17章 卑劣な罠
次の日の放課後、クラウスはガートルードを見つけて声をかけました。
「ルー、今日はいい天気だね。どうしたんだい、そんな顔してたら君のかわいい顔が台無しだよ。」
昨日のことでクラウスを警戒しているガートルードは、視線をそらします。何を話せばいいのかわからないガートルードがとまどっていると、ピーターがそこに来ました。
「クラウス、ルーに何か吹き込もうとしてるの?」
「いや、僕はルーにあいさつをしただけだよ。」
「行こう、ルー。」
そう言ったクラウスを信用できないと判断したピーターは、ガートルードを連れてローズガーデンの方に行きました。テーブルにはケントとサクラがいます。
サクラは心配して、真っ先にガートルードに声をかけました。
「ルーちゃん、昨日はごめんな。クラウスさんに何か言われなかった?」
「サクラ…わたし、ラビニアたちを止めたい。何かあってからじゃ遅いんだもの。」
ガートルードの言葉に思わず喜ぶサクラに、ピーターが言いました。
「クラウスはルーのことも取り込もうと思っていたんだ。ニコルとジャネットは?」
「ニコルさんは見かけないですし、ジャネットちゃんも我関せずみたいでしたし…。」
ケントはそれを聞いて、頭を抱えます。
「もしニコルがここに来てくれたら、俺たちは忠告できるのに!ラビニアたちに気をつけろ、って!」
その会話をジェシーは聞いていました。気付かれないように静かに立ち去った後、ジェシーはこうつぶやきました。
「邪魔が入りそうだな…先手を打っておかないと。」
夕食前の時間にクラウスはセーラとローラに声をかけました。
「セーラ、ローラ、探し物をしているんだ。手伝ってくれないかな?」
「ええ、どこに落としたの?」
セーラがそう言ったので、人気のない倉庫にセーラとローラを連れて行った後、クラウスは言いました。
「ここにあるはずなんだ。僕はこれから夕食だから、その後に応援を呼んでくるね。」
クラウスが去った後、セーラとローラは呑気にこんなことを話しました。
「セーラ、クラウスにどんな落とし物をしたか、聞くのを忘れたわ。」
「クラウスはこれから夕食だから、後で聞きましょう。」
実は、クラウスはこの倉庫に落とし物をしていませんでした。そもそもこの倉庫は人通りが少なく見つかりにくかったから、セーラとローラを誘導しただけでした。
「落とし物をした、なんて言えば簡単についていきやがって…バカな女だ。」
誰にも聞こえないような小声で言っていたクラウスでしたが、ふとラビニアを見つけました。
「ラビニア、セーラとローラは誘導できたよ。ジェシーに言ってくれるかい?」
「わかったわ。ここまではうまくいったわね。」
夕食後、ジェシーはニコルとハリーに声をかけました。
「君たち、セーラとローラに会わせてあげようか?」
セーラとローラのことが心配だったニコルとハリーは、思ったように彼女たちに接触できず、フラストレーションがたまっていました。もしそうじゃなかったら、ジェシーの言葉に潜む悪意に気づくことができたでしょう。この時ジャネットは寮に戻る時、「仕事が終わったら自分の部屋に来るように」と書かれた紙をこっそりベッキーに渡していました。
「わかった、俺たちをセーラとローラのところに連れて行ってくれ。」
ニコルはジェシーにうなずきました。それにハリーが驚きます。
「し、白薔薇様!?待ってください!」
「私は君たちのために言っているんだ。ハリー、君もセーラと積もる話でもあるだろう?」
ジェシーは落ち着いた様子で、ハリーに向き直ります。
「ハリー、ジェシーはセーラとローラに会わせてくれるようだ。お前も話したいことがあるだろう?」
自分たちが騙されていることを知らないニコルはハリーを連れて、ジェシーに誘導されセーラとローラのいる倉庫に入りました。それを確認したジェシーはニヤリと笑い、倉庫の扉を閉め鍵をかけました。
「これで思う存分、一緒にいられるだろう。せいぜい楽しむんだな。」
「騎士様!?開けてくれよ!」
ハリーは気が動転して、倉庫の扉を叩きました。残酷なことに、足音は遠のいていきます。そこで、4人は自分たちが罠にはめられたことに気づきました。
ローラは怖くなって、ニコルに聞きました。
「ここって、人があまり通らないの?」
「ああ、少なくとも一晩は閉じ込められるだろうな。」
ニコルに対して、ハリーは驚きます。
「ひ、一晩!?」
ニコルはこの倉庫があまり使われないことを知っていました。もし、自分たちのような若い4人の男女が本当に一晩ここに閉じ込められたなら、欲望を抑えられなくなるとわかっていました。
「白薔薇様、騎士様についていかなきゃよかったんじゃないですか!?おいらたち、完全にはめられましたよ!」
「落ち着け、そんなこと言われてもだな…セーラとローラはどうしてここに来たんだ?」
パニックになっているハリーをなだめながら、ニコルは質問を投げかけます。それにローラは答えました。
「あたしたちはクラウスにここに連れて来られたわ。落とし物をしたから探してほしいって言われたの。」
それを聞いて、ニコルは思わず考え込みました。
「クラウスがこのような場所に落とし物をするか?…すまない、ハリー。お前の言い分も聞くべきだった。」
「白薔薇様、どうしましょう?外から鍵がかかってますよ。」
「あたしたち、出られないのかしら?」
倉庫の中で騙されたことに絶望する3人に、セーラはこう言って励ましていました。
「わたしたちは魔王に負けて捕らえられた、王女たちとその仲間たちなの。きっと誰かが魔王を倒してくれて、救出してくれると信じているの。」
即興で「魔王に捕らえられた王女一行」の話をしたセーラですが、3人を絶望から救い出しただけでなく、この絶望的な状況も打開しました。ちょうどその時、シンディがこの倉庫の前を通りかかったのです。シンディは倉庫から声が聞こえてくることに気づきました。
「ねぇ、誰かいるの?」
「シンディ!いいところに来てくれたわね。」
「セーラ様!どうしてここに…。」
セーラはシンディになぜ自分たちが鍵のかかった倉庫の中にいるのかを話しました。ニコルもこう付け足しました。
「俺たちを閉じ込めたのはジェシーだ。鍵はたぶんジェシーの部屋にある。」
「はい、わかりました!」
シンディはうなずくと、プラチナ寮の方へ走って行きました。
「え!?セーラ様とローラ様が?」
仕事が終わってジャネットの部屋に行ったベッキーは、おもわず驚きました。ジャネットは続けます。
「はい。彼女たちだけでなく、彼女たちの片割れに恋をするお兄様や白薔薇様も閉じ込められました。おそらくは赤薔薇様と騎士様、それと白薔薇の座を狙うお兄様が関わってくるかと…。」
ジャネットが言い終わらないうちに、ベッキーは部屋から出て、走って行きました。その様子を見て、ジャネットは言いました。
「まぁ、せっかちな方ですね。」
しばらくすると、ベッキーが倉庫の前にやってきました。
「セーラ様!ローラ様!大丈夫ッスか!?」
「ベッキー、わたしたちは大丈夫よ。鍵ならシンディが取りに行ってくれたわ。」
心配してきてくれたベッキーに、セーラは優しく言います。そこにシンディが鍵を持って戻ってきました。
「シンディ!ここがわかったのね!」
「ええ。ニコル様が教えてくださったから、それにこの倉庫から話し声がしたの。」
シンディは近くにいたベッキーと話をしながら、倉庫の鍵を開けました。
「セーラ様!ローラ様!ああ、よかった!マジでどうなるかと思ったよ!」
ベッキーはそう言い、セーラとローラに抱きつきました。
「シンディが気づいてくれたおかげで、あたしたちはここから出られたの。ありがとう、シンディ!」
ローラは嬉しくなって、泣きそうになりました。
「おいらたち、出られたんだ…!」
「そうよ。よかったわね、ハリー。」
「おいら…その、君の話に勇気づけられたよ、ありがとう。」
セーラとハリーは見つめ合って、ほほえみます。ハリーは少し顔を赤らめているようでした。
「まさか、こんなに早く出られるとはな。俺たちからも礼を言わせてもらうよ、ありがとう。」
ニコルも感謝の言葉を述べた時でした。
「何をしているんです!」
突然、懐中電灯の光が当たったので見ると、そこにはミンチン先生が立っていました。
「この倉庫に呼び出して、何かよからぬことでもしていたのね!」
問い詰めるミンチン先生に、シンディは言いました。
「違うんです、彼女たちは倉庫に閉じ込められて…!」
「お黙り!ベッキー、シンディ、部屋に戻りなさい。」
ベッキーとシンディはあわてて屋根裏部屋に戻りました。ミンチン先生が続けます。
「ハリー、ニコルくん、あなたたちはセーラとローラに接触することを、一切禁止します。セーラ、ローラ、お前たちも生徒に色目を使って誘惑しないように。ハリー、今度同じようなことをしたら、あなたの奨学金を打ち切ります。」
「院長先生…俺たちは騙されたんです!信じてください!」
なぜ騙された自分たちがこんなに理不尽な扱いを受けなければいけないのか理解ができないニコルは、爆発したかのように感情をぶつけました。
「ニコルくん、あなたには失望しました。まさか、あなたがメイドに不純異性交遊を持ちかけるとは思っていませんでしたよ。当然、白薔薇の地位も剥奪します。」
そう言ってミンチン先生は、ニコルのブレザーに着けている白薔薇のブローチを外しました。




