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第12話  【畳の部屋】

 実都ミツと言う娘に案内された部屋は、扉のついた個室ではあったが、中は案の定、畳の和室になっていた。


 い草の香りがする…………。

 懐かしさに涙が出そうなリョウだった。


 リョウの、前世の自宅の自室は畳の部屋にベッドを置いていたので、この畳の匂いには郷愁を掻き立てられる。

 思えばあの部屋では色々な事があった。


 妹と喧嘩をして、なぜか自分の方が悪い事になってしまい、母親に妹を泣かすなと怒られた小学生時代。

 仲間と集まりゲーム三昧だった中学時代。

 防大に絶対に入ると決め、猛烈に勉強した高校時代。

 幼馴染の麻由美と、初めてキスをしたりもした部屋だった。



「はあ~。畳の匂いなんてホント久しぶりだよ」

 リョウが懐かしさを噛みしめているとも知らずに、セイはそんな事を言った。

「…………そうだな」

「ん? どうかしたの?」


 そのセイの問いかけに何でもないと答え、もう、戻る事の出来ない世界への郷愁を断ち切るように、リョウは目に潤んでいた涙を、セイに気付かれないようにそっと拭った。


「よろしかったら座って下さい。……あっ! 椅子の方が良いですか?」

「いや、床に座るので構わない」

「僕も大丈夫だよ!」


 実都が二人に座布団を勧め、お茶を入れながら話始める。

 二人は座布団に、リョウは胡坐あぐらをかきセイは正座をして座り、座卓に置かれたお茶を飲みながら、彼女の話を聞く。


「さっきの話の続きですが『姫巫女』様と言うのは、この露葡瑠吾ロブルア神皇国にシイライシの神様からの神託を伝える方なのです」


「神託を伝える⁉」

「そんなスキルが有るのか⁉」

 リョウもセイも、神からの神託を聞くなどと言うスキルは聞いた事が無い。

 二人は、かなりスキルやジョブには詳しいと思ってはいるが、正直に言わせてもらうならば、怪しい事この上ないのだ。


 なので、怪しみながらの問いかけになってしまう。

「いや、入国の際に、門の所で兵士から『姫巫女』様の話をする時は十分注意するように言われたんだが…………」

「そんな、秘密があったんだね」

「それを、俺達に言ってしまって大丈夫なのか?」

 リョウは完全には信じる事が出来ないが、彼女にそんな大事な秘密めいた事を、よそ者の自分達に話してしまって良いのかと聞いてみた。


「はい! 大丈夫です。むしろ、ちゃんと『姫巫女』様の話をして理解してもらった方が、後で余計ないざこざにならないと思いますので!」


 成程、一理ある。



 彼女が話す『姫巫女』は、シイライシ神から遣わされた神の使徒なのだそうだ。

『姫巫女』が年を取り『姫巫女』の役割を果たせなくなると、次の『姫巫女』がどこからともなく現れると言われているらしい。

 らしいと言うのも、平民は基本皇族の情報など知る事は無いので、あくまでもどこからか伝わった話を平民同士で伝えているに過ぎないからだ。


 露葡瑠吾の皇族たちはその『姫巫女』の神託を元に、国の政策を決め実行運営していると言われている。


 その他にも『姫巫女』はその不思議な力を持って、薬や治癒の魔法で治らない病気やケガを直してまうらしい。

 だからなのか、この国の民は全員と言って良い程、『姫巫女』に対して崇拝する思いが強く、誰一人として『姫巫女』を悪く言う者は居ない。


 逆に、他国の人間が『姫巫女』を悪く言おうものなら、もうその場で、この国から追放されれもおかしくは無い程の処遇を受けてしまう。

 だから、この国の各境門都市では、入国の際に『姫巫女』の事を伝え、彼女に対しての言動を慎むように厳重に注意されるのだ。


「成程な」

「ねえ、その『姫巫女』様には誰でも会う事が出来るの? それで、誰でも病気やケガを直してもらえるの?」

 実都の話を聞いて、リョウは納得をし、セイは『姫巫女』に興味を持った。


「あ~、いいえ。誰でもがお会いできるわけでは無いんです……」


 それは、もっともな事である。

 誰でも自由に会えるとなれば、有象無象が大挙して押しかけ、『姫巫女』自体が潰れてしまいかねない。

 それに先程からの話で、『姫巫女』は皇族によって管理されているような印象を、リョウは受けていた。


「ですが、全くお会い出来ない事では無くて、ちゃんとした理由があって、それを役所に言って、お許しが出たら、お会いする事が出来ます。…………まあでも、お会いできるにしても時間は掛かりますし、そもそも、お許しもなかなか出ないみたいです」

「それじゃあ、会えないのも同然だな」


「いいえ‼ 『姫巫女』様はそのお力でシイライシの神に祈りを捧げ、私たちに寄り添い、慈しみ、痛みや苦しみを取り除いて下さいます! 決して無慈悲な方では無いんです‼」


 リョウのただの呟きに、実都は過剰とも言える反応を示した。


 リョウは驚きながらも、すぐに謝罪の言葉を口にする。

「ああ、申し訳ない! そんなつもりで会えないのも同然と言った訳じゃ無いんだ。ただ『姫巫女』様に少ない機会でも会う事が出来るのは、幸運なんだろうなと思った迄なんだ。本当にすまなかった」

「あっ、…………ご、ごめんなさい……。ついムキになちゃって。お客さんが、『姫巫女』様を悪く言ったんじゃない事は分かってるんですが、本当にごめんなさい」


 リョウと実都が、お互い謝り合っている所に扉の外から声がかかった。

「あの、お客さん方。もしかして『ブラット』のリョウさんとセイさんでしょうか?」


 部屋の中にいた3人は思わず顔を見合わせ、実都は急いで扉を開け外の者を招き入れる。

「麻嬉さん! どうしたんですか⁉」

「ああ、実都。今、下に役所から『姫巫女』様のお使いと言う人が来てね、『ブラット』のリョウさんとセイさんがここに泊っているなら、急いで役所に連れて来てほしいって言ってるのよ」


 実都と麻嬉と呼ばれた年配の女性は二人して部屋の中のリョウとセイを見た。


 途端に、実都は二人をまなじりを吊り上げ睨みながら、言葉も荒く強く咎めるように言った。

「あんた達は‼ 『姫巫女』様に対して何したのよ‼」


 そばに居た麻嬉が慌てて、

「実都! 違うんだって! 役者の方は、くれぐれも粗相の無いように、丁寧にお連れするように言ってたのよ!」

「えっ?」

「もう! 実都は、慌て者なんだから‼」

「………も、申し訳ありませんでした! ごめんなさい!」

 思わず赤面し、平謝りに謝る実都だった。


呆気に取られていたセイが気を取り直して、

「うん。大丈夫。僕たちは、気にしてないから」

と、実都に声をかけていた。


「と言う訳ですので、お客さんは『ブラット』のリョウさんとセイさんですか?」

「ああ、確かに俺達は『ブラット』だ。…………だが、『姫巫女』様と接点も面識も無いのは確かなんだがな」

「その辺は、うちでは分からないので、役所の人に聞いて下さい」

「そうするしか無いか…………」



 リョウとセイは、せっかく部屋に落ち着いた所ではあったが、麻嬉に連れられて宿の入り口に向かっていた。


 入り口に居たのは、明らかに役所の人間と思われる者と、侍の様に裃を付けた武士が居た。

 その二人はリョウとセイを見て、役所の人間と思われる男が声をかけて来た。

「『ブラット』のリョウさんとセイさんで、間違いないでしょうか? 私は、この月美勢津ゲツビセツの役所に勤める武宇良木ムウラキと言います。もしお許しいただけるなら、確認の為に冒険者カードを見せて頂く事は出来ますか?」


 丁寧で卒の無い態度でカードの提示を求めてきた。

 リョウ達は、特に悪い事をしている訳でも、何かを隠しだてしている訳でも無いので、素直にカードを出す。


 武宇良木と名乗った役人は、受け取ったそのカードをカードリーダーのような物に差し込み、情報を読み取っている。


「はい。確かに『ブラット』のリョウさんとセイさんと確認が取れました。お手数をお掛けして申し訳ありませんでした」

 とカードを返してきたが、今度は侍らしき人物が声をかけて来た。


「お初にお目にかかります。私は、『姫巫女』様の筆頭護衛騎士の部羅瑠登ブラルトと申します。この度は、急なそして非礼な行いをしてしまい、誠に申し訳ない」


 と、謝罪の言葉を言ったのは、時代劇に出て良そうな、いかにも侍的な感じの…………女性だった。


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