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第11話  【リョウとセイ】

 再びイエロキーの国境門に来た二人は、門の兵士にまた小芝居を仕掛ける。


 リョウ達は、さも疲れ果てたような足取りで門に入っていく。


 朝、小芝居を仕掛けた門の兵士が2人の姿を見て、朝の赤毛と金髪の2人組だとは全く気が付いていない様子で驚き、

「あんたたち!どうしたんだ、その姿は⁉」

「ああ、少し前にサンドワームに襲われてな」


 この辺りは確かに砂漠地帯ではあるが、サンドワームが出るほど危険な場所ではない。ゆえに、兵士の驚きは大きい。

「何だって‼ サンドワームだって‼」

「まぁ、どうにか撃退は出来たんだけど、荷物を全部失くしてしまってな。その上こんなズタボロになっってしまって……」

 と、自分たちの姿を見せる。


 自分の言葉で、サンドワームの調査隊等が出るとまずいので、確実に仕留めた事にする。

「何で、あそこにあんなもんが出たのか分からんけど、あいつもケガだらけで弱っていたから、撃退できただけだ」

「まぁ…そりゃ~、運が良かったな」


 話題を肝心な事に変える。

「それより、こんな物を拾ったんだけど……」

「……これは、朝方出て行った二人連れのもんじゃないか⁉ どこで拾ったんだ?」

「この先、街道を少し外れた所だ。ちょっと疲れていたんで、休める場所を探して歩いていたら、大きな爆発音が聞こえて、様子を見に行ったら、とんでもない状態の場所に出くわしたんだ」


 痛ましい状態を見てきたような表情を作り、

「荷物らしき物の残骸や、布の切れ端……それと肉片らしきものも有ったよ」

「………そう言えば、あの赤毛の兄ちゃん、顔色悪かったよな」


 リョウは心の内で笑いをかみ殺しながら、迫真の演技で驚きを表し、一方セイは、リョウの斜め後ろで、笑いたいの必死に我慢していた。

「まさかっ!そいつ『魔力過多症』だったのか⁉」

「どうだろな? 医者に行くって言ってたけど…………」


 兵士に、何事もなくて良かったと思わせるように、

「まあでも、そうだとしても、街中で爆発しなくて良かったじゃないか?」

「そう考えれば、良かったのかもな……。ああ、それと、あんたたちに手間かけて悪いんだけど、そのカードは冒険者ギルドに持って行ってもらえるか?」

「ああ、俺達も冒険者カード失くしてしまったんで、再発行してもらわないといけないから、ちょうど良い」

 すんなりと、ギルドに行く口実が出来た。


 兵士は、気を取り直して、

「カードが無いんなら、入国の為の保証金として、1人銀貨五枚払ってくれ。金は持ってるか?」

「ああ、幸い、金は身に着けていたんでな」

 リョウは、金貨1枚を払った。


「じゃあ、これを渡しておく」

 紋章の入った金属の棒を2本渡され、

「何だこれ?」

「まあ、保証書みたいなもんだ。ギルドカードが出来たら、それ持って来い。金を返すから」

「分かった。世話になったな!」

 手を振り、門を離れる。


 ギルドに行く道すがらセイは、

「シャ…」

「ん‼⁉」

 一瞬シャギーと言いそうになり、リョウに注意される。


「……兄さん」

「まだ言いずらいだろうけど、早めに慣れるようにしろ。で、何だ?」

「さっきの、門での出来事、本当に感心しちゃうよ。まるで、本当にあったかのように話すんだもん」

「まあ、嘘も方便って言葉もあるしな。この世界で生きて行く為には、なんだってやってやるさ‼」


 この先何があっても、自分とセイは人生の勝ち組になってやるという、決意をを示したリョウである。



 この、国境の都市サダーナは、イエロキー北部の防衛の要であり、交易の重要地でもある。

 ゆえに、戦力と防衛力には力を入れている。国からの兵、ここの領主の領兵、そして冒険者達。


 冒険者は、荒事専門なようなもので、常に様々な依頼がギルドに持ち込まれる。それらをこなして、経験を付け実力をつけランクアップを目指している。


 サダーナの冒険者ギルドは規模が大きく、この土地を拠点にしている冒険者も数多くいる。

 そんなギルドにボロボロ姿の2人が入って来た。ギルド内に居た人々が2人の姿にざわつく。


 そんな2人に、受付の女の子があわてて声をかけてきた。

「どうされたんですか⁉」

 リョウは、

「ちょっと、ここに来る途中魔物に襲われて、撃退は出来たけどこの有様ですよ」

 と、情けなさげな声を出す。

「大丈夫だったんですか? お怪我はありませんか?」

「まあ、ケガは無く何とかなりましたが、荷物をなくしてしまいました。着ている物もこんな状態になってしまいましたが、幸い金は肌身離さず持っていたので、良かったんですがね」


 そして、申し訳なさげに、

「冒険者カードも荷物の中に入れてあったんで、これも失くしてしまいました。それで、再発行をお願いしたいんですが、良いですか?」

「構いませんが、再発行となるとランクが一番下からになりますが? よろしいですか?」


 再発行となると、ランクを誤魔化す事も出来てしまうので、基本は最低ランクからになる。ゆえに、冒険者はカードをなくさない様に細心の注意を払うのである。


 リョウは肩をすくめて、

「まあ、しょうがないですよ。自業自得ですので」

「では、再発行に伴い、料金は1人金貨1枚です」

 金貨1枚はとても高額なのだが、大陸全土共通の確実な身分証明になるし、色々な優遇ゆうぐうも受けられると思えば、安い物である。


 金貨2枚を払い、次の指示を待つ。

「それでは1人ずつこのプレートに血を付けてください」


 リョウとセイは、ナイフを取り出して指を少し切り、真新しいカードが置かれた金属プレートに血を付ける。金属プレートが淡く光り、新しいカードにそれぞれの名前とランクが表示された。

「リョウ様とセイ様でよろしいですか」

「はい」


 この金属プレートと、冒険者カードも一種の魔術具の様なものらしく、名を告げなくともカードに名前が記載される。

 大丈夫だとは思っていたが、無事に「リョウ」と「セイ」と記載され、リョウはほっと息をついた。


「ではこれで、H級ランクカードの発行の手続きが完了です。ご存じだとは思いますが、H級は2週間の間に最低でも1回は依頼を受けてくださいね。そうしなければ、せっかく再発行したのにまたすぐ失効になってしまいますからね」

「分かりました。色々ありがとうございます」


 次に、リョウは、

「それと、門の所の兵士にも話したんですが…………」

 と、さっき門で話した爆発跡の事を話し、「シャギー」と「イース」の焦げたカードを渡す。

「それは大変でしたね。こちらでも確認の者を向かわせますので、詳しい場所を教えてください」

 と言われ、さっき自分たちが爆発の細工をした場所を教えた。


 一段落ついた所で、着るものを何とかしたいと古着屋を教えてもらい、ついでに宿屋も教えてもらった。


 その宿屋は、今朝出て来た宿だった。


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