8話
甲冑の男は「表に出ろ」と、そう一言言い残して普通に我が家の玄関から出て行こうとする。割られた窓ガラスの補修とか色々あるのでどうすんだよと呼び止めようとした所、なんと我が家の玄関扉が狭間のあの門(縮小版)みたいになっていた。私が唖然としていると甲冑の男は「そのぐらい説明しとけよ」と呆れたようにマーリンに振る。毎度のことながらマーリンは説明してくれた。曰く王選での公式な戦いは騒ぎを起こしたり一般人に危害を加えぬように狭間の中でやるのが基本なので王権を手に入れたら狭間の門も開けるようになるんだとか。甲冑の男は門を開き狭間へ潜り込む。それに私も後を追う。
門をくぐるとそこはローマのコロッセオを彷彿とさせる大きな闘技場の中だった。観客は誰一人として居ない。闘技場の向かいを見ると先に門をくぐった甲冑の男が居た。奴は手に持っていた剣を投げるとボクサーのような殴り合いの構えを取った。圧倒的にナメられている。ならば本気で一撃でも有効打を当てようと、試練の時の感覚を思い出す。もう一人の自分を強くイメージして歩くと自分のいた場所にはもう1人の自分がいた。やった!出来たぞ!などと少し喜んでいると向かいに見える甲冑の男は呆れたようにこちらを見る。もう一人の自分の方ではなくこちらを見ているのだ。不味いぞこれ、などと気づいた時にはもう遅い。
甲冑の男はこちらが瞬きをする間に距離を縮め、その拳は私の脇腹をいともたやすく吹き飛ばした。
転がる自分の腹部を刹那押さえつけたのはほのかに冷たい鉄靴の感触だった。甲冑の男は目の前に転がる男をもはや人間とも思ってないかのように軽く蹴り飛ばす。格の違いというのは分からされて初めて知るものらしい。悔いはないが流石にここまでボロッカスに負けるともはや笑えてくるまであるが負けは負けだ。携帯の電源を落とすように私の意識は落ちる。