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第23話  【マイペースな、爺さんと婆さん】

 今までの『青獅帝せいしてい』の話で、リョウは気になった事があった。


「『青獅帝』様……」


 と、呼びかけた所で、当の『青獅帝』から思わぬクレームが付いた。

「そんな堅苦しい名で呼ぶで無い! ばばで結構じゃ!」


 リョウは、その強い口調にタジタジになりながら言い直す。

「…………そ、それでは、お婆様と呼させてもらいます」

「うむ、それで良いじゃろ」


「先程からのお婆様の話で気になった事がありまして。不躾で申し訳無いのですが、お婆様はどれ程の年月を生きておれるのか教えて頂けますか?」

「ふん! その様な些末な事が気になるのか?……まあ良い、教えてやろう。儂ら『五色帝神』は、創造神様がこの大陸に降り立った時に、創造神様と共にこの地に降り立ったのじゃ。詳しく数えていた訳では無いからはっきりとは言えんがの、まあ、数万年以上はこの大陸を守護しておるな」


「数万年以上前…………」


 この大陸に文明が起こる遥か以前から、『創造神』と『五色帝神』は存在した事になる。

 しかも、その時には既に神としてこの地に降り立ったのであるから、存在している年月は途方も無い物なのだろうと、リョウは思い言葉が続かなかった。



 居住まいを正し、老婆姿の『青獅帝』は話を続ける。



 まあ、我らの年を考えても仕方なかろうよ。

 神はどのようにして生を受けたのか、創造神様でさえ分からぬのじゃからな。


 でじゃ、先程言ったが、創造神様と我ら『五色帝神』はこの地に降り立ったのじゃが、この地は他の世界と違い魔素が驚く程多かったのじゃ。

 それ故、魔物が尋常では無い程おっての、これではさすがに神と言えど落ち着く事など出来んかった。

 そこで創造神様は大陸の中央に高い山を作られ、そこに住まわれる事にしたのじゃ。

 それが、今の『シホワロイト山』だな。


 じゃがな、そのままでは魔物どもが山を登って来てしまう恐れがあったからの、創造神様は山全体を強い神気で覆い、魔物が近付く事が出来ぬようにしたのじゃ。


 じゃが、思わぬ事態も起こってしもうた。

 それは、どうしてそうなったかは創造神様でも分からぬと仰っていたが、創造神様の強い神気と濃い魔素が合わさった事により、山のふもと一帯の生きとし生けるもの全ての色素が抜け落ち、真っ白になってしまったのじゃ。


 それが『白の魔森』始まりと言う事じゃ。


 シホワロイトのお山に近付けば近づく程、白い魔素が強くなっていった。それ故、強い魔物は山のすぐ下に集中するようになってしまったのじゃ。


 おかげで、シホワロイト教の教士達が、お山に辿り着く事が難しくなってしまったわい。



「さて、儂が話せる事はこれ位かの、他に何か聞きたい事はあるかの?」


『青獅帝』は、一通り『五色帝神』と『白の魔森』の成り立ちを話したようだが、リョウには何か奥歯に物が挟まったような話に聞こえた。


 何かをあえて言わないようにしている。そんな感じさえ受けるのだ。

 魔族の事、シホワロイト教の事、『姫巫女』の事、この国の国教としている『シイライシ教』の事。

 そして、何故『五色帝神』が東西南北の地を守護しているのか、等々。


 まだまだ、『青獅帝』が話していない事はたくさん有りそうだ。


 それに、何か聞きたい事があるかと訪ねられたのだ、リョウは遠慮なく尋ねる事にした。

「それではお聞きしますが…………」

 と言い始めた途端、『青獅帝』はあからさまに話をはぐらかして来た。


「オッと、いかん。肝心の事を忘れておった。おぬし達に儂の力を授けなければならぬのであったな。ではここに、儂の側に来い」


(チッ!)

『青獅帝』のその態度にリョウは小さく舌打ちをしたが、ここに来た本来の目的が『青獅帝』から力を貰う事に有ったので、不満はあるが大人しく『青獅帝』の前に膝まづく。


「うむ。素直でよろしい! では、儂の力を授ける」

 と言って、跪いているリョウとセイの額をチョコンと突いた。


 してやったりとした表情で、ニヤリと笑う『青獅帝』。


「終わったぞ。これでおぬしらは『二帝神』の力を持った事になる。次は、『赤』の所に行くが良い。あ奴は研究者肌だからの、リョウおぬしと気が合うじゃろうて」


(えっ⁉ これで終わりなの?)

(……まあ、『黒狼帝』の時もこんなもんだっただろ?)

(そう言われたら、そうかも知れないけど……でも何か、物足りないような?)

(ハァ……)

 あまりのあっけ無さに、念話でぼやくセイと、あきらめの境地のリョウ。



 その時、今まで黙っていた老人姿の『青龍』が言葉を発した。

「おぬしらに、儂の力も与えるから、チョッと儂の頼みを聞いてくれんかのぉ?」


 頼みが有るからと、唐突に力を与えると言われても、「ハイ、分りました」と受けるわけにはいかない。

 これは、絶対受け取ったらいけないやつだと、リョウの本能がそう告げる。


 しかし、時すでに遅かったようだ。

 老人とは思えぬ素早さで、『青龍』は続けざまにリョウとセイの額を小突いた。

 途端に二人の体が青白く光る。


「うむ、これで良しと! では改めて頼みと言うのはのぉ…………」


 と二人の意思をまるで無視したかのように、『青龍』は話始めた。



『青龍』の頼みとは、ここの所、この国を襲っている原因不明の津波の事である。

 原因不明と言ってはいるが、津波が来た時の引き波の時に、沖合に垣間見えた謎の神殿が関係しているのでは無いかと、『青龍』は考えているようだ。


「海底神殿ですか?」

「そうじゃ。神殿と言うしか無いような作りの建物じゃな」

「誰も、それを確認しには行かなかったのですか?」


 その質問には、上座に座って居た皇太子の『瑠海るみ』が答える。

「いや、我らとしても国の兵士や武士、それに冒険者などで構成された調査隊を、数度に亘り派遣した。…………しかし、有る調査隊は全滅し、そして有る調査隊は隊員全員が気がふれて戻って来たなどで、結局、原因は分からずじまいなのだ」


「それを、俺達『ブラット』にやれと仰るんですか? 俺達は、二人だけですよ。そんなに大勢の人間が関わって分からなかった事、たった二人で出来ると思われますか?」


 例え『青龍』に力を貰ったからと言っても、リョウ達は二人だけである。

 無謀にも程がある。


「あっ! いや、そう言う訳では無い。こちらも、また新たに調査隊を組む事になっている。そして、それに参加してもらいたいと言う事だ」

「では、他の方々も『青龍』様のお力を貰ったのですね?」

「いや、『青龍』殿から力を分け与えられたのは、その方二人だけだ」

「ハァ?……。それだと俺達だけが、『青龍』様から力を貰ったと言う意味が分かりませんが?」


 ここで『青龍』が、

「なに、儂の力は強力じゃからの、その者に耐性が無ければ、力を授けた途端に廃人になってしまう。じゃから、『帝神』の力を受け取れる程の、耐性のあるおぬし達に力を授けただけじゃ。まあ、それ故おぬし達が、陣頭に立ってもらう事にはなるがの」

 などど、リョウとセイが脱力するような事を平然と言う。


 ニカッと笑ったそんな『青龍』の笑顔を、小憎らしいと感じるリョウは悪くないだろう。


「はぁ~、分かりました。その話お受けしますよ」

「えっ⁉ 受けちゃうの⁉」

(おそらく、受けなきゃここから返しては貰えないだろうからな……)

 セイの、驚きに念話で理由を答えるリョウだ。


「そうか! 受けてくれるか! では、早速調査隊の人員の選定を始めよ!」

 と、綺羅がそう告げる。


 綺羅のその言い方だと、もうこれは初めから仕組まれていた決定事項を、茶番として演じていただけだと、リョウは心の中でため息をつきながらそう思った。



 しかしこのままではリョウの気が済まない。

 ここで少し『青龍』に反撃を試みる。

「ですが、『青龍』様は水を司る神なのでは無いのですか? なぜ、ご自分で解決しようとはなさらないのですか?」


 前世で龍と言えば水の神である。

 当然ここでもそうだと思ってリョウは聞いたのだが、驚きの返事が『青龍』から帰って来る。


「まあ、おぬしの世界で龍は水の神なのじゃろうけどな。だがここは『ラドランダー』じゃ。儂は、水の神では無く、空とか大気とか空間などを司る神じゃ。現に、おぬしと初めて会ったのも空の上じゃったじゃろ?」


 いや、確かにそう言われてしまえばそうではあるが、リョウ達の世界の龍だって、空想の上ではあるが空を飛ぶのだ。

 だから、こちらの『青龍』が空を飛んでいる事に、リョウには全く違和感が無かったのだ。


結局、溜飲を下げるどころか、返り討ちに有ったような気分になったリョウだった。


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