第15話 【バレた⁉】
とうとう城に行く日が来てしまった。
時間が迫り、着替えをして階段を降りると、いつものメンバーがそろって待ち構えていた。
リーリが興奮して、
「リョウさん、ステキー!かっこいい! さすが私の旦那さま!」
ハナナは、
「まあ、本当にステキね!」
ロイドも、
「うん。馬子にも衣裳だな」
最後にセイがとどめを刺す。
「まあ、素材が良いだけだけどね」
「何とでも言え! 行ってくる!」
もう、やけくそである。
こんなになかしこまった服を着るのは、前世の防大の制服以来である。
当時は制服を着る事に誇りを感じていたが、この世界での生活が長くなり、このような服は堅苦しさを感じるようになってしまっていた。
(自分でも驚くが、変われば変わるもんだな)
城に着き、衛兵に来訪の要件を告げ、とりなしを頼む。
しばらくして、文官のお仕着せを着た者が現れ、付いて来るよう促した。
黙って後をついて歩いていたが、どんどん奥に進んで行き、明らかに政務を行う場所ではなく、王族のプライベートスペースの様な場所に来てしまっていた。
(……なんかヤバいな。嫌な予感しかしない。もしかして俺が会わなければならない人物は……)
最悪の予感しかしないリョウである。
しばらくして一つの扉の前に着き、部屋に入る様言われ、
「こちらで、座っておまちください」
と言い、彼は去って行った。
通された部屋は、さほど大きな部屋ではない。一見質素に見えるが、調度品のすべてが素人の自分でもわかる位の、品の有る高級品である。
一応、椅子に座ってみたものの、この椅子一脚でいくらするのか、考えただけでもめまいがしそうである。
内心、冷や汗タラタラで、
(やばい! やばい! やばい! この状況はホントにやばいぞ‼ ……魔法を使って逃げても良いだろか?)
などと、現実逃避をしていたところに、今度はメイド服に身を包んだ二人の女性が、ワゴンを押して入って来た。一人は品の良い年配の婦人で、もう一人は若い女性である。
二人は香りの良い、いかにも高級ですと言わんばかりのお茶を、これまた高級なカップに注ぎ、リョウの前に置き、壁際に控えた。
(え~っと………こんな状況でお茶しても、味なんか分からないんですけど~!)
しばらくして先触れが現れ、
「まもなく、マミーナリサ女王陛下がお見えになります」
(…やっぱりかーーーー‼)
心の内で叫び声をあげたが、現状はどうする事も出来ず、椅子から立ち上がり、椅子の横に片膝を付き座り、頭を下げ正式な礼をとる。
扉がが開かれ、衣擦れの音と共に馥郁たる香りが鼻をくすぐる。女王陛下の付けている香水らしい。
「面を上げなさい!」
威厳のある一言にリョウは素直に顔を上げる。
そこに居たのは、華美ではないが、一目で高級であると思わせる仕立てのドレスに身を包み、輝くプラチナブロンドの髪を品よく結い上げ、同じく品の良いデザインのジュエリーで飾ってある。瞳は、オパールのごとく光に煌めき色を変えている美しい貴婦人がいた。
(今日は、厄日だーーーーー!)
今さら、遅い感想である。
女王は、リョウを見て、
「ふっ」
鼻で笑わられてしまった。
(えっ……、何それ、俺なんかしたかーー?)
「跪いていては話も出来ません。そちらの椅子に座りなさい」
(え? 陛下の対面に座るのか? 良いのか? それで⁉)
「陛下のおぼし召しである。早く座るように!」
とお付きの者に促される。
「はい」
と返事をし、改めて椅子に腰かけた。
メイド達が、新たにお茶を入れなおし、退出して行く。
「さて、あなたを呼び出したのは他でもありません」
と女王が話を切り出す。が、その目はリョウの左手、正確には指輪を見ている。
「その前に、その左手の指輪を見せてもらえませんか?」
その一言でリョウは進退窮まってしまった。
(………どうする?ここで指輪を外す事などできん! 姿を変えているのがバレてしまう。しかし、逃げだす事も出来んし!……どうしたら良いんだ⁉)
表面上は少し困ったような表情を浮かべてはいるが、心の中は猛烈な勢いでこの難題をどう回避するか考えている。
もちろん、指輪を外すことは論外だし、かといって外さなければ不敬と取られてしまう。
まさに、二度目の人生最大のピンチである。
しかし、その難題はアッサリ解決した。
「まあ良いでしょう。大切な物なのでしょう?」
ホッと息をつき安心したところに、なんでも無いかの様に普通に女王が名を呼ぶ。
「ところで、シャギー」
「はい」
心の隙を突かれ、うっかり返事をしてしまった。
(………………………………。)
針を落としても音が聞こえそうな静寂が支配するなか、自分の心臓の鼓動だけがうるさく聞こえ、リョウは、おのれの失態に歯噛みする。
女王は、改めて、
「指輪を見せてくれますね?」
と言う。
リョウは、もう観念するしかないと、黙って指輪を外す。
一陣の風が吹きそこには、リョウの服を着たシャギーがいた。
シャギーは指輪を女王に差し出す。
女王の付き人が驚き息を飲み、何か言いだそうとするのを、彼女は視線でたしなめ、指輪を見ながら、
「なるほど、こう言う仕掛けになっているのですね」
意を決し、
「直答をお許し下さい」
「許します」
シャギーは、この姿変えの事をするにあったって、完璧なアリバイを作ったと自負していた。
どこをどうしたら、王宮のしかも女王陛下に秘密がばれたのか分からない。
「なぜお判りになったのでしょうか?」
「それについては、今は話せません。ですが、後程話す事になるでしょう」
その秘密はいづれ教えてもらえるのなら、今はこの姿を元に戻すべく、
「では、それを返して頂けませんでしょうか?」
「今は、渡せんね。あなたがが帰る時に返します。それまでは私が預りますし、これについて異論は認めません」
シャギーが姿を戻すのに、女王がなぜ異を唱えるのか不思議思う。
「その姿はあなた自身あまり好きでは無い様ですね?」
「はい。今となっては、黒髪の自分がホントの自分であると思えるくらいです」
「そうですか? 私はその赤い髪の方が好ましいと思いますけどね」
(え? どう言う事だ?)
クスリと笑いながら、シャギーの心の内を読んだかのように、
「ただ単純に、黒より赤が好きなだけです」
(……どう解釈したら良いんだよ~⁉)
訳が分からない。
「さて本題です。私はこの事は誰にも話しません。……最も、あなた次第ですが」
薄い笑顔で言うが、目は笑っていない。
やはりそう来たかと思い、
「私は、何をすれ良いのでしょうか?」
「まず、冒険者ランクをS級に上げなさい。魔導士の階級も特級に、これは願いではなく決定している事です。もうすでに、書類その他諸々の手続きは済んでいますから」
(え? 何それ⁉)
「拒むことは、許しません!」
それでも最後の抵抗を試みる。
「………あの、ランクを上げるには試験が必要なのですが?」
「その事は承知しています。ですが、そもそもあなた達は、すでにS級ランクの実力を持っていると、ギルドマスターが言っていましたよ」
(あの、クッソ!ギルマスめ~‼ 最初から分かっていたんじゃねぇかよぉ~‼)
心の内で、ギルマスを罵りながら、
「そのお話、謹んでお受けいたします」
と、言うしかなかった。
「さて、ここからが本題です。まず初めに、この者はローランと言い、私の一番の側近です。私の許しが無い限り、あなた達の事を口にする事は無いので、安心して良いですよ」
女王は、お付きの者を、自分のいわゆる片腕として紹介する。
「ローランと申します、お見知りおきを」
彼が自己紹介をし、それに対しシャギーも答える。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。リョウと申します。……もっとも、今の姿ではシャギーなのですが」
シャギーの変わった返答に女王は、
「どういう事ですか?」
「この姿の時は鑑定でシャギーと表示され、黒髪の時はリョウと表示されるのです。なぜそのようになるかは、私でも分からないのですが……」
そう答えたが、女王の次の一言で顔から血の気が引く。
「そう言えば、【鑑定】のスキルも持っているのでしたね」
その言葉にシャギーは戦慄を覚え、どこまで自分の事が知られているのか、息が出来なくなりそうであった。




