、リョウとセイにしか使う事が出来ない状態である。
今リョウは、魔力が少なくても起動する、魔法陣の開発に力を入れている。
転移陣は、今いる場所と転移しようとする場所とに、対の転移陣を設置する必要がある。なので、一度は転移先に自分で行って確認し、転移陣を設置しなければならず、その手間が転移の魔法がが広まらない要因の一つでもある。
ちなみにセイは、魔導士ではないが、リョウとセイの魔力がほぼ同質であるため、リョウの転移の魔法陣を使う事が出来るのだ。魔力量も二人はほぼ同量である。
リョウはしばし考えて、
「なぁ、これって、丘陵地に行く馬車に乗った方が早くないか? このまま歩いて行ったら日が暮れるぞ」
「そうだね、家に着いたら荷物の整理もしなくちゃいけないしね」
と、言う事で、東の丘陵地に行く馬車を探して、新居に向かった。
適当な所で馬車を降り、地図を頼りにたどり着いたところは、まるで「アルプスの少女ハ〇ジ」の家を彷彿とさせる様な、丘の上の一軒家だった。
見渡す限り、緑のじゅうたんを敷きつめた様な丘の上に、赤い屋根で二階建てのログハウス風の母屋と、こじんまりした離れもあった。
何より、家の後ろに樹齢が相当立っているであろう大きな木が一本、その存在を誇示するかのようにそびえたっている。
しばし家に見入っていたが、ハッと我に返り顔を見合わせ、二人同時に、
「……これは良い(ね)‼」
と思わず口に出していた。
「すごいね、ここ! まるでアニメの世界だ‼」
「ああ、これなら人里離れているのも気にならない位だ。(これは、女王様さまだな!)」
「早く家に入ってみようよ!」
「ああ、いこう!」
二人とも、子供に戻ったような気分で、家に向かって駆け出していた。
期待に胸を高まらせ、ローランから預かった鍵で扉を開けた。
しかし中には、何も無かった。
「…………あっ! そう言えば、掃除はしてあるけど家具はなにも無いから、自分たちで用意しろって言われたんだった」
「……そう言う事は、先に言ってよね! 期待が大きかった分ガッカリも大きいよ!」
「すまん」
と、謝るリョウだった。
とりあえず、リョウの『百貨店』から生活に必要な、家具やリネン類、食器、調理、掃除、その他諸々な物を買って、アイテムボックスから取り出していった。
リョウの『百貨店』はお金さえ払う事が出来れば、時間差なくその場に品物が現れるので、すぐほしい時に大いに役立つ。しかし、突然品物が目の前に出現するので、場合によっては非常に困ったことになる。
リョウは、あれやこれやと工夫をした結果、品物の出現場所を、アイテムボックスの中に設定する事が出来き、これで、いつでもどこでも手軽に『百貨店』を利用できるようになった。
しばらく二人で時間も忘れて、家具の設置や荷物の整理などをして、落ち着いたのは、夕日が窓から差し込むような時間になっていた。
リョウは、ある事を思い出し、
「いけねっ! 書類を持って行かなきゃいけなかったんだ」
「もうこんな時間だよ、どうするの?」
「なに、ギルドからもらった部屋に、もう転移陣を設置してあるから、チョット行ってくるわ」
「……ハァ、用意周到だね。行ってらっしゃ~い!」
「飯の用意して待っててくれ!」
リョウは、その場でいとも簡単に転移の魔法陣を描き、それに乗って消え去った。
その後数日は、家の魔改造にまい進した。
なにより人目が無いのを良い事に、現代日本の様な設備を設置しまくった。
屋根にソーラーパネルをおき、地下室があったのでそこに蓄電設備を整え、家電製品をこれでもかと揃えた。
さすがに、アンテナを立ててもテレビは映らないのでそれはしないが、テレビは防犯カメラのモニター代わりに使ったり、ブルーレイやDVDなど記録の再生に使う事にした。
見晴らしの良い丘の上の一軒家で、隠れるところがほぼ無いので、不審者を見つけやすい立地条件である。そして、最後の仕上げに、家の周りに対物理防御結界と対魔法結界、そして屋根の上のソーラーパネルなどを誤魔化すための、隠ぺい魔法を掛けた。
「これだけやっておけば、安心して暮らしていけるな」
「そうだね。それに離れも有るから、錬金術の錬成もやりたい放題だしね!」
「…………おまえ、離れを壊すなよ………」
「うん。努力する!」
「……努力かよ…」
ともあれ、新しい家での生活が始まったのである。
それから数日たったある日の事だった。
冒険者ギルドから、リョウにすぐに来るようにと手紙鳥が来た。
とうとうS級の依頼が来たのだろう。はたして、S級初めての依頼はどんなものになるのか、面倒くささと一抹の不安を胸に、ギルドに向かった。
「砂トカゲの討伐ですか?」
「そうだ」
西の国境門の都市ガドシュから、第二オアシスの『アクア』近くに、砂トカゲの異常発生が報告されてきた。
「でも、あれってD級ランク位の依頼ですよね?」
「普通ならな」
「………普通じゃないんだ」
リョウのいやな予感はほぼ当たる。
「普通、砂トカゲは繁殖以外では単体で行動するが、今回の報告では繁殖時期で無いにも関わらず、いや、それ以上の数の砂トカゲが確認されている」
「それ以上って?」
「数百匹、あるいは千にもなるかもしれないと…」
あまりの数の多さに、思わず声が大きくなる。
「おおごとじゃないですか⁉」
「おおごとだ! だからお前達『ブラット』に依頼が来たんだ! D級ランクの人間を何人集めようと、あの数だとただ犠牲を増やすようなものだからな」
「いやいや、俺達は二人だけなんですけどね?」
「お前は、広域攻撃魔法が使えるし、セイは一人で、あのバスターソードに様々な魔法付与の攻撃が出来る。なので、砂トカゲなど何匹居ようと軽いもんだろ?」
「そうは言いますけど………」
止めとばかりに、依頼主が誰かを言ってきた。
「今回の依頼は、女王陛下直々の依頼だそうだ。依頼は断ることも出来るが、初のS級の仕事、陛下はお前達に期待しているようだぞ」
「…………、そういう言い方は、断るなって事ですよね?」
「まあ、そう受けっとてもらってもかまわない」
これ以上何を言ってもどうしようも無いので、
「分かりましたよ! で、期限はあるんですか?」
「期限は無い。出来るだけ早く現地に向かってほしいとの事だ」
「了解しました! これから準備をして直ちに『アクア』向かいます!」
その日の夕刻、西の国境門都市ガドシュに、転移をしてきたリョウとセイの姿があった。




