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第10話  【月美勢津】

「話は変わるが、あの大群をどうやって壊滅させたんだ?」

「まあ、俺の広域攻撃魔法であらかた殺って、取りこぼしをそこにいた全員で始末しただけですよ」

「いや、始末しただけって…………そうは言ってもな、あれだけの数の蟻どもを魔法で殺れるって…………お前、どんだけ魔力持ってるんだよ⁉」


 ベッケルの指摘にリョウは目を泳がせ、

「へっ? いや、まあ、そこそこ…………」

 しどろもどろになってしまった。


 そんなリョウの様子を見たベッケルは、リョウがその事に触れられたくは無いのだと悟り、ため息一つ付いて話題を変えた。

「はあ~。まあ良い、じゃあ次は素材の話だ」


 ベッケルの問いにバッジが答える。

「そうですね。状態の良い甲殻がかなりの数取れる見込みです」

「かなりの数?」

「はい。リョウさんが雷系の魔法で一瞬で奴らをやっつけたので、傷が殆ど無いんです。だから、良い状態の甲殻がかなりの数取れるって事なんです」

「…………そんなにあっても、捌けんぞ。第一、それを一気に市場しじょうに出してみろ、甲殻の価格が暴落するわ‼」


 そうなのである。あまり多量に物があっても、需要と供給のバランスが悪くなり、経済への悪影響でしか無いのだ。


 そこの所をピュッテル男爵は分かっていなかった。所詮は世間知らずで、お貴族様のボンボンでしかないのだ。


「後は、上位種のソルジャーやナイト、クイーン等が巣に居たようでしたが、状況的に早期に始末しないとヤバい事になりそうだったので、巣を丸々焼き尽くして処分しました」

「そうなんです。上位種が、大量に巣から出てこようとしていたので、止む負えず兄さんが魔法で焼いちゃったんです」

「お~い、セ~イ。その言い方だと俺が悪いみたいじゃねぇか⁉」

「えっ? ああ、言葉の選択が悪かったみたい。ゴメンね!」

「はあ~」


 そんな、今の状況を考えない二人のやり取りを、ベッケルとバッジは呆れ顔で見ていた。


その二人の表情に気が付いたリョウは咳払い一つして、

「うっうん! で、申し訳無いんですが、俺達はアサール国王陛下の依頼でロブルア神皇国に行かなきゃいけないんです。ですので巣の確認の為、誰かあっちに向かわせてもらいたいんですが……」

「何だ、そう言う事は早く言ってくれよ! まずは、陛下の依頼の方が優先されるからな。…………なるほどなぁ~、何で、都合よくS級の『ブラット』が、こんな所に居たのかがそれで分かったわ」

「了解です! 巣の方の確認は俺達が責任を持ってやっておきますので、リョウさん達は心置きなく陛下の依頼をこなして下さい!」


 ベッケルとバッジの二人のそう言ってもらい、リョウとセイはようやくロブルア神皇国に行ける事となった。



「で、今から向かうのか? しかしよ、巡回馬車は今日はもう出ないぞ」

「さすがに、今日はもう行きませんよ。それに、馬車ではなく貸し馬でで行こうかと思ってますんで」

「ああ~。東行きの『四色街道』は荒れ道が多いからなぁ~。馬車だと尻があれか…………」

「まあ、俺もそう聞いたので、馬で行こうかと考えているんです」


『四色街道』ブラクロックからロブルアに向かう道は、森林地帯や山岳地帯のような様子の道が多く、一応整備はされているのだが起伏が激しく、馬車で行くとなるとかなり体に負担がかかるのである。


 この世界の馬車にサスペンションなどと言う物は付いていないが、二人は、前世の知識やセイの『検索』で調べて迄、快適な乗り心地の馬車を作る気などさらさら無い。

 二人には『百貨店』で、前世の様々な乗り物を手に入れる事が出来るので、リョウ曰「面倒くせぇ!」である。


 二人は取り合えずギルマスベッケルお勧めの宿に行き、一泊の宿代を払い部屋に落ち着いた。


 いつもの様に、サイコロ消音魔術具を起動させ、

「兄さん、ロブルアに行くのに馬で行くの? 車じゃダメ?」

「まあ、俺も初めはそうしようかと思っていたんだが、調べた所、ブラクロックからロブルア迄の道は結構大変らしい」

「ああなんか、僕も聞いたことある、山道みたいなんだよね?」

「そうみたいだな。となると、例えオフロードカーでも、尻どころか体にも相当負担がかかるだろうな。それに、あっち方面だが、夜になると熊とか猪とかの魔物が多く出るらしい。夜中、車を走らせている所に体当たりでもされてみろ、一発で車がお釈迦になるぞ」


 かなりな悪路の上、魔物も襲って来る。そんな状況は出来るだけ避けたい。


「あ~、それはヤダね~。じゃあ、ラドランダー的に、昼間馬で移動して、夜は宿って事だね」

「一応な。…………宿は取るけど、夜は基本、転移で家に戻るだろう?」

「…………なんか、宿代が勿体ないね」

「まあ、何事も体裁は整えておくに越した事は無いさ。それに、乗っている馬を宿に預かってもらいたいしな」


 泊りもしない宿の宿代は惜しい気もするが、馬を転移で移動させる事はしたく無い。必然的に宿に預ける事になる。結局宿代は、馬の預け賃のようなのものと考えればいいのだろう。


「今日も、これから家に戻るんでしょ?」

「ん~、どうすっかな~」

 セイの問いかけに、ためらいを見せるリョウ。


「帰らないの?」

「グリーンメタルアントの事で、ギルドから急に呼び出しがかかるかもしれないからな。…………まあ、俺が残るからお前は家に帰っても良いぞ」

「えっ⁉ いいって! 僕も今晩ここに泊まるって!」

「そうか? じゃあ、明日朝一でここを立つ事にするか?」

「ん! そうしよう!」


 あれだけの事があった後だ、急な呼び出しがあってもおかしくは無い。

 ギルドの人間が二人を訪ねて来た時に、部屋がもぬけの殻だった場合、困った事になりそうだ。


 ここは、ブラクロック王国、東の国境門都市ガドシュ。

 どのみち、国を東に出るにはここからになるので、どこで寝起きしようが結局はここに来る必要がある。

 ならば、ここで泊っても何ら不都合は無いのだ。


「じゃあ、明日、朝一でな」

「ん。お休みなさい」

「ああ、お休み」


 こうして予定に無かった、とんでもない一日が終わったのだった。



 次の日リョウとセイは貸し馬を借りて、朝一番にガドシュを旅立って行った。



 ブラクロック王国からロブルア神皇国までは、それこそ車で行けるのであれば、天候にもよるが8日~10日位で着くが、悪路をしかも乗り慣れない馬での移動だったので、倍の20日以上も掛かってしまった。


 ロブルア神皇国、北部の国境門都市ゲツビセツに着いた時、二人はもう当分は馬に乗らないと固く心に決めていた。

 そう決意させるほど、今回の旅は過酷なものになったようだ。


 確かに、毎晩家に帰ってベッドで眠ることは出来たが、日中の悪路や、度重なる盗賊や魔物の襲撃に神経を使いまくったので、正直言って心身ともにヘトヘトになっていた。

 唯一の移動手段の馬も守らなければならない。馬に何かあれば、この悪路を自分の足で移動しなければなならくなるので、そこにも神経を使った結果だった。


「はあ~。やっと着いたな」

「そだね…………」


 その一言に、二人の万感の思いが込められていた。



 ロブルア神皇国の国境門で、入国審査をする列に並でいた時に、セイが門を指さし、

「兄さん! あれ見てよ!」

「ん?」

「ほら、あれ! 漢字が書いてある‼」

「はっ?」


 巨大な国境門の上に、額装してある文字が見える。

 そこには『月美勢津ゲツビセツ』と漢字で書かれてあった。


 額装自体がかなり古びていたので、ハッキリとは見て取れないが、間違いなく『月美勢津』と書かれているのは分かった。

 しかも、字体は完全に日本の物で、中国や台湾の字体ではない。


「何だ⁉ どう言う事だ?」

「これって、もしかして僕達みたいな転生者がいたって事かな?」

「…………ああ、そう言えば、マミーナリサ女王が言ってたな。このロブルア神皇国には姫巫女が居て、その巫女は代々日本からの転移者だって」

「ええ⁉ 転生じゃなくって、転移」

「そう言ってたな」

「何それ。って! まるで異世界物の勇者召喚みたいじゃない‼」

「どうなんだろな? 俺も詳しく聞いた訳じゃ無いから、何とも言えないが。…………どっちにしても、俺達は皇王に謁見する事になっているから、その時何かわかるんじゃないか?」


 衝撃の事態に戸惑うリョウとセイであった。


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