第13話 【下宿屋からの新生活】
聖都サマリーアートを目指す二人は、修行もかねて旅の途中で魔物を倒したり素材を集めたり、小規模なダンジョンも経験しながら、時間をかけて徒歩で旅をし、サマリーアートの巨大な城壁門を見上げたのは、国境の町を出てから、実に一年が過ぎていた。
二人の外見は国境の町を出た時とかなり変わっていた。
背も伸び、体が筋肉質になり、かといってボディービルダーの様なムキムキではなく、俗に言う細マッチョである。
髪も伸びて、リョウは首の後ろで、セイはポニーテールの様にまとめている。
冒険者ランクは、普通では考えられないような頑張りで、二人共にC級になっていた。
「やっと着いたな!」
「長かったね~!」
「ホントだな! これからここで、俺達二人の新しい生活が始まる‼ よろしくな!」
「うん。兄さん!」
城壁門をくぐり、冒険者ギルドを目指す。
「とりあえずここに腰を落ち着けて活動していきたいから、ここのギルドに登録しようと思うんだが?」
「良いよ! じゃぁ、宿じゃなく住むとこも探さないとね」
「そういう事はギルドに聞けば何とかなるんじゃないか?」
「そうだね」
聖都サマリーアートは大きな都市であるがゆえに、冒険者ギルドも三か所存在している。
そのうちの一つ『聖光の館』に足を運んぶ。ここは下町に近く、貴族街や役所街の様に堅苦しくなさそうだと思いリョウが選んだ。
冒険者ギルド『聖光の館』の扉を開けると、下町が近いから雑然としているかと思いきや、それ程でもなく、整っている方である。
一階正面の受付カウンターには、男女二人づつ受付をする者がおり、右端に居た男性職員にリョウは声をかけた。
「今日、このサマリーアート着いたんだが、ここを拠点として冒険者をしたいので、登録を頼む」
「分かりました。では、ギルドカードの提示をお願いします」
カードを受け取り、二人の名前とランクを確認する。
「C級冒険者のリョウ様とセイ様ですね?」
「ああ」
短く返事をする。
職員は、受け取ったカードを金属プレートの上に置き、何やら作業をした後、小さな本と共にカードを返してきた。
「はい、登録は終わりました。当ギルドの詳しい事はこの冊子に書かれていますので、よく読んでおいてください」
そして、顔をグイッと近づけて、人差し指をのけぞるリョウの鼻にあて、
「ちなみに、やむ負えない場合を除き、街中での乱闘や抜刀及び攻撃魔法の行使は、一発でサマリーアートを追放されますのでご承知おきください‼」
「おおぉ……。ず、ずいぶん、厳しいんだな?」
「女王陛下のお膝元ですからね」
と、なんだか彼は誇らしげに言った。
職員の強気に押されながらも、
「……ところで、住むところを探しているのだが、どこか紹介してもらえるだろうか?」
「そうですね……どのような所をご希望ですか?」
と聞かれてセイは、
「できれば、少し中心から離れた所が良いかなぁ……」
リョウはチョット不思議に思い、
「なんでだ?」
「だって、寝るときは静かな方が良いもん!」
「……結構うるさくても、良く寝てたじゃないか?」
「いいの! 静かに寝たいの!」
セイの言い分にあきれながらも、
「だ、そうだ。悪いね。そんな所あるかい?」
職員は、書類をしばらく調べた後、
「ちょうど良い所がありますよ。『黄金の葡萄』と言う飯屋と下宿屋を兼ねた所で、飯屋もそんなに夜遅くまでやっていないので、夜は静かになると思いますよ」
「じゃあ、そこに行ってみるか?」
「うん!」
教えられた道を進み、中心から少し外れた所にある『黄金の葡萄』に着いた。
扉を開けようかと前に立った時、突然扉が勢いよく開けられ、リョウはしたたかに鼻を打った。
笑いをかみ殺しながらセイは、
「……兄さん、大丈夫~?」
「…………うっ~う。っ痛~!」
栗色お下げ髪で青い瞳の元気な少女が、心配そうに、でも半分笑いながら、
「あっ⁉ ごめんなさ~い! 大丈夫ですか~⁉」
リョウは、うずくまり鼻を押さえながら、
「まぁ…、大丈夫だよ…」
「お客さんですか? まだ食事は出来ませんけど~?」
「そうじゃなく、ここに下宿させてもらえないかと思ってな」
「…ああ、下宿希望の方ですか? チョット待ってください。父さん!父さ~ん! 下宿したいって人が来てるよ~!」
にぎやかに少女は奥に向かって、声をかける。
その声の応えるように、少し太めの男の声が聞こえる。
「静かにしないか‼」
出て来た男はリョウの鼻を見て、
「リーリ!お前また何かやったのか⁉」
「ちがうもん! 私は扉を開けただけだもん!」
「確かに間違いでは無いです。ただ俺の間が悪かっただけですから」
苦笑いで答えるリョウであった。
出て来た男はこの『黄金の葡萄』の店主ロイドと言い、立派な体格をしており、短く切りそろえた栗色の髪に鋭い銀色の瞳をしていた。少女は一人娘との事で、他に、赤毛で青い瞳の男の女房ハナナが居るそうだ。
ロイドはさっきの扉の一件で、リョウに謝る。
「すみませんでした。うちの娘は、本当にいくつになっても落ち着きが無くて。困ったもんですよ」
「いや、お気遣いなく。元気で良いじゃないですか?」
「そうは言っても、もう年頃になるのだから、落ち着きが欲しいんですけどね…」
と、何気に、男二人で世間話を始める。
「ところで、うちに下宿希望だとか?」
「はい。そう思ってこちらに来たんですが、年頃の娘さんがいるのであれば、他を探す事にしますよ」
年頃の少女がいるとなると、何事もなくても不都合がありそうだ思うリョウであるが、ロイドは気にせず、
「別にうちは構いませんよ?」
「そうはいっても、野郎二人が同じ屋根の下に居るとなると、親御さんとしても心配でしょうに?」
少しの間をおき、
「……失礼ですが、冒険者ですよね? ランクは何ですか?」
「二人ともC級です」
ロイドは、獰猛そうに笑いながら、
「そうですか、実は私も昔冒険者をやっていたんですよ。……ランクはA級でしたが………。娘に何かしようものなら、…………分かるよな‼‼」
「……………………。」
ひどく脅され、無言になる二人だった。
とりあえず、リョウとセイの二人は、この『黄金の葡萄』からの新しい生活が始まるのであった。




