第13話 【ここに泊まれって言うんですかーーー⁉】
部羅瑠登と名乗った武士の女性は、まるで前世の、女性だけの某劇団の男役のような佇まいをしており、キリッと凛々しいその姿は、多くのファンや推しが居そうな錯覚さえする。
「我々の急な押しかけにも、快く応じて頂き誠にありがとうございます。非礼とは存じ上げますが、我々と共に役所の方に来て頂けるとありがたいのですが……」
彼女の言葉や態度には、急な来訪を謝罪する真摯な思いがくみ取れた。
どのみち、皇都に行って皇王に謁見を申し込むつもりでいたし、その際に『姫巫女』にも合う事が出来れば儲けものと考えていたリョウなので、この申し出を快く受ける事にした。
「俺は、構いませんよ」
「僕も、大丈夫です」
二人の返事を聞き彼女は美しい笑顔で、リョウとセイにとってとんでもない事を言った。
「それは、誠にありがとうございます。それでは、急で申し訳無いのですが、これから我々と共に役所迄ご同行頂きたいのですがよろしいでしょうか?………ああ、それと、宿は我々の方で迎賓館をご用意致しましたので、こちらの宿は引き払って下さってもよろしいのですが、いかがなさいますか?」
驚愕の申し出に、セイは目を丸くして、
「…………げ、迎賓館⁉」
「あっ、いや、俺達は迎賓館に泊まれるような身分の者じゃないですよ!」
二人は、迎賓館に泊まるなど分不相応だし、第一その様に仰々しい所では…………まったく気が休まらない。
だが、部羅瑠登は気にする素振りなど無く、リョウにとって尤もな事を言う。
「しかし、リョウ殿はブラクロック王国のロザリード辺境伯と伺っております。ですので、他国の上位貴族をお泊めするのに際して、迎賓館は当然の事だと思うのですが?………」
正論である。
確かに辺境伯としてこの国に来たのならばそれでも良いのだが、だが今回、自分は冒険者としてこの国に入国したので、出来れば冒険者として扱ってもらいたと、切実にリョウとセイは思うのであった。
しかし、いずれはイエロキーとブラクロック両国の正式な使者として、皇王に謁見を申し込むのであれば、今ここで自分の身分に伴う待遇を受け入れた方が、後々面倒な謁見の手続きをしなくても良いのではとリョウは考え、
「…………分かりました。それで構いませんので、よろしくお願いします」
「えっ⁉ 本気なの⁉ 迎賓館だよ! 僕たちが泊るなんて気が引けるよ‼」
「まあ、あとでちゃんと説明するから、今は俺に任せておけ」
思いもよらないリョウの答えに、セイはプチパニックを起こしている。リョウはそんなセイを見て、自分がセイの立場なら同じようになるだろうと思うと、苦笑いが漏れた。
そうと決まれば行動は早い。
特に部屋に荷物を置いていた訳では無いので、その場で宿をキャンセルして、部羅瑠登に伴われて宿を出た。
宿の外には、この場に相応しくない立派な馬車が停まっており、部羅瑠登がドアを開け、
「どうぞ、お乗りください」
と乗車を進めてきたが、何せ立派な馬車なので、行き交う人々の野次馬が凄い。
その人々の目が、どんな人間がこの馬車に乗るのかと興味津々なのが、手に取るようにわかる。
そんな野次馬達の好機の目にさらされ、ただの冒険者姿のリョウとセイは居た堪れない思いで、飛び乗るように馬車に乗りこんだ。
「ハァ~。何あれ? 僕達アイドルでもハリウッドスターでもないのに! ホント恥ずかしい!」
「まさか、こんな立派な馬車を用意しているとは思わなかった…………」
と、恥ずかしさに撃沈した。
二人の羞恥に満ちた言葉に、役人の武宇良木は、
「申し訳ございません。お二人をお乗せするのにちょうど良い格の馬車が出払っていて、この馬車しか残って無かったので…………」
本当に申し訳なさげに、そう言った。
役場に行く道すがら、リョウは気が付いた。
(セイ。これは付いているな)
(だね! 絶対付いているよね)
((サスペンション‼))
と、イヤーカフ型の魔術具を使い念話で話をする二人。
この豪華な馬車。
揺れも殆ど無く、音も静かだ。どう考えても、サスペンションが付いていると思われる。
他に考えられるのは、遮音と揺れを無くす機能を付けた魔術具を使った馬車だと思うが、それだと完璧に揺れと音を遮断するはずである。
だがこの馬車は、わずかだが揺れも音もある。なので、二人はこの馬車にサスペンションがついていると思ったのだ。
「この馬車は揺れないですね?」
「はい! この国自慢の機能を付けた馬車です」
「ほう、それはいったいどう言った物なのでしょうか?」
「あぁ…、いえその~、申し訳ございません。わたしは専門家では無いので、そう言った事に詳しく無いのですよ」
リョウの問いかけに、武宇良木は本当に知らないのか、それとも話す事を禁じられているのか、リョウは判別が付かなかった。
豪華な馬車はしばらく走り続けて、ある建物の前で止まった。
これがここ月美勢津の役所なのかと、驚くリョウとセイ。
とても役所と思えない、豪華で立派な建物である。
「到着しました。どうぞお降りください」
「…………これが月美勢津の役所なのですか? ずいぶん立派ですね」
(コクコクコク)
セイも無言でうなずいている。
「あっ‼ 申し訳ございません! 事前にご説明をするのを失念していました。実は『姫巫女』様が、お二人にすぐお会いしたいと申されておりまして、役所に一度行ってからまたこちらに向かうのは二度手間になってしまうので、でしたら直接『姫巫女』様が滞在されている、この迎賓館にお連れした方が宜しいかと考えた次第なのです」
「えっ! 僕達が泊るのも迎賓館ですよねぇ⁉」
と、驚くセイ。
武宇良木は、セイの疑問も些細な事としか思っていないのか、
「はい。左様でございます。実は、『姫巫女』様がおっしゃるには、これからお二人とお話になられる事は大変重要な内容で、時間もかかりそうだという事で、それならば、ここにお泊めした方が良いのでは、と、おっしゃったんです」
『姫巫女』と同じ所に宿泊するのだと聞かされ、『姫巫女』の安全面でそれで良いのかと疑問に思い、
「しかし、どこの馬の骨とも知れ無い冒険者を、同じ建物に泊める事に不安は無いのですか?」
そのリョウの疑問に今度は部羅瑠登が答える。
「あなた方の身元はハッキリしているでは無いですか⁉…………リョウ殿は、ロザリード辺境伯なのですよね? その辺境伯が兄弟とお認めになっているセイ殿も、同じような方だと思いますが、いかがでしょう?」
「…………です…………」
そう言われてしまえば、リョウとしても肯定するしかない。
素行の悪い貴族もまあまあ居る事には居るが、このラドランダーの世界の貴族は概ね自分を律している者が殆どである。
…………ただ、悪い事をする奴らは少なからず目立つのだ。
リョウがロザリード辺境伯と知られているならば、猶更おかしな事は出来ない。
尤も、その様な事をするつもりは更々無いのだが…………。
もうここまで来てしまったのだからと諦め、馬車を降りて迎賓館の豪華なドアをくぐる。
そして、そこは別世界だった。
ロビーは全体的に上質な木がふんだんに使われている。
落ち着いた色合いの磨き上げられた黒檀のような床。
壁は、暗すぎず明るすぎない艶のある木材が使われており、高名な画家が描いたであろう露葡瑠吾の風景画が、品よく飾られている。
この絵画の間を埋める様な感じで、日本で言えば金襴緞子のような生地のタペストリーが、絵画の邪魔をしないように上手く配置されている。
天井には、純度の高い魔石で作られていると思われる、豪華なジャンデリアがいくつか下げられていて、程良い明るさに調節されており、この広いロビー全体を居心地よく照らしていた。
そして、正面にあるサーキュラーステップ階段の踊り場に掲げられている、この露葡瑠吾神皇国の初代皇王と思われる肖像画の前に、和服のような物を身に纏っている、一人の黒髪で黒い瞳の少女が立っていた。




