第12話 【新たなる門出】
まずは、このボロボロの服をどうにかしないと目立ってしょうがない。
で、教えてもらった古着屋に行き、適当に服やブーツ、小物を買って着替えた。
「シャ……んっん! 兄さん。もしかして、予備の服とかって持ってたりする?」
「ん? ああ、持ってるぞ。もっと質のいい服をな」
と、茶目っ気たっぷりにウインクする。
「まあ、荷物を失くしたんだから、服くらい買わなきゃおかしいだろ?」
「ああ、そうか!」
納得するセイ。
宿に向かって歩きながら、
「それにしても、同じ宿屋を紹介されるとはねぇ。あの宿は結構有名なんだな」
「あの煮込みも美味しかったよね」
「まあ、そうだな」
セイは、小さくクスクス笑いながら、
「兄さん、この間あの宿屋で料金払った時に、四千円って言ってたよ」
「……えっ? 俺、そんなこと言ってたのか?」
「うん。この世界の物価が理解できないって」
リョウは、セイの事を言えないと頭を抱えた。
しかし、リョウも面白そうにセイに目を向け、
「そういうセイも、手を合わせて、「いただきます」って言ってたぞ」
セイは、目が点になり、
「……僕たち、似た者兄弟って事で、良いんじゃない?」
「アハハハハ……。そうだな」
リョウはセイの頭に手を置き、クシャクシャとかき混ぜ笑った。セイも屈託のない笑顔を見せていた。
宿に着き、また部屋の交渉である。
「親父さん。俺たちがが泊まれる部屋あるかい?」
「ああ、ちょうど今朝、一部屋空いたよ」
「じゃぁ、そこを頼む。しばらく滞在したいんだけど構わないか?」
「まあ、金さえ払ってもらえれば良いさ!」
「とりあえず、二週間を素泊まりでたのむ」
「そうすると、………銀貨九枚と銅貨八枚だな。飯はどうするんだ?うちは煮込みには自信があるぞ」
リョウは金貨一枚を渡し、煮込みの話に笑いをこらえながら、
「釣りは取っておいてくれ。食事は食いたい時、その都度頼んでも良いか?」
「おお、ありがとよ! まあ、飯はそれでも良いぜ」
実際、『百貨店』が有るので、いつでもどこでも食べたい物を食べられるので、ここでの食事にこだわる必要が無いのも事実で有る。
今朝出て来た部屋に、また落ち着く事になった。当然の様に、サイコロ魔術具を作動させ、リョウは一言、
「やっぱ、物価が理解できねぇ」
「クスクス……」
「さて、これからこの二週間はギルドからの依頼をこなしつつ、レベル上げとお前の剣の修行だな」
セイは不安そうに、
「ホントに、僕があのバスターソードを使うの?……」
「ああ、お前にはそれが出来ると俺は思っているよ。剛力のスキルでぶん回せそうだからな」
「……なんか、その言い方だと、いい加減⁉」
セイは、適当な事を言われたと思って少しむっとする。
「そうでもないさ。だいぶ前の事だが、お前より小さい女の子の剛力が、明らかに対比がおかしい位巨大なバスターソードで魔物と戦って、楽勝していたからな」
その時の事を思い出しているのかリョウは、遠い目をして窓の外を見る。
それでもセイの不安は拭えず、
「僕も、そんな風になれるかな?」
「なれるんじゃなく、なるんだよ! 俺も全力で出来る限り協力するから」
「………お手柔らかにお願いします」
「おう! 任せておけって!」
「…………(ホント、大丈夫かな?)」
セイの、不安をよそにこれからの予定を立てるリョウである。
「G級になれば、依頼の間隔も一か月に伸びるから、次の街への移動も楽になる。首都のサマリーアートに着くまでの間、修行しながらポイントを稼ぎ、ランクも上げたいな」
セイは本格的な冒険者としての活動は初めてで、イースの時はあくまで、剛力として付いていくための冒険者登録であったので、
「H級の依頼ってどんなの?」
「まぁ…、素材の採取や、低級魔物の盗伐とか、あまりポイントは高くないな」
「二週間で、次のランクに上がる事って出来るの?」
ニヤリと悪い顔でリョウは、
「ん? なに、その辺はチョッコと細工して何とかするさ!」
と言った。
それからの二週間は毎日のように門の外に出て活動した。
素材の採取は、リョウのアイテムボックスに山ほど入っているものを、少しずつこまめに提出しポイントを稼ぎ、低級魔物の盗伐でセイの修行とした。
セイは、元々センスがあるらしく、砂が水を吸収するように、瞬く間に剣の腕を上げて行った。
剣の修行と同時に、基礎体力をつけるべく、現代日本の様なトレーニングも行い、『百貨店』から、トレーニングジムかと突っ込みたくなるような機器を買い込み、筋トレもさせた。
「ハァ…ハァ…、すごいな!お前は。こんな短期間で、ンッ…ハァ…これ程剣の腕を上げるとは。正直嬉しい誤算だよ!」
「ハァ…ハァ………、にい…さんの……教え方が…良いんだよ…………」
お互い、息も絶え絶えになりながら、今は草むらの上に大の字になって寝転んでいる。
暫く、風に吹かれて寝転がっていたが、やおらリョウは上体を起こして、
「これでは俺も、うかうかしてられないな!」
と言った。
優しい風が二人にそよぎ、セイに向かってリョウは聞く。
「明日、ギルドでランクアップのテストを受けるか⁉」
「うん‼」
良い返事が返って来た。
次の日、二人は冒険者ギルドでランクアップのための手続きをして、試験を受けた。
活動ポイントはすでに多すぎる程稼いでいたが、模擬試合での結果は、二人して2ランクアップのF級になった。
模擬試合をした試験官はあきれて、
「なんで、お前たちはH級なんだよ⁉ 明らかにおかしいじゃないか?」
試験管の問い、苦笑いをしながらリョウは説明する。
「まあ、もともとD級だったんだけど、カード失くして最低ランクになったんだ」
「ああ、お前達だったのか。カード失くした奴らってのは?」
それを聞いた試験管は、少し前の出来事に思い至った。
頭をかきながら、リョウは、
「面目ない」
「まあ、今の調子だとまたすぐにD級になるだろよ!」
「ああ、頑張るさ!」
こうしてリョウとセイは、この国境の街を後にし、聖都サマリーアートを目指す事になる。




