表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/146

第7話  【蟻地獄】

 茫然自失となって座り込んでいるピュッテル男爵から、どうにか事のあらましを聞いたシャギーは、呆れてものも言えない感じで彼を見下ろし、


「…………じゃあ、何か? あんたの自分勝手な思惑の為に、俺達を使おうって事だったのか⁉」

「……………………はい……」

 消え入りそうな小声で返事をするピュッテル男爵だったが、

「ロザリード卿! どうか今回の件を、国王陛下に伝える事だけはしないで頂きたい。どうか、お願いいたします‼」

 急に立ち上がり、シャギーに掴みかからんばかりに迫って来た。


 そんな彼自身の保身優先の態度に、カチンときたシャギーは言葉も荒く言い放つ。

「あんたは、自分の保身ばかり考えているようだがな、あんたのその無責任な一言で、多くの人命が失われるとこだったんだぞ‼ そこを分かってんのか⁉」


 しかし彼は、シャギーが言っている事が心底分からないと言うような顔をして、とんでもない事をサラッと口にした。

「えぇ~と、それが無いか不都合がありますでしょうか? 騎士に兵士、それに冒険者などいくらでも変えが有りますよね。そんな者達の命などに気を使うなどと、ロザリード卿はおかしなことをおっしゃるのですね?」


 王族や貴族は二種類に別れる。

 税を納めてくれる民が働きやすく、尚且つ暮らしやすくする為に、自分達が居るのだと考える貴族。

 片や、自分たちの生活を支える為だけに、民が存在していると思う貴族。

 ピュッテル男爵は完全に後者だ。


 前世では人を守る為の職業を選択していたシャギーは、その様に考える者が居る事さえ許し難い。


「チッ! 今回の事はキッチリ国王陛下に報告するからな! ああそれと、これからグリーンメタルアントの掃討を始める。…………お前が居ても邪魔なだけだ、とっととここから失せろ‼」


 シャギーは、顔を見るのも嫌になって来たピュッテル男爵に対し、凄味を込めて舌打ちをしてここから追い払った。ここに居られて、また何か良からぬ事でも起こされてはたまらない。

 早々に退場させるに限る。


「……………………」

 ピュッテル男爵は青い顔をしてシャギーを見て、何かもの言いたげではあったが、これ以上ロザリード卿の不興を買う訳にはいかないと判断したのか、大人しく城壁を降りて行った。



(これでグリーンメタルアントの、甲殻の傷を心配する事は無くなったからな、思いっきりやれるぜ!…………おっと、セイにこの事を知らせなきゃいけない。あいつの負担を少しでも減らさないと!)


 今回ロブルアに行くにあたって、セイは新たな魔術具アイテムを錬金術で作り上げていた。

 一見ただのイヤリング……どちらかと言えばイヤーカフのような形状をしていて、念話で話が出来る魔術具だ。

 以前行ったアレッドカで、リョウが誘拐された事があったので、その様な突発的な出来事に対し、離れていてもすぐに対処できるように、セイが考えて作り出した物だ。しかも、自分の魔力で無ければ取り外しが出来ない仕様になっている。

 あまり距離が離れ過ぎていると念話が届かないが、今日位の距離であるならば、問題無く使う事が出来る。

 しかし、もっと離れていても念話が出来る様にするのは、セイの今後の課題だ。


 シャギーはイヤーカフに魔力を通して、セイに事のあらましを念話で告げる。

(…………と言う訳だったんだ)

(何それ! ずいぶんな事してくれるじゃない‼)

(だよな~。まあでも、奴をここから叩き出したから、これでグリーンメタルアントの駆除に、心置きなく取り掛かる事が出来るぜ!)

(やったね!)

(所で、話は変わるが、奴等の巣は見つかったか?)

(うん、まあ、見つけたよ…………でもさ)

(何だ?)

(規模がかなり大きそうなんだよね。僕が錬金術で作ったアイテムを使ったとしても、巣の中の蟻を全滅させるのは無理だと思う)

(……そうか…………。じゃあ、こっちはここに居るこいつ等に任せて、俺もそっちに向かう事にするよ)

(うん! 兄さんが来てくれるなら助かる。じゃあなるべく早く来てね‼ 待ってるから)


 シャギーは、イヤーカフに通していた魔力を解き念話を終了させ、今度は指輪に魔力を通しリョウに戻った。


 騎士のイアーデルと冒険者のバッジの元に戻り、さっきセイに念話で話したのと同ように、ピュッテル男爵の所業を暴露した。

「はあ? 何ですかそれは! 貴族てしてあるまじき行為ですよね⁉ 同じ貴族として恥ずかしいですよ! 全く‼」

「って言うか、もうそれは人としてどうなんだ! 良い大人が何やってんだよ‼」


 二人ともご立腹である。

 それは当然だ。自分たちの命を使い捨ての、物のように扱っていると同じ事だからだ。


「まあ、俺はアサール国王陛下と、昵懇こんいにさせて頂いているから、この事はキッチリ報告しておくよ」

「「よろしくお願いします!」」

 二人は、良い笑顔でリョウに頭を下げた。


「で、こう言う訳だから、もう甲殻の傷なんて気にせずに、この蟻たちをやっちゃって良いぞ!」

「やっちゃって良い?……リョウ殿は討伐に加わらないのですか?」

「ああ、すまんが、セイがこいつらの巣穴を発見したんだ。そっちを潰さない限り、こっちをいくらやっても後から後から追加で蟻どもが来るからな。あっちを先に叩きに行く‼ それが終わったら戻って来るから、それまで城壁を頼むわ」

「分かりました。こちらの事は私達で頑張りますので、巣穴の方をよろしくお願いします」


 アントのたぐいは主に強靭な顎による噛みつきと、熔解酸を飛ばす攻撃をして来るが、グリーンメタルアントは魔物のランクが低いので、噛みつきも酸もそれ程の威力は無い。なので、ここに居る者達で十分対処は出来る。

 ただ、数が異常に多いのが、不安な事ではあるが…………。

 しかし、リョウが巣の方が終わり次第戻って来ると言っていたので、それまで持ち堪えれば、どうにかなるだろうとイアーデルとバッジは考えているようだった。


 セイに所に向かうにも、耳に付けたイヤーカフが役に立つ。

 事前にイヤーカフの使用を試した時、セイの魔力を頼りに、その場所に転移する事が出来るのが分かったのだ。


 リョウは、イヤーカフに魔力を通し、セイの魔力を頼りにその場に転移で現れた。

「待ったか?」

「全然。それよりあれを見てよ」

 とセイが指さす先には、グリーンメタルアントが、ワラワラと這い出して来る巣穴があった。


「うわっ! な、何だありゃ! 酷でぇな‼」


 リョウが驚くのも無理はない。

 巣穴と思しき場所からグリーンメタルアントが、押し合いへし合いのような状態で出てきている。

 まるで、ダンジョンのスタンピードのような光景だった。


「…………ハァ~。まずは、あいつらが出て来るのを止めないと、無限に蟻が出てきそうだ」

「これがホントの蟻地獄?」

「…………ふざけてるのか⁉」

「少し、気を緩めないと、現実が酷すぎてやってなれないよ~!」

「まあ、分からないでは無いが……」


 二人ともども、現実逃避したくなるような惨状である。


「で、どうするの?」

「穴を塞ぐにはやはり蓋をするのが一番だろうな」

「蓋をするって言ったって、どうするのさ。あんなに蟻が居るのに!」

「まあ見てろ」


 グリーンメタルアントアントの巣穴は、丁度切り立った崖の下に有り、二人はその崖の上から巣穴を覗き見ている。

 リョウは、アイテムボックスから愛用の杖を取り出し構えて目を閉じた。杖の前方に魔法陣が浮かび上がり、リョウは静かに一言【鉄板】と言った。

 すると、本当に鉄板状の巨大な物が、グリーンメタルアントの巣穴を覆いかぶさるように、もの凄い音を立てて塞いだ。


「はあ~。すごいね~」

「そうでもないさ。……これが土の板だったら、あいつらに嚙み砕かれてしまうかもしれ無いが、取り合えず鉄にしたんで、あいつらもそう易々と穴を開けられまい。今のうちにここらに居る蟻を始末るぞ‼」

「オッケー!」

 リョウは、今すぐにでも崖から飛び降りそうな、セイの襟首をつかみ引き戻し、

「ちょっと待て! 先に魔法で数を減らす!」


 と言って再び杖を構え【痺雷走破】と言葉を発して魔法を発動した。


 グリーンメタルアントが居る場所に、まるで空を駆け巡る稲妻がバリバリと音を立て、地面を駆け巡っているような光景になった。


 数えきれないグリーンメタルアントが一瞬で動かなくなり、ひっくり返っている。


「セイ! ほとんどが死んでいると思うが、まだ生きている奴もいる。止めを刺しに行くぞ」

「分かった‼」


 と、二人同時に崖を飛び降り、ひっくり返って動かなくなっているグリーンメタルアントに向かって駆けて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ