7話
「お前が巻き込まれたっつー一般人か」
甲冑の男はそう言うと窓ガラスを蹴破った体勢から立て直り腰にぶら下げた立派な剣をこちらに向ける。
こちらも下手な発言は出来ないなと黙りこくっていると甲冑の男は続けて話す。かなりの時間話していたが要約すると「一族のボスがお前の存在を認知して王選の仲間入りさせようとしてたから参加の意思を確認しにきたぜ」との事だった。参加するとか下手に言ったら私が次に見るのは自分のヘソになるだろうから口をつぐんで良かった。マーリンは恐らく何かを知っているので自分の体から彼女を引き剥がしながら説明を要求する。マーリンは半泣きで解説をする。
「本来ある血族のみが狭間に行って王権を手に入れられる、というのは前に言った通り。だから君みたいにまったくの部外者が狭間に流れ着いて挙句王権まで手に入れて帰ってくるなんてのはイレギュラー中のイレギュラー。そこでそんな君の悪運を認めてこいつらの血族の長は君には王選に参加してほしいのさ」
とのこと。本気で殺しに来てる装備をしてるのは王選参加者にとって新たな参加者は邪魔だから、というのは言うまでもないだろう。それから彼女の甲冑の男に心当たりがありそうな泣き方についても問い詰めると彼女は言い訳を織り交ぜながらも訳を話してくれた。誤魔化された部分は甲冑の男が補足を入れてくれた。
なんでも彼女は狭間生まれ狭間育ちの精神生命体に近いものだそうで本来狭間に行くことの出来る唯一の血族(以降王の血族とする)とは一族単位で密接な関わりがあるそう。彼女らは自分が試練のサポートを担当したものが無事に試練をクリアして王権を手に入れるとようやく受肉してこちらの世界へ来て自分の受け持った人間のお付きになる、との事だ。彼女の場合は受け持った人間が特例中の特例だったもので家族(?)からはかなりの反対を貰ったが全部押しのけて受肉してここに来たんだそう。甲冑の男は彼女を呼び戻してくるなんてミッションも授かったそうだ可哀想に。ここまでに出た情報を考慮すると、私が王選に参加する意思を示すとこの場で首と体が泣き別れ、最後に見るのは甲冑男の逆さ像。参加しない意思を示せば生き残れはするがマーリンは狭間に強制送還。どちらがより損をしないかと問われれば後者になるのは自明の理である。だが私はもう会社をクビになっている。先なんてどこにもありやしないのだ。だったら最後の足掻き、精一杯非日常を楽しませてもらうとしようじゃないか。長話もここらで終わり、立ち上がって反撃の体勢を整えよう。
「参加するのか?」
甲冑の男は再び剣を握る。
「もちろんだ」