第8話 【蟻の巣 コ■リ】
崖を飛び降りた二人は、まだ生きてい蠢いている、グリーンメタルアントに止めを刺していく。
蟻の姿形をしているので、動かないのであれば、首の部分と胴体の部分を切り離せば、すぐに止めを刺す事が出来る。
次々にグリーンメタルアントの頭と胴を切り離していくリョウとセイだったが、セイが突然切羽詰まった声を上げた。
「兄さん! あれ見てよ‼」
セイの指さす方は、さっき鉄板で穴に蓋をした所だ。
その塞いだ鉄板の中央部分が溶けかかっている。
「まずいな。奴ら鉄板を酸で溶かしてやがる!」
リョウはザッと辺りを見回して、
「こっちは粗方片が付いたようだから、急いであっちの巣の方に取り掛かるぞ!」
「分かった! でも、兄さんは先に行っててよ、僕はもう少しこっちの数を減らしてから行くから!」
「おう! 頼む!」
鉄板でふさいだ巣穴の前に来たリョウだっだが、どんな魔法でグリーンメタルアントを退治するか決めかねていた。
まず、空気を抜いて窒息させるのは無理だろう。これだけの大規模な巣であれば、各所に換気の為の空気穴が作られている可能性がある。
次に水攻め。これも、換気の為の穴から水が噴き出しそうである。
そして、奴らを凍らせる魔法。しかし、ここは北方の国、氷に耐性を持つ奴がいる可能性がある。特に、女王蟻や、ソルジャー、ナイトなど働きアリから進化したものは、氷の耐性がある奴が居てもおかしくない。
最後に、火属性の魔法だ。すべてを焼き払い焼き尽くす、これが一番適しているとは思うが、上位種に進化したアントの素材までもが灰になってしまう。正直、勿体ない。
別に、金の為に素材を惜しんでいる訳では無く、これだけの規模の魔物の襲撃だ、かなりの被害が出ているはず。それ故、少しでも討伐資金の足しになるならと思い、素材を回収したいとリョウは考えているのだ。
(さて、となると、やはり氷攻めか…………この規模の巣を丸ごと凍らせるには、かなりの規模の魔法が必要になるな。さて、どうする?)
穴の開きかけた鉄板の前で考え込んでいたリョウだったが、目の前の穴が完全に空いてしまった。
そこに一匹のアントが顔を出す。
そのアントを見てリョウは顔をひきつらせた。
「まずいっ! こいつはグリーンメタルアントのナイトだ‼」
最初に出て来たのがナイトであるならば、巣穴に残っているアントは殆どが上位種だろう。
こうなてしまっては、どの魔法を使うかなど悠長に考えている時間は無い。一番威力があり、広範囲に効果がある炎の魔法に即決した。
リョウは覚悟を決め、顔を覗かせているソルジャーアントを愛用の剣で一閃の元に切り伏せ、杖を鉄板の空いた穴に突っ込み短い詠唱をする。
「……………………【業火強炎砲】ーーーー‼」
巣穴に突っ込んでいる杖の先に赤い魔法陣が現れ、その魔法陣から砲弾が飛んで行くような勢いで、業火がグリーンメタルアントの巣の中を駆け巡る。
あちこちに作られていた、換気の為の穴から炎が噴き出している。
その様は正に、溶鉱炉から吹きあがる炎のようであった。
そこにセイが駆けつけ、
「…………凄いね……」
魔法の威力が自分が思っていた以上になり、驚いて唖然とした表情になっていたリョウに話かけた。
「いや、こんなに燃えるとは思ってなかった…………恐らく空気が乾燥しているんだろうな。それと、何か燃えやすい物が、巣の中に有ったんだろう。じゃなきゃ、いくら何でもこれ程勢いよく燃えるとは思えないからな」
《 空気が乾燥している時、火には十分気を付けよう!》
巣の中を確認しようにも、火の勢いが衰えない。
「水でも流してみる?」
「ん~、それをやって、まだ息があるグリーンメタルアントが居たら厄介だよな」
「でも、これじゃぁ、いつ火が消えるか分からないじゃん」
「そうなんだよな~…………ん~、だったら、お前なら、どうする?」
「えっ! 僕⁉」
「そう。お前ならどうする?」
リョウは、妙案が浮かばず、思わずセイに丸投げしてしまった。
一方、丸投げされたセイも、これと言った考えは無い。
「どうしようか?」
セイが考え込んでいる姿が変だ。
両手の人差し指を頭に当てて考え込んでいるのだが、その姿はまるで〇休さんのようで、ポクポクポクと音が聞えて来そうだ。
リョウは、口に手を当てて笑いたいのを必死に堪えていたが、セイは良案が浮かんだのか、まるでチーンと音がしそうな勢いで突然目を開いてリョウを見た。
「兄さん!」
リョウは、セイに急に呼びかけられたが、笑いたいのを必死に堪えていたので、返事がおかしくなってしまった。
「お、…おおう⁉」
「ここはこのままにしておいて、城壁に行こう!」
「はっ? いや、どうしてだ⁉」
「この火の勢いなら、たとえ生き残ったアントが居ても少数だと思う。上位種でもそんなに居ないんじゃないかな。だから、たとえ生き残っていたとしても、後でどうとでも出来るよ。だったらもうここはこのままにして、城壁の応援に行った方がはるかに良いと思ったんだ」
成程、セイの考えは一理ある。
「そう言うふうに考えれば、それもそうだな! まあ、城壁が片付いてからここに戻って来て、中を確かめても良いか⁉」
「そうだよ‼」
城壁に引き返すにあたって、このままグリーンメタルアントを後ろから始末しながら城壁に向かうか、それとも転移で一気に城壁に戻り、そこでグリーンメタルアントと戦っている者達と合流するか。
「さて、どうするか?」
「じゃあ、二手に分かれるってのは、どう?」
「ん?」
「兄さんは城壁に戻って、城壁から魔法でアリの数を減らす。僕は、後ろからアリを追い立てながら魔術具を使って数を減らす! どう⁉」
良い考えではあるが、セイにとってリスクが大きいような気がする。
「良いと思うが、お前が大変そうだ」
「ん? 大丈夫だよ。僕は、例のオフロードバイクに乗って行くから。…………それに、今まで錬金術で作った魔術具を試してみたいんだ」
セイは何か、物凄~く悪い笑顔をしている。
「そ、そうか、分かった。じゃあ俺は城壁の方へ行くから。…………あまり、無理な事はするなよ⁉」
常々、家の離れで錬金術を爆発させているセイは、貯まりに貯まった魔道具をここで一気にグリーンメタルアントに使って、実験し効果を確かめる気でいるみたいだ。
何か、グリーンメタルアントが妙に気に毒に思う、リョウである。
一方、城壁で巣穴の方が気になっていたイアーデルとバッジは、転移て戻って来たリョウを見つけ、
「あっ! リョウ殿、巣穴の方はどうなりましたか⁉」
「ああ、巣穴の中に居た奴も、周りに居た蟻共も殆ど始末する事が出来た。ただ、数が数なだけに始末し損ねた奴も多少はいる。申し訳ない」
リョウとセイ二人の攻撃を逃れたグリーンメタルアントを、こちらに向かわせてしまった事を詫びるリョウだったが、
「いや、グリーンメタルアントが多少増えたとしても、これ以上巣穴から出てくる心配をしなくて良くなったので、我らとしては大助かりですよ」
「ホントだぜ! これ以上増えたらどうしようも無くなるとこだったからな!」
「そう言って貰えるなら、良かったよ」
二人にそう言って貰えたので、巣穴を潰して来た甲斐があったと言うものだ。
次は、この城壁を取り囲むグリーンメタルアントの始末にかかる。
「で、今の状況はどうなっているんだ?」
「騎士と兵士、それに冒険者が城門から出て、個別に蟻共を始末しています。残念ながら、広域の攻撃魔法を使えるC級以上の者がここにはいないので、どうしても一匹ずつ倒していくと言う事になっています」
「そうか…………。じゃあ俺は広域攻撃魔法で、少しでも多くのグリーンメタルアントを減らすとするか!」
「「お願いします」」
イアーデルが辺りを見回して、
「ところでセイ殿の姿が見えませんが、いかがされたのですか?」
「ああ、あいつは巣穴の方からこっちに向かって、グリーンメタルアントを追い立てながら始末しているよ」
「えっ⁉ お一人でですか?」
「まあ~、あいつは自分が錬金術で作った、新作の魔道具をグリーンメタルアントで試したいんだとさ」
リョウはあさっての方を見ながら、ワシワシと頭を掻き、そうに二人に告げた。
「…………そ、そうですか…………」
イアーデルはリョウのその言動を見て、何か不穏な物を感じ取り、何とも言えない表情になった。




