2章 ニコルとプラチナ生
ニコル・メレディスは「白薔薇様」と呼ばれる、ミンチン学院の王子様のような存在です。常にクールなニコルは学院の女の子から人気が高いですが、彼女たちの中の誰とも恋人になったことがありませんでした。
普通ならニコルは新しくプラチナ生が入学しても何とも思いません。しかし、今度入ってくる編入生は他の生徒がうらやむほどのお金持ちである双子の姉妹だということで気になって確認した結果、8年ぶりに再会した幼なじみのセーラとローラだったのです。
ニコルがプラチナ寮にある談話室に入ると、そこには7人の他の生徒が集まっていました。彼らはセーラとローラについて話していました。
「あ、ニコルが戻ってきたよ。」
制服をゴスロリ風に改造した淡い金髪の女の子が扉の開いた音に気付いて、他の生徒たちに声をかけました。
「教えてくれてありがとう、ルー。ところでニコル、例の編入生はどうだったんだい?」
亜麻色の髪のハンサムなクラウス・ワイアットがニコルに近づいて、おどけた様子でたずねました。クラウスは15歳である医者の息子で、かっこいいので学院の女の子たちから人気が高いです。「ルー」と呼ばれた女の子は13歳のガートルード・ソロモンで、有名な作家の娘です。ガートルードは小柄でかわいらしいですが思ったことは何でもはっきり言う毒舌家でもあります。
「あまり人の詮索をするなよ。夜遅くまで彼女たちについて話して朝起きられなくなっても知らないぞ。…俺は部屋に戻る。」
ニコルはため息をつくと、談話室から出ました。ニコルが去った後、7人のプラチナ生が話を再開しました。
「うちの寮に入った編入生って、双子なんだろ?」
褐色の肌が特徴の快活なケント・シンクレアが声をかけました。ケントは14歳の大手飲食チェーンの御曹司で、学院のサッカー部ではエースストライカーです。
「仲のいい双子の姉妹だって。それもすごいお金持ちらしいよ。」
ケントの横でゲーム機を持った男の子が、ゲームの画面から顔を上げて言いました。身長は180㎝ですらりと背が高く、片目を長い前髪で隠した大人しそうな男の子は15歳のピーター・マクナリーで、IT企業の御曹司です。
ケントやピーターから少し離れたところに、オレンジの髪をツインテールにしたギャルっぽい女の子と赤いショートヘアの中性的な女の子が話していました。
「フリルのついた服がいっぱいなのよ。それもたくさんのフリルよ。」
ギャルっぽい雰囲気の女の子は15歳のラビニア・ハーバートで、お父さんは音楽プロデューサー、お母さんは世界的女優、お兄さんはシンガーソングライターの芸能一家の生まれで、ラビニア本人もイギリスのティーン向けファッション雑誌「ブリリアント」のモデルです。ラビニアは学院では「赤薔薇様」と呼ばれるプラチナ生の中心人物の1人です。
「彼女たちの靴下は絹製のものもあったね。靴も高級品だったな。」
「あの子たちは男子が言うほどかわいいとは思わないわ。モデルやってるあたしにかなうはずないじゃない!」
「そうだとしたら、あのニコルが彼女たちに夢中になるはずがないよ。きれいさが君とは違うんだよ、彼女たちはね。」
中性的な雰囲気のジェシー・クレイグはラビニアを見つめて、クスリと笑いました。ジェシーは15歳である世界的デザイナーの娘で、その中性的な容姿と凛としたたたずまいから「赤薔薇の騎士」と呼ばれています。
「今日のニコルさん、様子がおかしいですね。普通ならプラチナ寮に編入生が来ることになっても無関心なはずなのに…。」
ブーツをはいた東洋人の女の子が不思議そうに思ったことを話しました。14歳のサクラ・ヨシノはプラチナ生では唯一の日本人で、「吉野流」と呼ばれる生け花の流派の家元の娘です。サクラの言ったことを聞いて、ジェシーもふと疑問を感じました。
「それは確かに妙だね。いつもは冷静沈着なあのニコルが冷静さを描くとは…。」
「ニコルは例の編入生と知り合いだったんだぜ。俺は見たんだ。」
ケントはニコルがセーラたちと話していたところを見ていました。クラウスはケントに向き直りました。
「ケントも見たんだね。…で、編入生の子たちはどうだったんだい?」
「双子だから顔立ちや背格好、服装はよく似てて、すごい美人だったんだぜ!」
「美人ならニコルが魅了されるのもわかるよ。彼女たちはとっても魅力的だから、ニコルのハートをわしづかみにしてるんだよ。」
ケントとクラウスが話していた時、ラビニアが叫びました。
「あんたたち、それしか話題ないわけ!?」
「プラチナ寮にとってもキュートでチャーミングな子たちが入るねと話してたんだ。何か問題あるのかい?」
おどけて言うクラウスに、セーラとローラの話題で気分を害したラビニアはこう吐き捨てました。
「はぁ!?たかが編入生でそんなに騒ぐなんてバカじゃないの?気分悪いから、あたしも部屋に戻るわ。」
不機嫌そうに談話室から出ようとするラビニアの後に続くジェシーはこう言いました。
「ラビニアがすまないね。彼女は嫉妬しているんだよ。私は彼女の部屋にいるから、また何かあったら呼んでくれるかい?」
談話室に5人が残っていましたが、ピーターは言いました。
「今日はここでお開きにしようか。ニコルも言っていたけど、あんまり遅くなると明日起きられなくなるよ。それでプラチナ生がそれでそろって遅刻すると、それこそ生徒たちに示しがつかないよ。」
ピーターの言葉にうなずいて、他の生徒たちもそれぞれ自分の部屋へと戻りました。
ニコルの部屋では、先に入浴を済ませてパジャマに着替えたニコルがベッドに横たわっていました。
「セーラとローラがこの学院に編入することになったんだ。学院の白薔薇としてではなく、俺がしっかりしないとな…。」