第16話 【何でも知ってる、女王様⁉】
息詰まるシャギーをよそに、女王は話を続ける。
「ここ最近、魔物の出現頻度が増しているのを知っていますか?」
「はい。冒険者の間でも話題になっておりますので」
「それならば話は早いです」
女王は、今現在のギルドについて話をする。
「このサマリーアートには、三か所の冒険者ギルドが有るのは……改めて尋ねる必要なないですね」
「はい。貴族街の『大鷹の館』と役所街の『獅子の館』そして、私が所属している下町の『聖光の館』です」
「それぞれにS級ランクの冒険者が二組ずつ所属していますね。『聖光の館』以外は……」
話が少し見えて来たシャギーであった。
が、それでも高々一冒険者を、王宮に呼び出すのは行き過ぎでは無いかと思う。
「その補充のために、私たち『ブラット』をと言う事でしょうか?」
「それもありますが、……そもそもS級ランクの依頼はすべて、国選依頼となっています」
「国選依頼?」
「そうです、どのギルド、どのパティーに依頼を出すかは、全て国選として決めて指名されます。ゆえに、ここ最近の魔物の増加にS級冒険者が足りない状況なのです。それゆえ、S級の力が有るにも拘らず、S級にならない者を遊ばせておく事は、許し難いとの話も出ているのです」
そのような話が有るとは思ってもみなかったが、やはり二人だけのパティーと言うのがネックだと考える。
「しかし、私たち兄弟は二人の小規模パティーですので、陛下のお心に叶うかどうか分かりません」
「まあ、それも分かっていますが、…正直に言わせてもらえるならば、私の都合に良い手足となり動くものが欲しいのですよ」
「その手足となれと?」
「そうです。見返りとして、あなた達の秘密は守ります」
女王からの提案を受けるべきではあるが、どうにも釈然としない気分がある。
しかし、もうすでに断ることは出来な状況であるのも事実である。
「少人数だからこそ、身軽に動く事も出来るでしょうし、また、兄弟だからこその連携も容易でしょう?」
その言葉に少なからず、心が痛む。
「………私たちが本当の兄弟ではない事は、ご存じなのでは?」
「私が知っている限り、あなた達は、まぎれもなく兄弟だと私は思っていますよ」
女王の言葉はシャギーの心に小さな灯となった。
「……ありがとうございます」
「では、これから私の依頼はすべてあなたたち二人、『ブラット』に託すことになります。依頼は、ギルドの方にあなた達を指名して出しますので、よろしく頼みます!」
「ははっ‼ 承りました!」
と、跪き最上級の礼をする。
跪いていたシャギーに、改めて椅子に座る様指示し、
「さて、話は変わろますが、シャギー、あなたが度々飲んでいる『コーヒー』なる物を私は飲んでみたいのですが? 飲ませてもらえませんか?」
「…………………はぁっ?」
一転、打って変わって場にそぐわない問に、一瞬、頭の中が真っ白になり、間抜けな声を出してしまった。
確かに、シャギーは(と言うよりリョウは)コーヒーが好きで、『百貨店』から色々取り寄せ、コーヒーを楽しんでいた。
しかし、なぜ自分がコーヒーを飲んでいる事を知っているのか、まるでコーヒーを飲んでいる所を見ていたかのように、
「あなたの、コーヒーを飲んでいる姿があまりにも幸せそうなので、飲んでみたいと思ったのですが?」
「…………あの? なぜ、私がコーヒーを飲んでいる事をご存じなのでしょうか?」
「それは、一番初めの、あなたの疑問に答える事になりますね」
その一言に、側近のローランは血相を変え、
「陛下! それはおやめ下さい‼」
「ローラン、この者には手の内を明かした方が、色々と良く動くと私は見ています」
だとしても、事の重大さを考えると、
「しかし、今日、初めて会った者をそこまで信用なされるとは、いかがなものでしょうか?」
「この者の事は、私が保証すると言っているのです! ローラン!」
女王の、強い意志にローランは引き下がる。
「はっ、出過ぎた事を申し上げました」
「気にする事はありません」
これは、物凄く重大な事を聞かされることになりそうで、(正直聞きたくない!)とシャギーは心の内で思うのであった。
「私のスキルに、『ミリオンアイズ』と言うものが有ります。文字通り、百万の目です。見たいと思った物は、現在、過去、場所を問わず観る事が出来るのです。…残念ながら、未来を見る事は叶いませんが……」
(なんだそれは⁉ そんなスキルがあるのか? だとしたら、この人には隠し事など出来ない事になるぞ!)
もう、こうなるとやけくそである。聞きたい事を全部聞いてやると思い、
「……そのスキルで私を見ていたという事でしょうか?」
「半分正解で、半分不正解ですね」
女王の答えに理解が出来ず、
「それはどう言う事でしょうか?」
「物事を見るのに、絶えず百万の視界があったならば、人は正気を保っている事が出来ますか?」
「無理だと思います」
「私が、このような物を見たいと明確な意思を持って、スキルを発動させると見えてくるものなのです」
「それは私を、見たいと思っての事ではないと?」
「そうですね。あの時は、自分の手足になる者が居るかどうかを見たいと思った所、あなた達が見えただけです」
(見えただっけって……。それだけで、俺は、目を付けられたのか⁉)
いともあっさり返されてしまい、少々イラッとする。
「まあ、それから見るともなしに観ていたら、なかなか面白い物がたくさん見られて、楽しかったですけどね…………」
ホホホ……と楽しそうに笑う女王に、女王の御前ではあるが、思わず頭を抱えてしまったシャギーであった。
一体ぜんたい自分は何を女王に観られていたのか、その事を聞きたい様な、聞きたくない様な。
微笑む女王であるが、目は笑っていない。
「あなたが、いえ、あなた達二人が、異世界の前世の記憶を持っていると言えば良いですか?」
「…………………‼⁉」
「九条僚佑と呼べば良いですか?」
今日一日で、何度息の根を止められそうになったか分からないが、前世の名前が出て来た事が最大の驚愕であった。
「弟は、一ノ宮誠人で良いですね?」
もう、何も言う事が出来ない。
女王は、構わず話を続ける、
「私もそうですが、あなたもかなり変わったスキルを持っているようですね」
やはりそこも見られていたかと、
「『百貨店』です」
と素直に答える。
「そうです。それでコーヒーを仕入れているのでしょう?」
「いいえ、仕入れているのではなく、買っているのです」
思わず、女王の言葉を訂正してしまった。
が、彼女は気にする様子もなく、
「では、私に、そのコーヒーを飲むための、道具を用意してもらえませんか?」
「では、いつまでに……」
いつまでに用意すれば良いか、尋ねようとしたところ、
「その『百貨店』で、今、取り寄せられるのでしょう?」
と、先を越されて言われてしまった。
「出来るなら、今日ここでそのコーヒーを飲ませては貰えませんか?」
ここまで言われてしまっては、これ以上拒否も出来ないし、不敬にもなると思うと、
「では、準備いたしますので、お湯を用意して頂けますか?」
女王は、ローランに目で合図を送り、お湯を用意させる。
シャギーはアイテムボックスから必要な物を取り出し、コーヒー豆をひく。
お湯をもらいドリップをしていくと、辺りにコーヒーの香りが漂い始める。
女王とローランは、その思いもよらず良い香りを楽しむように目を閉じていた。
ドリップは終わったのだが、女王陛下にお出しできる程のカップの持ち合わせがなく、
「カップはいかが致しましょうか?」
と聞けば、
「時間がたって、美味しさが損なわれてしまってはもったいないので、あなたが持っているカップで良いですよ」
と言われてしまった。
仕方が無いので、今持っているもので、比較的良さそうなカップにコーヒーを注ぎ、二人に差し出した。




