3話
2人の間には重い沈黙が流れた。なにせ昨日までは普通に会社に通って普通に暮らしていた一般人が死地へ送り出されるというのだから、送り出すというのだから。沈黙を破ったのは2度目の爆発音のような何かであった。1回目よりも確実に近い、というか爆心地(?)はもう目の前に見えている。
「…準備は出来た?」
彼女は立ち止まるととても申し訳なさそうにそう言った。恐らく彼女はこの試練について教える以外にサポートをする事は出来ないのだろう。
「……どうにか」
そう返すと少しばかり止めた脚をまた動かし始めた。
爆心地にはある程度近づいた時点で見えていたが実体があるのかないのか分からない半透明の黒い球が浮いている。かなりの大きさではあるがきっとこれに触れると全て始まるのだろう。手が震えているのは武者震いとか勇ましいものでは断じて無くこうして現状をどうにか整理する事すら危ぶまれるほど頭は恐怖に支配されている。それでもこの戦いに勝たねばここで野垂れ死ぬ以外に出来ることはない。これ以外に選択肢なんて存在しちゃいないのだ。まったくなんて理不尽な世の中であろうかと。そう呪っても仕方がないのでそろそろ覚悟を決めよう。
震える手を抑えて黒い球に触れると球の中から何かが出てくる。まるで卵から鳥が生まれてくるように球を内側から砕いて中から出てくるのは体格を除いて普通の人間の姿をした何かだった。体高はおよそ3m弱はあるだろうか、それに加えて何より筋肉がものすごい。もはや皮膚が張り裂けそうになっているほどパンパンに詰まっている。ボディビルの大会に行ってもこんなに詰まった筋肉の持ち主は居なかった。何やら話が通じそうな気もするがそんな考えは数秒後に悉く吹き飛ばされた。球の爆発(?)によって周囲に積み重なっていた瓦礫を奴は一息で全てのけてみせた。読んで字の如く文字通り一息でのけたのだ。かけら一つでさえ持てるか怪しいサイズの瓦礫も、もはやこれ柱だろって瓦礫も全て一息にのけて爆心地周辺を見事な闘技場に仕立て上げた。闘技場が仕上がる頃にはもう自分には奴がこの世の何とも例えられないおぞましい怪物にしか見えていなかった