6話
ちゃんと居る人間、ちゃんと動いてる車。脇腹を消し飛ばされ屈強な人間の形をした化け物に一撃殴りを入れ、そうしてようやく帰ってきた自分の本来居るべき場所は色鮮やかに輝いていた。何よりもう命懸けで戦わなくても良いのが精神安定に一役かっている。ひとまずお気に入りのゲームにログインしようとスマホを取り出すと夥しい量の通知がまず目に入った。ちなみに全て職場からだった。日付を確認すると狭間に遭難した日から5日も経っている。5日間の無断欠勤はかなり重いが自分も社会人なので取るべき責任を取ろう。
そう思った矢先タイミングよく職場からの電話がかかってきた。それは解雇通知だった。狭間なんてものを維持する原因になった血族を死ぬまで恨もうか。とはいえかなりブラックだったし辞めどきではあったのだろうか。そうして俯きながら家に帰ると何故か鍵が開いている。恐る恐る身構えながらドアを開けるとそこには何やら見覚えのある顔が居るではないか。
「改めて自己紹介をしよう。僕はマーリン、君のお姫様だ」
もう何も考えたくない。命懸けで戻ってきたがもう死にたい。そうして泡を吹いて倒れた私の元に彼女は全速力でヘッドスライディングをかまし思いっきり頭を打っていた。即座に正気に戻って言葉の意味を問いただす。
彼女曰く、あの試練を越え、王権を手に入れて帰ってきた者は基本的にその場で血族の王候補となるらしく、王候補となればその王をもし王になった後も補佐する人が必要で、その役割にはその王の狭間の案内人を務めた者があたるんだとか。言い方が紛らわしすぎる上にこんな奴と死ぬまで一緒とか流石に嫌である。
「王候補にはなったけどどうせ君狙われないしゆる〜く行こうぜ!」などとせんべいを貪りながらほざきよる。そんな彼女を横目に見ながら求人サイトを覗いていると突如彼女がガバっと立ち上がる。
「敵だ!」
彼女が自分に覆い被さる。刹那、窓ガラスを蹴破りさっきまでマーリンの居た場所に飛び込んできたのは何やら中世ヨーロッパの騎士のような格好をした人間らしき何かだった。